70 敬愛
酒樽は心晴少年の身長と同じ大きさだった
当然持ち上げてもビクともしないで苦戦してる俺にミヤコが手伝おうと駆け付けるが
一手遅くミキョシィが一緒に持ち上げて助けてくれた
「ミキョシィって力持ちなんだなぁ」
「放浪の民の自給自足の生活を舐めちゃいけないよ! 私にも手伝わせて!」
遠くでむくれているミヤコ そんな彼女を見て笑っているマスターはカルカロドンに気を配る
「お前がしなくて良かったのか? ホズミナは親代わりだったんだろ?」
「その親を殺そうとしたんだ 朕にその資格は無い」
「……すまなかったな」
「何故マスターが謝るんです……」
「まさかウォード族が人を殺してまで手に入れる価値がある種族だとは思っていなかったんだ
街市長の稚拙な印象は前々から知っていたが チッ…… まさか人を殺めるほど抑制できないとはよ」
「酒を入れ過ぎですマスター…… 現場の俺がもうちょっと…… もうちょっとしっかりしてれば……
頭の中では色々算段はついていたんです 成り行きで投獄されようなら檻から逃がす心構えも出来ていた
……なのに最後は呑まれてしまった 建前など気にしなければ救えた命なのにぃ……!!」
互いに反省し合うギルドマスターとカルカロドン
カルカロドンの本音が俺のもとまで届くのには随分と時間が掛かった
だけどお墓に酒をぶっ掛けてる俺に今伝えても どうにもならなかっただろうな
「家族の為に直す所は全部直したんだ……
酒も暴力も女癖の悪さも なのにもう会えねぇんだ
鱈腹飲んで フラフラ煙の様に安らかに逝けや…… あばよ旧好」
お墓に酒を垂らした所為ですっかり墓石が酒臭くなってしまった
俺が住んでいた世界でもこういう水受けから墓に水を掛けることがあるのだが
酒とは随分とギルドらしく なんとも不謹慎な形になってしまった
だけど気分は異常なまでに清々しく 漂うアルコールの匂いが俺に哀愁を運んでくれる
「……僕を仕事に誘ってくれてありがとう ホズミナ」
ホズミナ・ランドール・カーディオ 享年30歳
故郷の地にて 永年を共にした仲間に見送られ眠る