6 生身の獣人一人に、蛙は空の青さを知る
閉じた目を再び開けば
巨大な大蛇は丸焦げ状態で仰向けになっている
近くにはミヤコの姿が 付き添っていた大蛇の子供達に頭を下げていた
「貴方達のテリトリーを荒らしてごめんなさい
貴方達のお母さんを殺してごめんなさい」
何度も何度も子蛇達に平謝りしており
納得してくれたのか 子蛇達は元の場所に帰っていった
そしてミヤコは俺のもとへ
「……」
「帰りましょう…… 心晴……」
「っ……」
初めてミヤコは俺の名前を呼んだ
握った手は力強く 一言も話し掛けてはくれず
家に辿り着くまでに半ば強引に俺を引っ張って行く
俺はこの一瞬の出来事で 多くの情報が心に流れたことを覚えている
ミヤコはおそらく頭が良いだけでなく 力もあることを
動物と話せたり その上で操ることが出来たりと
家の中に入ると さっそく椅子に座らされた
ミヤコも椅子を持ってきて 自分と対に座る
「言葉足らずでした…… 今回は私の注意不足でしたね」
「ミヤコってすげぇんだな あんな化け物倒すなんて」
「……」
当時の俺はミヤコの表情を汲み取ってやれなかった
それでもミヤコは冷静に 丁寧に話してくれる
その時の自分が 難しい話を理解していなくとも
「この森は全域を円形に三つに分けて三種の動物達の縄張りになっています
この家よりすぐには大蛇の巣が その奥には怪鳥の巣が
さらにその奥には巨熊の巣があります
私がここに来るよりずっと前に生息している動物達です
森の外にいる人達はここには寄りつきません
それだけ危険なのです」
「……でもミヤコが守ってくれるんだろ?」
「……あの子蛇達は母親 つまり住処を守る主を失いました
心晴君に私の助けが必要だったように
子蛇達にも母親がいなければ他の種に食べられてしまうんです
そうなってしまった事実を どうか頭の隅に置いていて下さい」
「……分かんないよ 生きてるのに喜んじゃ駄目なの?」
「……」
ミヤコは俺をそっと抱き締めてくれた
「無事で良かったわ…… 生きていてくれてありがとうお兄ちゃん……」
「……今度は俺も一緒に町に連れてってくれよ
ミヤコのそばを離れないって絶対約束するから」
「そうね…… そこはちゃんと考えておくわ」
大蛇を退治してくれたミヤコに頭が上がらなかった
だけどミヤコが教えてくれた難しい話は今になって理解出来る
もしも蛇と俺が逆だったら 心配してくれたミヤコはこの先
そう思うと少しだけこのときの自分に
人を思いやるという倫理観が強く育つ一日であった