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4. 後に残される者

12/22 セリフの句読点スタイルを修正しました。

 期待に反して、アドリアンは死ななかった。

 雨の中を駆け付けた主治医曰く、食事に入れられた毒はただのネコイラズ、つまり殺鼠剤だという。さほど量を食べていなかったため、命に別状は無いとのことだった。

「殺しても死なない、ってこういうことを言うのね……」

 部屋に来た執事からそう報告を受けたユーディトは、寝椅子に落ち着くとしみじみと言った。時刻は深更をとっくに回っていた。

「同感だな」

 彼女の座る寝椅子の背に軽く寄りかかって、ジーヴァは同意した。左手を、ユーディトの背を流れ落ちる黒髪にのばす。今日は結局、一度も髪を結い上げなかった。

「お前が口にしなくて良かった」

「あの男以外は誰も食べていないわ」

 ネコイラズは全員の主菜に入っていた。だがバベットも食欲が無かったようで、スープは口にしていたが、主菜には手を付けていなかった。

 毒はアドリアンを狙ったものだろう。ユーディトが食事に手を付けないことはもう知られているし、ほとんど部屋にこもっているバベットや、今日現れたばかりのジーヴァを狙ったとは考えにくい。

「きっと女の恨みよぉ」

「リールゥ」

 今回も突如空中に現れたサキュバスは、はしゃいだ声で言った。

「その格好はどうしたの?」

 銀の髪に合わせたのか、今夜のリールゥは銀鼠色のドレスを着ている。胸元やスカートに金属光沢のあるビーズが沢山縫いつけてあるので、ガス灯の明かりをキラキラと反射する。

「これ? ここにあった肖像画で、誰かがこんなのを着てたのよ。似合う?」

 浮いたまま、くるりと回って見せる。

「似合うけど……」

 ドレスの形が、少し時代がかっている。

「ね、ユーディも今度こういうのを作りなさいよ。あ、もちろんラインは今風にしてね、それから、色はもう少し淡い方がいいかしらね」

「はいはい」

 デザインを仕立屋に伝えるのは面倒なのに。

 気の無さそうなユーディトの返事は意に介さず、リールゥは手にした扇をぱちんと閉じると、話を元に戻した。

「きっと、彼が手を付けた使用人が毒を盛ったのよ」

「それは台所情報?」

 ジーヴァと違って、リールゥは根っからのゴシップ好きだ。人のふりをしてソブラスカ公爵夫人として生活した期間が長いからだろうか、彼女はお喋りとお洒落をこよなく愛する。

「いーえ、私の推理だわ。使用人部屋は、子爵とユーディとジーヴァの三角関係説で持ちきりだわ」

「やだ、何それ?」

「バベットに飽きた子爵がユーディにちょっかいを出して、それで愛人のジーヴァが毒を盛った、ってことになってるわ」

「大体間違ってない理解だけれど、ジーヴァのはずがないのに。失礼だわ」

 面白く無さそうなユーディトを、リールゥは不思議そうに見た。

「どうしてそこでユーディが怒るの?」

「だってジーヴァなら、もっと良い毒を使うわ。クラーレとか、ジギタリスとか」

 どちらも、ネコイラズ如きとは格が違う猛毒だ。

「そういうことだ」

 ゆったりとジーヴァは笑った。

「理由なんかどうでも良いから、大人しく毒殺されてくれれば良かったのに……」

「全く、悪運の強い男だな」

 小さく唇を尖らせたユーディトの髪を、ジーヴァは味わうように口づけた。


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