第7話 魔法の練習
GW疲れるなぁ……。
魔法の練習を始めて1週間が経ち、この間に魔法と掃除の基本的なやり方を教わった。レナータは基礎を教えた後、早々に家の掃除を俺に任せるようになった。
買い物や料理、洗濯、庭の花壇の世話などはしてくれるが、2歳児に掃除をさせる主婦など前世でも聞いた事がない。話を聞けば結婚する前は働きつめていて、主婦になって昼寝して過ごすのが夢だったらしい。その嬉しそうな姿を見ると何も言う気になれなかったので、俺は仕事を真面目にこなすことにした。
確かに、家事で一番時間がかかるのは掃除だろう。料理は食材を切って煮たり焼いたりでいいし、花壇も小さいのでそんなに大変という訳ではない。小さな家だが大きく分けてリビング、両親の寝室、俺の寝室、物置の4部屋ある。
はっきり言って4部屋を一人で掃除するのは大変だ。ひと部屋ごとに掃いたり拭いたりはきつい。だから魔法で何とかできないか考えた。今はまだ魔法で高度なことはできないが、そのうちできるようになる……はずだ。
そう信じて、今はアイデアをまとめているところだ。
「うーん……水の形を保ったまま動かすことができれば……」
もし水の形を変えずに床を這わせることができれば、それは拭き掃除になるのではないだろうか。いや、しかしそれでは布が持つ微妙な凹凸による汚れの吸着が期待できない。それなら、水を高圧洗浄機のように高速で動かせばいいのでは……。
やるのは難しそうだが、考えるのはタダだ。まぁ、魔法について理解している訳ではないので、有効な考えができているとは言い難い。
「あー、もっとぱっとできないかなー」
とりあえず、今日は普通に掃除しよう……。
一通り掃除が終わり、部屋に戻る。ここからは魔法の時間だ。
さて、今の俺は魔力もすくないのでそんなに魔法を使うことはできない。だから今日は何をするかまず決めてから練習を始めるようにする。
今日のテーマは「水を任意の形に保てるか」だ。まずは、手のひらの上に親指の爪くらいの大きさの水球が浮かんでいる様子を思い浮かべる。
しっかりイメージが出来上がってから、詠唱を始める。
「<水よ、我が手に集え>」
すると、身体に魔法を使う独特の感覚が駆け抜け、俺の手の上に浮かぶ水の塊が現れた。これは普通にできた。しかし、ここから水の形を変えたり動かしたりはできるのだろうか。
続いて、水が動いたり星形になったりするさまをイメージするが……。
「やっぱりうごかないか」
水はぽとりと手に落ちて床に流れる。きっとイメージがぶれたからだろう。だが、俺の手は濡れていない。これは「魔法は発動者に影響を与えない」という原則によるものだ。
だから、自分が出した水は自分では飲めないが、他人が出した水は飲むことができる。火とかの魔法はいいだろうが、水が必要な時は苦労しそうだ。
次は星形の水をイメージして魔法を実行する。
「<水よ、我が手に集え>」
すると、手の上には星形……親指の爪くらいの大きさなので見づらいが、確かに星形の水が生まれた。
「かたちはきめれるのか」
動かないが、形は決められる。しかし、これでは俺が見た母さんの魔法と異なる。外で見たあの魔法は、母さんの正面に向けて放出されていたので、水は動かせるはずだ。
あの時、母さんはなんと詠唱していたか……。
「<水よ、我が手に集い、円を描け>」
そう詠唱すると、手の上に小さな水球が生まれてゆっくりと円運動を始める。一つずつやろうとせずに、初めから動きを指定すればいいのだ。
今度は水の形を変えてやってみる。
「<水よ、我が手に集い、円を描け>」
しっかりと星形の水が生成され、手の上で円を描くように回っている。その水に左手の指で触れても、指が濡れることもなく形を保ったままだった。
それにしても不思議だ。魔法は発動者に対して影響を与えない。火に手を入れても、水をかぶっても自分が火傷したり濡れることは無い。
だが、肉の切り身は焼けるし地面は濡れる。
一体なにがこの判断、いわゆる「当たり判定」をしていてその条件はなんなのだろう。疑問ばかりが生まれるが、確かめる方法を今は思いつかない。
この疑問は置いといて魔法の練習を続けよう。次は8の字になるように動かそう。水が手の上で8の字に動いている様をイメージして……。
「<水よ、我が手に集いて形を描け>」
するといつもより大きく魔法を使う感覚がして、魔法が実行された。手の上では水が8の字に動いており、イメージ通りの結果だ。
「よし!次は……」
魔法の練習はレナータが夕食に呼びに来るまで続いた。夕食は家族みんなで食べるのが習慣だ。フランクは仕事で日中外出しているため、家族が全員集まるのはこの夕食の時だ。
「それで、エドは今日何をしていたんだ?」
「そうじ!」
まぁ魔法の練習もしていたが、そんな言いふらす必要もないだろう。
「そうか、この年で掃除ができるんだ。きっと将来は掃除のプロだな」
それを聞いたレナータが笑う。
「あら、それよりも前にきっと立派な魔法使いになるわ~。ねぇエド」
「え?どうゆうこと?」
「だって掃除が終わったらずっと魔法を使っていたでしょう~?よほど魔法を気に入ったのね~」
部屋にこもっていたのになぜ知っているのだろう。
「なんでわかるの?」
「魔法を長く使っているとね~、他の人が魔法を使っているのがわかるようになるのよ~。きっとエドガーもいつかわかるようになるわ~」
日本の漫画によくある他人の魔力を感じる的なやつだろうか。
「何回も使っていたみたいだけど、何をしていたの?」
「えっと、まほうでそうじができたららくだなっておもって、いろいろやってたの」
「魔法で掃除?それって、魔法そのもので掃除するってこと?」
「うん」
「なるほどね~。動かなくて済むなら確かに楽そうね~。水を汲みに行かなくていいとか、寒い日は水を温めれていいなとしか思ってなかったわ~」
そうなのか?母さんなんて真っ先に考えそうなことだが……。
「なんだか難しそうなことを考えているのね~……。その魔法ができたら、ママにも教えてね?」
「うんいいよ」
「なんだ?エドは新しい魔法を作ろうとしているのか?」
「そうみたい。でも、私のためにそこまで考えてるなんて、とっても嬉しいわ~。本当にエドを産んでよかったわ~」
「なぁなぁエド、パパのために魔法を作ってくれてもいいんだぞ?な?」
「えー……」
正直フランクに何が必要なのかわからないし、今は掃除の魔法を作りたい。それなのにさらに仕事を増やしたくないのが正直なところだ。
「そんな嫌そうな顔しなくても……」
「まぁまぁフランク。いつか作ってくれるわよ~」
「俺、エドガーに嫌われてる……?」
そんなことはない。
ただ、いつも世話をしてくれていたレナータの方が優先度が高いだけだ。