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4-5

12/22 セリフの句読点スタイルを修正しました。

 客間に戻ったユーディトが、着替えの前に一息ついていると、扉が叩かれた。

 応対に出たジーヴァが、意外そうな顔をした。

 もう着替えを済ませたか、そこには派手な晩餐用のドレスを着た、バベットが立っていた。

「まあ、マドモワゼル・シュヴェイヤール。どうなさいましたの?」

 一応はにこやかに、ユーディトは話しかけた。

公女(プランセス)、前触れも無く訪問する不躾をお許し下さい。どうしてもお話したいことがありましたの」

 言葉遣いこそへりくだっていたが、彼女の顎はつんと反らされている。

 ぴくり、とユーディトは片眉を上げたが、それでも笑顔は崩さずに、彼女を招じ入れた。座ったまま、席から立とうとはしなかったが。

 バベットが向かいに座るのを待って、ユーディトは彼女に視線を向けた。

「お話を伺いましょうか」

「単刀直入に申し上げますわ。アドリアンには今後一切近付かないで下さいまし、公女」

「それはわたくし自身、願っていることですわ」

 艶やかに笑って言い切ったユーディトに、バベットは虚をつかれたような顔をした。

「……どういうことですの?」

「わたくしはこちらには、子爵の()()()()お願いで、仕方なく来ておりますの」

 本当に、アドリアンの「お願い」さえ無ければこんな城、放ってとっとと帰りたいのに。

 さっとバベットの顔色が変わった。

「よく分かりましたわ。これ以上、お話することは無いようですわね」

「同感ですわ。ごきげんよう、マドモワゼル・シュヴェイヤール」

 憤然とした足取りでバベットが去ると、それまで黙っていたジーヴァが口を開いた。

「デザートにネコイラズを入れられるぞ」

「この間の事は、彼女がやったと思うの?」

「さあな。可能性は無きにしもあらずだ。理由は分からないがな」

 それなら、痴情のもつれあたりが妥当な線だろうか。

 そんなことを考えながら、ユーディトは呼び鈴に手をのばした。リールゥはどこかに姿を消しているし、着替えを手伝ってくれるメイドが必要だ。

「婚約者殿に宣戦布告か?」

 彼女の手を、ジーヴァの声が止めた。冗談めかした口調だったが、不機嫌な響きが混ざる。

「まさか。売り言葉に買い言葉よ」

「私には、同じ意味に聞こえるが」

「違うわ。全然違うわ……」

 いつもはゆったりとしている彼の気配が、今は少しとげとげしい。

 立ち上がったユーディトは、ためらいがちに彼に近付いて、彼の右の手を取った。相変わらずひんやりとした手だ。そのまま、それをそっと自分の頬に押し当てた。

「わたくしは、あなたのものよ、ジーヴァ……」

(だからお願い。あなただけは側にいて。)

 言葉に出来なかった彼女の懇願が通じたのか、ふっ、とジーヴァの気配が和らいだ。

「……そうだな。つまらないことを言った」

 彼のもう片方の手も、ユーディトの頬に添えられた。

「ジーヴァ」

「ん?」

「わたくし、着替えないと」

「今日はもう行くのはよせ。どうせ座っているだけだろう?それに今、あのバカ殿の顔を見るのは我慢ならん」

 明らかにすねているジーヴァの顔に、思わずユーディトはくすりと笑った。

「分かったわ、ジーヴァ。あなたとここにいるから、ヤキモチは焼かないで頂戴」

 夢魔の形の良い唇が近付くのを見て、彼女は長い睫毛を伏せて安堵した。


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