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12/22 セリフの句読点スタイルを修正しました。
結局、夕食の時間が近付いていたので、残りの調査は明日、ということになってしまった。
その日の晩餐には、バベットも顔を出した。今日は具合が良いとのことだ。
ジーヴァの存在をアドリアンに知られてしまったので、今晩は彼も人間のふりをして席についている。ジーヴァの人とは違う目を誤魔化すための眼鏡は、アドリアンが用意した。
ユーディトの向かいに座る金髪の美青年に、オーギュスタン家の老練な執事は、ほんの僅かだけ表情を動かした。ジーヴァを、年若い公女の愛人か恋人とでも思ったのだろう。
彼の反応を見逃さなかったユーディトは、薄く口元に笑いを刷いた。もう一つ客間を用意するように、とアドリアンが指示を出していない以上、当然の解釈だ。
(どうでも良い事だわ)
貴族の間では、愛人など珍しくもない。
夜になって雨脚が強くなった。風の加減で時々、ざあっと水滴が窓に打ち付けられる音が食堂に響く。
今夜も食事には手を触れないユーディト同様、ジーヴァもワインだけを口にしている。もちろんユーディトは、後でデザートだけは食べるつもりだ。
「公女ソブラスカ、昨夜はご挨拶出来ず、大変失礼いたしました」
アドリアンの婚約者、バベット・シュヴェイヤールは、金髪碧眼の美しい娘だった。華やかなドレスに包まれた下腹部は、まだそれほどせり出してはいない。
五ヶ月くらいだろうか、とユーディトは目算した。
「いいえ。こちらこそ、お加減が優れない時にお邪魔してしまって、申し訳ありませんわ」
「お城の中は見られまして?」
彼女には、ユーディトは灰色城館を見学するために訪問した、とだけ知らされている。彼女がユーディトのことをどう思っているかは知らない。メイドの噂話くらいは聞いているだろう。
「旅の疲れが出てしまいまして、あまり。明日、ゆっくりと見させていただきますわ」
「そうなさって下さいまし。ご一緒できなくて申し訳ありませんわ」
「どうぞお気遣いなく」
少なくとも表面上は和やかに、女性二人が笑みを交わそうとした時、がちゃん、とグラスの割れる音がアドリアンの席の方からした。
「バベット、食べるな。毒だ……」
蒼白な顔で言葉を押し出すと、アドリアンの体は、がくん、と仰のいた。




