第045話 救出!
私とリースは魔法使いを瞬殺し、領主がいる寝室への扉を開けた。
寝室はかなり広いが、薄暗い。
中央には豪華なベッドがあり、そこには複数の人影が見えた。
「なんだ? 入るなと言ったはずだぞ」
男はこちらをまったく見ずに文句を言ってきた。
どうやら、領主はお楽しみに夢中で襲撃に気付いていないようだ。
私達は開けた扉を閉め、中に入ると、歩いてベッドまで近づく。
薄暗くて、よくわからなかったが、ベッドに近づくにつれ、ベッドの上の様子が見えてきた。
ベッドの上にはデブと白くて美しい身体の女性が2人ほど、何の服も着ずにそこにいた。
女性2名は美しい顔立ちをしており、耳がとがっている。
そして、首には首輪が装着されている。
間違いなく、奴隷のエルフだ。
「何の用だ? 火急か?」
デブはまだ私達に気付いていない。
だが、エルフ2人は私達に気付き、目を見開いた。
その様子を見たデブがこちらを振り向く。
「ん? なっ! 貴様らは何者だ! 衛兵! 衛兵!」
デブはようやく私達に気付き、衛兵を呼ぶが、誰も来ない。
ここに来るまでの間に兵士はすべて始末しているし、援軍も東雲姉妹が抑えている。
もうこの部屋にやってくる兵士はいない。
「こんにちは、領主様。実は私はそのエルフを譲ってもらいに来たんですよ」
私は優しく声をかける。
「貴様、幸福教団のヒミコだな! 何故、ここにいる!? ブルーノはどうした!?」
ブルーノ?
もしかして、魔法使いさんかな?
「邪魔なので死んでもらいました。ここには誰も来ませんよ」
「バカなっ!? 大金を積んで雇った魔法使いだぞ!」
知らねーよ。
リースのマシンガンで瞬殺だったし。
「私の前に敵はいません。さあ、エルフを私に譲りなさい。さすれば、命は助けてあげましょう」
嘘ぴょん。
というか、私が命令しなくても、リースが殺すと思う。
「ふざけるな!! 異教徒共が! この私を舐めるなよ!!」
デブはそう言うと、ベッドから降り、詠唱を始めた。
魔法を使うのだろう。
このデブが魔法を使えるというのは意外だが、目の前に敵がいるのに詠唱を始めるのはバカすぎる。
あと、キモいからその汚いモノを隠せ。
デブが私達に嫌なモノを見せつけながら詠唱を始めると、リースの顔が無表情になった。
リースはデブの前まで歩くと、詠唱をしているデブの顔面をハイキックで蹴る。
「――がっ!! な、何をする!?」
顔を蹴られたデブはその場で膝をつき、リースに抗議した。
「死ね」
大嫌いなモノを見せつけられたリースはガチギレしており、さらにデブを蹴り飛ばした。
デブは顎を蹴り飛ばされ、数メートルも吹き飛ばされる。
私は死んだんじゃね?と思ったが、デブはなんとか上半身を起こした。
だが、フラフラだ。
私はとりあえず、デブを放っておき、ベッドの上でお互いの身体を隠すように身を寄せ合っているエルフに近づき、抱きしめる。
「もう大丈夫です。お前達には私がついている」
私は2人を抱きしめ、そう言ったのだが、返事がない。
「…………ん?」
私は返事がないのに不審に思い、エルフの2人を見ると、2人は口をパクパクさせているのだが、声が出ていない。
「奴隷の首輪で声を出すなと命令されているのでしょう…………ひー様、どいてください」
リースがそう言ったので、私はエルフを抱くのをやめ、ベッドから降りる。
すると、今度はリースがベッドに上がり、エルフに手をかざした。
「ディスペル!」
リースが何かの魔法を発動させると、2人の首についている首輪が取れる。
「――え? こ、声が出せる!」
「奴隷の首輪を解除できるなんて…………」
2人は自分達に首をさすりながらリースを見た。
リースはそれに答えずにベッドを降りる。
よし! テイク2!
私は再び、ベッドの上がると、エルフ2人を優しく抱きしめた。
「もう大丈夫です。お前達には私がついている」
「は、はい。ありがとうございます!」
「助かりました。感謝します!」
今度は2人共、声を出して、感謝してくる。
「さあ、身体を拭いて、これに着替えなさい」
私は2人から離れると、スキルで濡れタオルと学校の体操服とジャージを出し、2人に渡した。
「ありがとうございます。幸福の神に感謝を……」
「この恩は一生忘れません」
2人はそう言って、私に向かって祈りだす。
それと同時に私の信者リストにユリアとテレーゼの名前が加わった。
エルフ2人は私の幸福を求めたのだろう。
「早く着替えなさい。すぐに脱出します」
「はい!」
「わかりました!」
2人は濡れタオルで身体を拭き、服を着だした。
私はエルフ2人を放っておき、ベッドから降りると、いまだに四つん這いになっているデブのもとに向かう。
「さて、確かにエルフは頂いていきます」
私がデブを見下ろしながら告げると、デブが私を睨んできた。
「貴様ら、こんなことをしてただで済むと思っているのか!?」
それ、私のセリフだわ。
「どうなるんですか?」
「すぐに女神教の騎士団がお前らを討つだろう! この屋敷から逃げられると思っているのか!?」
ヘリで来たから大丈夫でーす。
転移が使えるので大丈夫でーす。
「それは怖いですね……」
私がそう言うと、デブはいやらしい笑みを浮かべる。
「今なら許してやるから降伏しろ。安心しろ。女神教には渡さんし、殺しもしない」
ゲスい男だわ。
「お前、神に向かって何を言っているのです?」
「神だろうと何だろうが知るか! お前もそっちの娘も奴隷ではなく、特別に妾にしてやるぞ」
わーい! やったー!
…………とでも言うと思ったのだろうか?
「……………………」
私は無言でハンドガンを出すと、男の目の前の床に向かって引き金を引いた。
「ひっ!!」
私が銃を撃つと、デブは思わず悲鳴をあげ、のけ反った。
汚いモノを見せるなっちゅーに……
こちとら、華のJKよ?
「まったく……このヒミコを妾にしようとするとは罰当たりな…………本来なら処刑ものですが、お前にチャンスをやろう」
「ちゃ、チャンス?」
デブは懇願する目で私を見てくる。
「他のエルフの奴隷を知りませんか?」
「し、知らない……」
私はデブの顔に照準を向けた。
「ほ、本当に知らないんだ! そいつらだって、ようやく手に入れたものなんだよ! エルフは滅多に奴隷市場には流れないんだ!!」
本当みたいだな……
しかし、“もの“ねー。
「私の子をもの扱いしますか……」
「ひっ!! ち、違うのだ!! そ、そうだ! 女神教の情報を教えよう! だから見逃してくれっ!!」
情報ねー……
まあ、聞いてやろう。
「続けなさい」
私は照準を向けたまま、話の続きを促す。
「め、女神教は東部の森を焼くことにしたらしい。ハーフリングを貴様らに取り込まれる前に森ごと焼却処分するそうだ」
ひっで……
でも、いい手ではある。
ハーフリングは他の亜人と違って、そこまで強くないそうだし、森を焼けばそれで終わる。
「北のドワーフは?」
「ドワーフとは秘密裏に停戦条約を結んでいる」
は?
「停戦条約? ドワーフは女神アテナが嫌いな亜人でしょ?」
「ドワーフは数も多いし、強い。何より、北の山のドラゴンがいる限り、軍を派遣できないんだ」
それは聞いたな……
だから私はドラゴンを潰そうかなって思っているのだ。
そうすれば、ドワーフは私に泣きつくしかなくなる。
「それで停戦ですか……」
「表向きはだがな。裏では精鋭を潜入させ、潰す計画を計画中だ。要はハーフリングや貴様らを潰すまでの時間稼ぎ。そして、ドワーフの作る上質な武器を輸入し、戦力を強化しているのだ」
うーん、ドワーフってバカなのかな?
ハーフリングや幸福教団が潰されれば、次は自分達の番ってわかりそうなものなのに。
それなのに武器を輸出しているのか……
まあ、ドワーフ側も資金が欲しいのかね?
「なるほど、なるほど……それは確かに良い情報ですね」
実に良い情報だ。
これで私も作戦を練れるというもの…………
「だろ? な? 助けてくれ!!」
私は懇願してくるデブに照準を向けるのをやめ、銃を消した。
そして、デブに背を向け、服を着終えているエルフ2人のもとに向かう。
私がそのまま歩き出すと、すぐに後ろに控えていたリースとすれちがった。
「殺せ」
私が命令すると、リースがマシンガンを構え、連射する。
「……な、なんで……? や、約束が、違う…………」
私の後ろからくぐもったデブの声が聞こえてくる。
「リース、私、約束なんかしました?」
「いいえ、していません。幸福教団の同志を傷つける者は問答無用で死刑です。ましてや、ひー様を妾などと…………そのような不敬は万死に値します!」
その通り。
あんなゴミの中のゴミは生きているだけで反吐が出る。
「さあ、さっさとこんな所を出て、帰りましょう。2人共、行けますか?」
私はジャージ姿のエルフ2人に声をかける。
「は、はい」
「あのー、どこに行くんですか?」
「南部の森です。嫌ならば、メイド好きな男のもとでメイドをしてもいいですよ? すでにエルフが1人いますし」
ランベルトのメイドが増えるかな?
「いえ、森が良いです」
「私も」
だよね。
エルフならば、普通は森が良いだろう。
ヴィルヘルミナが変なんだ。
「では、帰りましょう」
私達は部屋を出ると、来た通路を引き返していく。
その間、敵が出ることがなかったため、東雲姉妹がちゃんと階段を抑えているのだろう。
私達はそのまま安全に進むと、屋上まで戻ってきた。
屋上ではミサが一人で待っている。
「おー! 救出成功ですか?」
ミサがジャージ姿のエルフ2人を見て、喜んでいる。
なお、ユリアとテレーゼはヘリを見て、完全にビビっていた。
「ですね。2人をヘリに乗せなさい。リースはいつでも飛べるよう準備を! 東雲姉妹を呼び戻します!」
私はミサとリースに指示を出すと、目を閉じる。
『フユミ、フユミ』
『わははー! さっさと上がってこんかい! ハチの巣にしてやるぞ!』
テンション高っ!
『フユミ、落ち着きなさい。応答をするのです』
『食らえー!! パイナップルアターック!!』
ダメだ……
全然、聞こえてない。
やっぱり姉だな……
『ナツカ、ナツカ』
『トイレ行きたいなー……おしっこ行きたい』
ナツカはトイレに行きたいようだ。
しかし、姉妹でテンションが全然、違うな……
『わっ!!』
『いや、漏らさねーから……ちゃんと聞こえてますよー』
つまんない……
『ナツカ、エルフの救出に成功しました。ほどほどにして上がってきなさい』
『トイレに行ってきていいです?』
『我慢しなさい。もしくは漏らしなさい。着替えなら用意します』
『お漏らしってあだ名がつくから嫌。我慢する』
フユミにめっちゃ言われるだろうな……
『帰還してからトイレに行けばいいでしょ。さっさとフユミを止めて、戻ってきなさい』
『了解です!』
私はお告げを切り、目を開けた。
そして、ヘリに乗り込む。
ヘリに乗り込むと、リースが操縦席に座り、後ろにはミサと震えながら抱き合うエルフ2人がいた。
かわいそうに……
さぞ、怖い目に遭ったんだろうね……
「あ、あの、ヒミコ様、これが空を飛ぶって嘘ですよね?」
「そ、そんなわけないですよね? これ、鉄ですよね?」
ヘリが怖かったようだ……




