3 尻尾
ミヤコの尻尾は服とスカートの間のフリフリの部分からはみ出ている
手作りのメイド服はワンピースのと思っていたが 違うのだろうか
「ミヤコの尻尾はどこから出てるの?」
「チャックですよ!」
何の恥じらいも無くお尻を突き出すミヤコ
男のズボンは前にチャックがあるが
女性には後ろに付いているのかと学んだ
実際に尻尾をずらして確かめようと思ったが
何せその部分は既にお尻付近だ 俺は察してそっと尻尾から手を離す
その時に不意に掴んでしまった
すると上の方から弱々しい悲鳴が聞こえた
「ヒャァ!!」
「あっ! ……ごめんなさい!!」
「……忠告しておきます
どれだけ激しい喧嘩になろうとも
絶対に尻尾を掴まないで下さいね」
マジギレで怒られたのもこれが初めて
たった二人の生活も まだまだ飽きるには早そうだ
「ミヤコって冷静に怒る方が怖い……」
「嫌なことを訴えるときは皆こういうもんですよ!
ちゃんと理解して欲しいですからね」
「尻尾はその…… くすぐったいの?」
「うーん…… 大人になれば分かるわよ」
「えっ?」
聞き覚えのある言葉だった
親戚のおじさんがよく馬を見に広い会場に連れてってくれた
ただ馬を眺めるのも退屈だが ふとおじさんの手には紙切れが握られていて
俺はそれを何かと質問すると
おじさんはほくそ笑む感じで今と同じセリフを言ったのだ
「……子供と大人の違いってなんだ?」
「そうですねぇ…… 気を遣えるかそうでないか……
一人立ちできるか…… 心に余裕を作れるか…… かしらね」
「おじさんは帰って来るなりおばさんにご飯を要求してたぞ?
家事全般は女性が担当して当たり前なんじゃないの?」
「……でもお兄ちゃんは私の仕事を手伝ってくれてるじゃない!」
「それは…… ただ何もしないと捨てられると思ったから……」
「フフッ! ちょっとは大人のようですね! 子供扱いは控えます」
「……それと一つ勘違いしているけど」
さっきから揺れているミヤコの揺れる尻尾が気になって仕方ない
「子供でも大人でも猫の尻尾を見ると掴みたくなるんだよ!」
「ヒャゥン!!」
彼女の匂いは如何なものかと 両手で握って鼻を押し付けていると
ミヤコの普段の表情からはあるまじき 冷酷な眼光が自分に向けて放たれる
「フフフフフ……」
「……ごめんない」
その後の事は覚えていない 思い出したくもない
昔から説教されるのは嫌いだからだ