54 濁流
俺はギルドという場所がどういうところかまるで分かっていなかったのだ
一枚岩の組織なんぞ稀ではあるが ここは統制など微塵も取られていない無法地帯
個々の成果で競い合っている場所がどれだけ野蛮かを 目の前の社員達を見て思い知る
「私がホズミナを悪く言ったとき 心晴君は偏見だって言ったよね?
だけど違うのよ この奴隷制度が根深い時代では皆の反応が常識なの」
普段はテーブルに顔を伏せて起きないおっさんも
雑談ばっかで仕事に行こうとして 男に貢いで貰ってばかりの女冒険者も
仕舞いにはギルドに務める従業員ですら武器を持ってこちらを睨んでいた
「こんなにも早く情報が共有されているのね
あの街市長の権力の程度を甘く見ていたわ」
「待ってよ! 僕達は助けて欲しいんだ!」
俺は状況に追いつけず必死にミヤコを探す だけど何処にもいない
結局ミヤコ頼りの自分に腹が立つけど そんなプライドも小さくただただ泣きそうになっていた
「心晴君ありがとう…… 君は十分社会と戦ったよ」
耳元で囁いたかと思えば 背中を優しく一回叩いて後ろを横切る
自分を置いてミキョシィは独りその場から逃げ去った
「追えぇ!! 逃がすなぁ!!」
「一つでも街市長に貸しを作ってギルドの納税減らして貰うんだぁ!!」
「生け捕りとの話だ!! 網を持って来い!!」
入り口で突っ立っている俺には触れず 次々と社員達が武装して外へと押し出されていく
まるで自分が時代の流れに置いてかれている そんな風にこの時は思っていた
「お帰りなさい」
「……ギルドマスターさん」
彼がカウンターの向こう側から出て来ている姿は新鮮だった
マスターは俺に何も聞かず 全てを承知している顔で自分を建物の中へ入れて上げた
「飲み物は何が良いかな?」
「…………」
「ではオススメのホットミルクでいいね?」
「……何で奴隷なんてのがいるんですか?」
「……温かい内に飲んだ方が美味しいよ」
「何で!! 何でだよ!! 同じ人間なのに……!!」
堪らず本音をぶちまけるのに対して 特に慰めもせず カウンターから出ることもせず
マスターがただ頷きながら無言でグラスを磨いていた




