深夜に来訪した誘惑 〈二次創作8〉
*こちらの作品は、間咲正樹様作品の『おばあちゃん無双リローデッド ~宰相の妻マリィ・ハートゴウル(66)が鬼畜DV男をブッ飛ばす!!~』の二次創作になります。
単独でも読めますが、事前に原作を読むことを推奨します。8,363字です。
https://ncode.syosetu.com/n5586gy/
*吹き出すな。注意。
原作がR15なので、合わせました。
それと先に謝っておきます。ごめんなさい。
あと、これはフィクションです。
( ° д ° )、
カーテン越しに網戸からの風が流れ込んでくる。ほんのり冷たい。
ゴールデンウィークもだいぶ前に終わった週末の夜。
アタシは、首元がゆるゆるのお気に入りのアニメTシャツに、高校の時のよれよれハーフパンツで、ベットの上でダラダラしていた。
風呂上がりの髪はまだ濡れたまま。時々、タオルでごしごし。
鼻先にシャンプーの香り。
腹這いになりながら、スマホで彼氏からのおすすめウェブ小説を読む。
主人公が66歳のおばあちゃんなんて、辛気臭そうって彼氏に言っちゃってゴメン。
全然違うよ。
おばあちゃんだけど、おじいちゃんから愛されてるもん。ラブラブじゃん。
いいな。アタシも彼氏と手を繋いで歩きたい。
後はもう、おばあちゃん、そんな男やっちゃえ!って。アタシの不満が残らないくらいのこてんぱんにしてくれた。
「ふふっ、にゃっぽりーとって、何よ。ふふふっ」
そのまま終わりかと思ったら、下の方にイラストかな。絵があった。
「えー、おばあちゃん、かっこいい」
思わず呟きながら、文字まで全て見る。
「はー、終わったぁ。終わっちゃった。」
タオルを頭の上にかぶせて起き上がり、冷えたビールを出そうと、冷蔵庫に手を伸ばす。
けれど、その指先を扉にかけた所で止まる。
「あ、読んだよって。電話しちゃっていいよね?」
アタシは、日付が変わりそうな時間だったけど、理由をつけてスマホを耳に当てる。
出るかな。寝てるかな。
ドキドキしながら、ちょっとだけコール音。
『もしもし。』
出た。やった。
「もしもし、ごめん、寝てた?」
『ううん、起きてた。』
「あのね、おすすめの小説読んだよ。マリィおばあちゃん、かっこよかった。」
『そう?よかった。』
優しい声。それだけでアタシは嬉しくなってしまった。
「下の方にあった、イラスト?すごいね。」
もっと会話を続けたくて言ってみたら、急に彼氏が黙った。
「もしもし?…何かヤなこと、言ったかな?」
『…いや。何も。あれはファンアートって言って、作者にファンの人が小説のイメージを絵にしてプレゼントしたものだよ。…いい絵だと思うけど、どう?』
「うん、マリィおばあちゃん、すっごくかっこよかった!すごいねー、ファンの人が描くんだー。すごーい。」
『あ、ああ、うん。すごいよな。うん。』
「あ、でも他の人を褒めてても、アタシが好きなのは、キミだからね!」
自分で言って照れてしまう。ふふ。顔が見えないから言えたけど。
思わず、フローリングの上で素足の指先を閉じたり開いたり。
やっぱり、ちょっと、恥ずかしい。
『お、おう。わかってるよ。お、俺もだよ。』
足の指が全部、ぎゅっ、と丸まる。
たったこれだけのやりとりで、最近会えていなかった寂しさが埋まる。
もう寝るの?まだ起きてるよ。そんな他愛のない確認。おやすみと電話を切って、スマホを見つめる。
ニヤニヤが止まらない。
もう一回、さっきのウェブ小説の画面を開く。マリィおばあちゃんの活躍をもう一度読んで、またファンアートを見る。
文字まで全て。
くるくると、フローリングの上で回る。
彼氏がいいって言ってた絵を両手でスマホを持って、もう一度見つめる。
これだけで、繋がりが増えたって思うのは、イタいかな?
ドライヤーで乾かした後、髪がぼさぼさのまま、忘れていたビールを飲もうと、また冷蔵庫の前へ。
………?
何か違和感。
ビールは飲みたい。でも、何か足りない。
そう。おつまみに、ちょっとジャンクな
コンソメポテチが食べたい!
そのコンソメ味も、ちょっとメジャーなコンソメ味じゃなくて、ジャンク風味強めで、厚切りポテトのあのポテチ。
ベアーベアーコンビニにだけ置いてある、『くまぽてち』のコンソメ味が食べたい!
時計を見ると、もう午前一時過ぎている。
明日は休みだから、まだまだ起きてるつもりだったけど、コンソメポテチが食べたい!
食べたいけど、深夜にそんなカロリーの暴力を受け入れていいのか。
ああ、でも、食べたい!
食べるほどに、指先が油と粉にまみれ、手を拭くことが面倒だからと言い訳しながら、パリパリと食べ続けたい。
想像だけで口に広がるあの味。
口の中には油を帯びたポテチの食感。そして、香りと共に、塩よりも広がりのある肉の旨味を感じさせるコンソメ味のポテチ!
ごくごくわずかに感じる甘みと醤油やソースのほんのりとした味!
『くまぽてち』だけの、あの絶妙な厚さ!
そこに絡む魔法の粉の、あの味!
噛むごとにポテトの味がコンソメ味と入り混じって、ぱりぱりぽりぽりと、咀嚼が止まらない!
そして、間髪入れずに、ビールを!
じわじわとした刺激で、甘くなった口の中をビールの苦味で洗い流したい!
……うう。想像しただけで、よだれが。
どうして、こんな、急に。
そこでアタシは気がついた。
さっきのファンアートに、「コンソメ味」の文字があった。
スマホ画面を拡大して、確認。
「コンソメ味」
もう口の中がコンソメ味だ!
それも『くまぽてち』のコンソメ味だ!
あのゆるっとしたイラストのくまを今すぐゲットしたい!
でも。
すっぴんだ。
ジャージだ。
ゆるゆるだ。
午前二時にも近いのに、これから化粧をして、着替えて買いに行くの?それも自転車で10分かけて?
食べたい欲求と、面倒臭さがアタシの中で戦いを繰り広げる。
さっきのマリィおばあちゃんたちのように。
この比喩で言えば分かるかな?
コンソメ味を食い潰したい。
はい。瞬殺。圧勝。
だめだ。全然葛藤する余地が無い。
アタシは、腹を括ると、急いで簡単なメイクをする。
彼氏の家に泊まりに行った時に使ったつけたまま眠れるパウダーに、色付きリップ。
目元は軽く色を入れる。
髪は軽く梳かして、ヘアゴムで簡単にまとめる。深夜に髪を振り乱した自転車の女は怖い。
足をもつれさせながらハーフパンツを脱ぎ捨てて、ジーンズを履く。
上は、アニメの絵が見えないように、薄手のパーカーを羽織る。
よし、これで行ける。
アタシは財布とスマホと自転車の鍵を用意して、窓のガラス戸を閉めようとカーテンに手を伸ばした。
窓の下には街灯のひかり。
深夜の冷たい空気が風になって流れ込んでくる。
結局、ベアーベアーコンビニには、行かなかった。
だって行く前に、彼氏が『くまぽてち』のコンソメ味を持って、部屋に来てくれたから。
窓のガラス戸を閉めようとしたら、街灯の中に彼氏の姿が見えて。
どうして、と聞くアタシに、彼氏のオオモリくんが、恥ずかしそうに言ったの。
「あの、ファンアートさ、俺が描いたんだ。実は。なんか言い出せなくて、ごめん。」
まるで可愛いクマのぬいぐるみみたいで、謝っているのに、それすらも愛おしくて仕方なかった。アタシおかしいかな?
『くまぽてち』のコンソメ味は、すぐには食べずに、太陽が昇ってだいぶ経った午後のおやつになった。
だって、ふたりでブランチにオムライスを食べたから。どうしてブランチかって?ふふふっ。
のどかな陽射しの休みの日の午後。狭いソファでくっついてテレビを見ながら、『くまぽてち』の袋を抱えてコンソメ味を食べる。時々、相手にも食べさせたり、食べさせてもらったり。
何をいちゃいちゃしてるんだって?
だって、マリィおばあちゃんもラストはラブラブだったでしょ?
『――愛してるよ、マリィ』
ハピエンも見習わなくちゃね。ふふふっ!
〜了〜
原作者である間咲正樹様と、FAを描かれたオムライスオオモリ様に捧げます。
重ねて伝えますが、フィクションです。
リア充殲滅し隊がくる前に撤収させてもら(悲鳴)[残酷な表現]