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6-3

「リールゥ、リールゥどこ?」

 彼女がまだ近辺をうろうろしていることを祈りながら、廊下に出たユーディトは気まぐれな夢魔を呼んだ。

「いるなら出て来て頂戴! 今度、あなたの気が済むまで、着せ替え人形になってあげるから!」

 聞こえているなら、これが一番の餌だ。

「ほんとっ、ユーディ? それじゃ今度はウチカケを着てみせて! ユーディの髪は日本女性(ジャポネーズ)みたいに黒くてつやつやだから、きっと似合うわよぉ」

 目をキラキラさせて、リールゥが現れた。ユーディトはほっと息をついた。幸い、近くにいたようだ。

「リールゥ、ドレスよ!」

「え? ユーディ、キモノは嫌?」

 勘違いをしている彼女に、ユーディトは詰め寄った。

「違うわ。あなたが着ていた灰色のドレス! あれ、肖像画で見たって言ってたわよね? どこで見たの?」

 ちょっと考えると、リールゥはぽん、と手を打った。

「ああ、あれね。この上の階の大きい寝室よ」

「案内して!」

 身を翻して空中を泳ぎだしたリールゥの後を追って、ユーディトは走り出した。

「先に行っているぞ」

 行き先に見当が付いたのか、ジーヴァは姿を消した。

 ユーディトにも、どの部屋に向かうのか予測はついた。城内はほぼくまなく見て回ったが、唯一、彼女の感覚に引っかかったのは、あの部屋だけだった。

 闇に沈むジュヌヴィエーヴの寝室に入ると、ユーディトは目を見開いた。

 天蓋付きの寝台の向かい。鈍く光る金縁の額の中。

 彼女の目に映ったのは、花瓶に生けられた花束の絵ではなく、精緻な意匠のドレスを纏った婦人の肖像画だった。

「ほら、この絵よ。素敵なドレスでしょう?」

 得意げにリールゥが指し示した。

 前回この部屋に入った時は、まだ日が沈みきっていなかった頃だった。そして暗くなってからは、ジーヴァとアドリアンの遣り取りに気を取られていた。

 だから花の絵の下から見えている、彼女の姿に気付かなかったのだ。

 絵に魔物を封じ込んだ後、絵師に上から別の絵を描かせたか。いずれにせよ、普通の人間の目には、この額はただの花の絵だ。

 場所が特定できた今、その絵から滲み出る気配は、間違えようの無いものだった。

(絵から叩き出してあげるわ……)

「ジーヴァ、この絵を壊して頂戴」

 物も言わず、夢魔は右手を振り下ろした。

 びぃいーん、と楽器の弦が切れたような音が響いて、ごう、と風が起こった。

「よくぞやってくれた、夢魔の姫。礼を言おうぞ」

 驕慢な声が響いて、ゆらり、とユーディトの前の空間が歪んだ。

 灰色の髪と瞳を持つ美しい貴婦人が、先日のリールゥのものと寸分違わぬドレスを纏って、目の前に降り立った。

「年月を経た死霊だな。」

 ジーヴァの言葉に頷く。

「あなたが灰色の婦人(マダム・グリ)ね」

「いかにも」

 鷹揚に頷くと、彼女は一歩近付いた。横でジーヴァが身じろぎしたのが気配で分かった。


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