5 一面緑の向こうには?
朝食を終えて ミヤコが買い物に行くと告げると
帰ってくるのは決まって日が沈む時刻だった
待っている間は特にすることが無い俺は
ただソファーの上に寝っ転がり
カラクリ時計の人形劇を眺めては
いつの間にか夕飯の匂いで目が覚める日々を送っていた
森に入ってはいけないと ミヤコから釘を刺されている
俺が異世界に来たとき どことも知らない森に投げ出されていたが
生きていられたのは 運が良かっただけだと
ミヤコはひとえに神へのご加護と教えてくれた
だが窮屈と感じてしまえば この閉鎖された箱庭も檻となり
ミヤコの忠告も無視して森の中へ
彼女が普段 この森の外で何をしているのか気になっていたのだ
それも他の誰かと会っていると考えると無性にジッとしてられなくなる
ミヤコの部屋に立てかけてある
狩った獲物を捌く用の小刀を携えて俺はミヤコの跡を追った
「普通に暮らしてても大きな鳴き声一つしない…… 安全じゃないか!」
そう思い込みだすと 今度はミヤコに対する恐怖を抱く
俺をあの家に閉じ込める理由が分からないからだ
何か目的があるとすれば 孤独な森の中で急に背筋が凍り出す
不安を持ちつつ 目の前を遮る草木を掻い潜ると
家から百歩も歩かない場所で 巨大な大蛇がこちらを見つめていた
「あ…… えと…… ごめんなさい……」
剥き出しの鋭い牙からは 触れるだけで致命傷は避けられない毒が
ドロドロと地面に垂れては土を溶かしている
「ヒィィィィ!!」
追いかけっこも虚しく
大蛇のどこまでも伸びる胴体は
辺りを確認する間もなく 全方向に壁を作っていた
蜷局を巻いて自分を絞め殺すのか それとも頭上から食すのか
どちらにせよ 目の前の巨大な怪物に腰を抜かして
身動きが取れずにいた俺でした