第055話 もっと心を広くしな
話を終えたヨモギちゃんがキャンピングカーから出ていったため、この場には私とミサとリースの3人になった。
「とりあえず、時間稼ぎは出来そうです」
私は2人に結果を報告する。
「お疲れ様です。とはいえ、急いだ方が良いでしょうね」
リースがねぎらいの言葉と共に提案してきた。
「リースに操縦してもらって、ヘリで行きましょう。森に近づいたら車に乗り換える形がいいと思います」
ミサも提案してくる。
「それでいきましょう。出発は明日にします。メンバーは私達と東雲姉妹」
「ひー様、東雲姉妹はやめた方がいいような……」
ミサが東雲姉妹を連れていくのに反対してきた。
「なんで?」
「いや、ハーフリングって臆病なんですよね? 東雲姉妹はマズいような……」
「うーん……でも、私の護衛だし、もし、女神教と戦闘になったらナツカとフユミが必要でしょ?」
「まあ、そうなんですけどね。ハーフリングが怖がりません?」
うーん、でも、ああいうバカって信用されやすいからなー。
「一応、連れていきませんか? ここに置いておくのもなんですし……」
リースが言うように監視の目がないと何をするかわかんないからなー。
絶対に皆の邪魔しそう。
「やっぱり連れていくわ」
「わかりました。では、このことを伝えに行ってきます。確か、平原でしたね」
「そうね」
平原で遊んでくるって言ってた。
ミサは立ち上がり、キャンピングカーから出ていく。
この場には私とリースの2人となった。
「リース、ドワーフの事で相談があります。実はね…………」
私はリースに氷室の言っていたことを伝える。
「…………ということなの。どう思う?」
「不本意ですが、私も氷室の言うことに賛成です。ドワーフは確かにそういう種族です」
やっぱりか……
「どうするべきかな?」
「いくつかありますが、やはりドラゴンをどうにかするべきでしょう。ドワーフがこんなに強気なのはドラゴンがいるからです。まさに虎の威を借りる狐ってやつですね」
狐っていうと、ヨハンナが浮かんでしまうな。
関係ないけど。
「ドラゴン……勝崎の戦闘機で潰す? ドラゴンは危険だって言いふらしてさ」
害獣駆除みたいなもんだ。
「それも1つの手でしょう。ドラゴンがいなくなれば、女神教が動きます。後は女神教が処分してくれるでしょう」
「だよね」
「ですが、危険もあります。それだけドラゴンは強いのです。勝崎を失うわけにはいきません」
そんなに強いのか……
確かに勝崎は失えない。
私の子だから当然、失ってはいけないのだが、それと同時に戦力的にも厳しくなる。
「うーん、どうしよっか?」
「生徒達を使いましょう」
「生徒? 冒険者の方? それとも神殿の方?」
「神殿の方です。えっと、陽キャグループでしたっけ? 月城さんや生徒会長さんがいるグループです。氷室も入れて、3人で誘導させるんです」
まあ、氷室はともかく、生徒会長や月城さんを使えば、誘導は出来るだろう。
「でも、何て言って、誘導させるの?」
「実は転移の魔法は物でも代用できるのです。その材料の1つがドラゴンの魔石です」
「え? 物で転移できるの?」
「はい。母が書いた魔法書があります。それを氷室に送り、陽キャグループに流しましょう。そうすれば、動きますし、女神教も援護するでしょう」
女神教としても、ドラゴンが消えてくれるなら万々歳か……
停戦したと言っても、女神アテナが亜人を嫌っているのに変わりはない。
「それは良い手ね。それでいきましょう」
「では、早速、魔法書を送りましょう。誰かに送らせないと……誰が良いですかね?」
「大丈夫よ。私に任せなさい! 実は私は新しいスキルがあるの!」
ふっふっふ。
「新しいスキル? 何です?」
「転送っていう物を送れるスキルね」
私の絶対神の天授は私が人間時代に触った物しか出せないし、送れない。
だが、このスキルは違う。
私が触っている物を送るスキルである。
私はこれを使って、スマホや写真を氷室に送ったのだ。
「いいですね。では、それでいきましょう。あ、こちらがその魔法書です」
リースがどこからともなく、本を出してきた。
「あんた、前もそんな感じで物を出してたけど、何それ?」
「収納魔法です。便利ですよ?」
そら、便利だろうね。
「あんたって、すごいのねー」
「そうです?」
リースがドヤ顔をする。
こいつって、すぐドヤ顔をするな。
まあ、かわいいとは思うけど……
「じゃあ、氷室に連絡を取るわ」
私は目を閉じた。
『氷室、氷室』
『何でしょう? 作戦は決まりました?』
氷室は用件がわかっているようで、早速、本題に入る。
『ええ。陽キャグループを使います。実はね…………』
私はリースから聞いた転移魔法のことを説明し、決まった作戦を氷室に伝えた。
『なるほど。良いと思います。ですが、そもそもの話なんですが、ドラゴンに勝てるんですかね? あいつら、強いスキルを持ってますけど、戦闘経験がほとんどないですよ?』
え?
『ちょ、ちょっと待ってなさい!』
私は一度、お告げを切った。
「リース、陽キャグループって、ドラゴンに勝てるかな? 戦闘経験がほとんどないらしいんだけど」
「あー……うーん、微妙です。一応、女神教も軍を出すとは思います。女神教は兵を資源としか思っていないでしょうし、いくらでも補充できますからね。人海戦術で倒せるとは思うんですけど……うーん、氷室が鍛えては?」
それでいくか……
「わかったわ」
私は頷くと、再び、目を閉じた。
『氷室、氷室!』
『はいはい、聞こえていますよ』
『お前、結城君達を鍛えなさい』
『まーた、やるんですか? 以前もやったんですけど』
すでにやってたのか……
『もっと鍛えなさい。おそらくですが、結城君達もお前を頼るでしょう。また、そうなるように生徒会長と月城さんに誘導させなさい』
『ハァ…………まあいいですけど、それよりもあいつらを強くしすぎると、俺らの脅威になりません?』
『わかっています。ドラゴンを始末したら結城君達にも退場してもらいなさい。毒を使った暗殺でもいいし、背中をブスーでもいいです。方法はお前に任せます』
氷室はこういうのが得意だ。
また、生徒会長はともかく、月城さんを使えば、いくらでも油断は誘える。
『了解しました。その時までに暗殺計画を練っておきますので、その時になったらまた物資をお願いします』
私は毒も出せるのだ。
『わかりました。お前に言うまでもないですが、気を付けるように。そこは敵地ですからね』
『わかってます。今さらですね?』
まあ、ずっとそこにいるしね。
『お前はどうとでもなるでしょうが、月城さんのことを気にかけなさい』
『ああ、そういうことですか……確かにあいつは厳しいでしょうね。運動神経は悪くないんですが、戦闘向きではありません』
『最悪は月城さんを抱えてでも逃げなさい。ヘリを出します』
『ひー様のスキルってこっちから連絡を取れないんですかね?』
痛いところをついてくるな……
『ごめんなさい。お告げは一方的なものですから』
『まあ、そうですよね。お告げなんですから』
『私の神としての力が上がれば、他にもあるかもしれません』
私は信者の数も少ないし、神としては最下級だからなー……
ちょっとへこむ。
『すみません。困らせるつもりはなかったんです。とりあえずは定期的に連絡をください。それぐらいの時間稼ぎは出来ますし、俺も一応、秘密基地的な隠れ家は作っています』
秘密基地だって!
すげー!
『最悪はそこに逃げ込めばいいわけね?』
『ですね。数日は見つからずに済むと思います』
『それでいきましょう』
『了解しました』
私は氷室との通話を切り、目を開ける。
「氷室に指示を出したわ」
「いいと思います。あいつは能力だけはありますからね」
だけ、ね。
「そんなに嫌い?」
「あいつ、私のことをレズ女って呼んできたんですよ。死ねばいいのに……」
え?
合ってんじゃん。
「違うの?」
「違います。私は男が嫌いなだけです。特にそういうことをする男ですね。勝崎は殴っておきました」
…………こいつ、ひどいな。
勝崎とあのエルフちゃんは無理やりでもないし、今も普通に付き合っているはずだ。
だったら別にいいじゃん。
というか、皆に薬を盛ったのは私……
ちょっとリースには教育をした方が良さそうだな。
少しずつ、矯正していこう。
このままではリースがお局様になってしまう。




