7-2
寝台に寝かされたユーディトの顔からは、血の気が失われていた。いつも蒼白な顔色をしている彼女だが、今はまるで色というものが無い。
「医者を呼ぼうか?」
「必要ない」
思わず心配になって声をかけたアドリアンだったが、ジーヴァに即座に否定された。
「力を使い果たして消耗しているだけだ。こうすればすぐに治る」
ジーヴァはそう言うと、目を閉じたままのユーディトの上半身を抱き込むようにして起こし、いきなり唇を重ねた。
「……おい……」
ユーディトの顎に手をかけて口づけを深くするジーヴァを、アドリアンはぽかんと見ていた。そんな彼には構わず、ジーヴァはユーディトとの接吻に没頭する。
何度も角度を変えては延々と続けられた口づけは、ふいに終わった。
「う……ん……?」
小さくうめいて、ユーディトが目を開いた。気付いたジーヴァが体を起こすと、濡れた唇がかすかな音を立てて離れた。
『やっぱり、あなたの精気は美味しいわ、ジーヴァ』
薄赤い舌でぺろりと唇をなめて、ユーディトが笑った。
『最初から私に倒させればいいものを。欲をかくなと言っただろう……』
ため息をついたジーヴァに髪を撫でられて、彼女は機嫌の良い猫のように目を細めた。
「………公女、あなたは、何者なのですか?」
かすれ声で押し出されたアドリアンの質問には、ジーヴァが薄く微笑んで答えた。
「彼女は夢魔の血族さ。ソブラスカ家と我々は、血の契約で結ばれている」
「あーあ、言っちゃった……」
投げやりなユーディトの声に、呆然としたアドリアンのつぶやきが重なる。
「ソブラスカ家が、魔物の家系?そんな、馬鹿な……」
「もう少し眠りたいわ。ドーギュスタン子爵、出て行って頂戴」
「はい……」
うわごとのように「そんなバカな、そんなバカな……」と繰り返しながらふらふらと戸口に向かう男の背を、ユーディトの声が追いかけた。
「そうそう、ドーギュスタン子爵」
「何でしょう、公女」
反射的に振り返って答えたアドリアンに、ユーディトはとどめを刺した。
「バベットのお腹の子ですけど、他の男の種ですわ」
ほーほほほ、と楽しげに笑う声に、アドリアンはさらに大きくよろめいた。




