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W.W.W.  作者: 渡良瀬雄三
第2章 Revenge of Enemies
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第21話 社会的な活動

お仕事大変なりぃ……。

 危険地帯で魔獣を狩った俺は、スキップしたくなる気持ちを抑えながらパルバラに戻った。今日は6体も仕留めたし、売り上げも期待できる。

 さて、これから買い取ってくれる店に行くが、その前に魔法で自分の姿を消す。


「<不可視>」


 魔法が発動し、これで俺は周囲から見えなくなった。この魔法は非常に重宝している。人間は感覚のほとんどを視覚に頼っているため、見えないと言うだけで実はかなりのアドバンテージになるのだ。

 村が襲撃されたとき、敵が使っていたのを見て作ったが復讐の時にも大活躍した。


 なぜ姿を隠す必要があるかといえば、店主を脅迫しているからだ。俺の存在や素材の出どころを秘密にするように、娘の命を盾に脅している。

 娘を殺すのは本気ではないが、もしも命令を破り俺に関する情報を外に漏らした場合はきっちり本人の命で代償を支払ってもらうつもりだ。


「<転移>」



 魔法を使って手っ取り早く店まで移動する。


 個人商店のため店は大きくなく、品ぞろえも多いとは言えない。だが、このパルバラで何代も続いているらしく、商品の選択や品質は周辺住民の信頼を得ているらしい。

 もちろん、すべて事前に調べていたことだ。悪徳商人なんかに持ち込んだら、後々面倒になることが目に見えてるからな。


 店の裏は路地になっていて、ちょっとしたスペースがある。そこに俺専用の荷車が置いてあり、その荷車に魔獣を置くことになっている。


 そして、その魔獣は店主の知り合いの解体屋に送られ、その解体屋から毛皮も扱う大手の商会や毛皮を使った服を作る店に売られる。


 正直、あまり売り手を隠そうとはしていない。やろうと思えばいくらでも流通経路を複雑にできるが、それをすると今度は俺の収入が減ってしまう。俺が売っている魔獣は正規のルートを通り正規の値段で売られている。犯罪集団がやるように高額を吹っかければ収入は増えるが、そんな値段を付けると今度は他の犯罪者や国自体に目を付けられてしまう。


 そのため、経由する回数はなるべく抑えるようにしている。万が一俺の存在が公になったとしても、せいぜい子どもであることが広まるくらいだ。それに、姿を消す魔法を使える子どもがいるわけないと、子どもはメッセンジャーで、その背後には犯罪集団があると思うだろう。俺はその間にさっさと逃げればいいだけで、あまり問題は無い。


 事前に荷車に転移させておいた、魔獣の死体が存在するかを確認してから裏口の扉を開け店に入る。入った場所は倉庫になっていて、基本的に人は居ない。さらに扉を開けて奥に入ると、店頭のカウンターの後ろ側に出る。

 カウンターには30歳くらいの男が座っており、この男が店主だ。名前はパトリック・リチャーズ。本人から名前を聞いた事はなく、むしろお互いに名前を知らない方が良いだろうと言ってある。


 幸い店内に客はいなかった。居たら時間を改めるか帰るまで待つことになるから運が良かった。俺はこちらに気づいていないパトリックに話しかける。


「久しぶりだな店主」

「……!」


 パトリックはびくりと体を動かし、さっきまでのリラックスした状態から緊張したように椅子に座り直した。


「おほん! ……お久しぶりです。今日はどのようなご用件で……?」


 そわそわと体を動かしながら、俺とは反対の方向を見ながら話すパトリック。話しづらいが、俺の姿を見ようとしないように注意しろと言ってある。それにしても緊張しすぎだ。


「……いつも通り魔獣を買い取ってもらいたい。それと、頭を覆える頭巾が付いている外套を2着用意して欲しい」

「魔獣の買い取りと、頭巾付きの外套2着ですね、承知いたしました。……それでは、準備が整ったらいつもの方法でお知らせいたしますので」


 いつもの方法とは、荷車に白い布を結び付けておくことだ。魔獣を売るのも、この店で扱っていない物を用意するのも時間がかかる。用意ができるまでこの店に居るわけにもいかないし、連絡用に俺の宿の場所と名前を教えるわけにもいかない。

 だから安全に連絡できるようにちょっと考えたのだ。これなら俺は姿を隠したまま遠目に眺めるだけでいい。他人が見てもタオルを干しているようにしか見えないだろう。


「頼むぞ。……それと、近いうちにこのパルバラを発つ。野営に役立つ道具などに心当たりはないか?」

「本当ですか!」


 パトリックがとても嬉しそうに声をあげる。


「嬉しそうだな」

「えっ!? いやいやとんでもないです! ただ、驚いただけですよハハハ……」


 マズいと思ったのか言い訳をしだした。まあいい。どうせしばらく会わなくなる。


「それで、道具の心当たりは?」


 俺が聞きたいことをもう一度聞くと、パトリックは考えだす。


「うーん、どんな野営をするかによりますね。少なくとも照明器具と、天幕や虫よけの薬はあった方がいいと思いますが……」

「そうか……」


 どうしよう。せっかくだから道中はキャンプを楽しもうとか思っていたが、よく考えるとそれだと道具をそろえるのに金がかかる。前世でもテント一式は高かったしなぁ……。


「移動は馬車ですか? 道具を揃えても、運べないと意味が無いですからね」


 そこは魔法でなんとかできるから気にしないが、やはり道具の値段だ。せっかく金を稼ぎに来たのに、旅の準備に使い切ってしまったら目も当てられない。キャンプを楽しむのはまた今度にしよう。


「道具のことは忘れろ。話は終わりだ。では、魔獣と外套を頼んだぞ」

「え、いいんですか? さすがに何もないとキツイと思いますが……」

「忘れろと言ったはずだが?」


 そう言うとパトリックは焦ったように言葉をまくしたてる。


「魔獣の買い取りと外套2着承りました! またのご利用お待ちしております!」


 俺はその言葉を聞きながら、扉を開けて来た道を引き返した。


 よし。これで金とローブが手に入る。いよいよ旅に出るという実感が湧いてきた。早く届かないかなぁ……。




 外に出ると、いつの間にか夕方になっていた。今日は魔獣の狩りで時間を使ってしまったので仕方がない。


 俺は店から離れた路地に入り、<不可視>を解除する。大きな通りは王族や貴族が通る可能性があるため綺麗になっているが、建物の隙間や細い路地はわりと汚い。具体的に言うと、人の糞尿が落ちているくらい汚い。公衆トイレがそこら中にある訳では無いので仕方がないのだが、この汚さもあって人があまり通らないのだ。


 素知らぬ顔で人の流れに乗り、ちょっと屋台で買い食いをしながら宿に帰る。


 肉串を売るとある屋台がお気に入りで、見かけたらだいたい買っている。ただ肉を焼いて売っているわけではなく、なんと味付けしているのだ。おそらく複数のハーブだけで、塩や胡椒は使っていない。前世の料理とは比べ物にならないが、質の悪い安い肉をなんとか美味しく食べようとしている努力を感じる。そこが好きなのだ。



 やはり、努力は大切だ。俺も努力をしていなければ、今頃死んでいたか、死ぬより辛い目に遭っていたかもしれない。努力は人間が持つ大きな力だ。

 諦めないことが最高の魔法だと、あの時、村から俺が逃げる前にレナータが言っていた。本当にその通りだと思う。諦めず努力すれば、力を得ることなどこの魔法が存在する世界では容易いのだ。

 レナータという魔法使いが母親で本当に良かった。一般の家庭だとそもそも親が魔法を使えないとかありそうだしな……。



 そんな他愛もない事を考えつつ、肉串を食べながら歩いていると宿が見えてきた。


 俺は肉串を食べ終え、残った串を魔法で消した(・・・)。消したと言っても見えなくなったとかではなく、文字通りに消したのだ。


 俺はこの魔法を<塵は塵に>と名付けた。


 この魔法は、対象物を分子レベルまで分解するという、コンセプトはとてもシンプルな魔法だ。これのおかげで、人や動物の無力化は格段に簡単になったし、人を殺しても死体ごと証拠を消すことができる。絶対に犯罪者に教えてはならない魔法だ。

 魔法を造る時にいろいろした努力を振り返りながら、俺は扉を開けて宿に入りそのままカウンターに行く。


「ただいまコリーさん」


 声をかけるとカウンターで何か書いていた男性が顔をあげ、にこりと笑いかけてくる。このコリーが宿の経営者だ。


「ああ、おかえりヌール。なんだかご機嫌だな」

「いやあ、ちょっとね……。それより、そろそろこの街を出ることになったんだ」


 ちなみにヌールとは俺の偽名だ。プログラミング言語で使われる定数(ていすう)の『null(ヌル)』というものを少し変えて付けた。何もない、とかの意味があり、まさに何の意味もない偽名にぴったりだ。


 俺が街を出ることを告げるとコリーは手に持ったペンを机に置き、何かを思い出すように俺の少し上に目線を上げる。


「そうか。確か……1か月の契約だったがすぐに発つのか? 日割り分は返金しないぞ」

「いや、まだ準備の途中だから、たぶんあと数日は居るよ。返金しないのは最初に説明されたし、大丈夫」

「ならいい。うちに来てからヌールは毎日外に出てたからな。用事が済んだんなら、少しゆっくりしてから街を発てばいいさ」


 確かに、毎日外出して観光したり、魔獣を狩ったり、情報収集したりしてたからな。確かにゆっくりはしてないかもしれない。


「ありがとう。じゃ、部屋に戻るよ」

「ああ、じゃあな」


 俺はカウンターの横にある廊下を通り、借りている部屋に入る。前世なら鍵を受け取ってから入るところだが、この世界では普通の宿に鍵なんてものは付いていない。付いているところはあるが、王族や貴族が泊るようなセキュリティが高いところくらいだ。平民が泊れる宿は内側から木の(かんぬき)で閉めれる程度で、前世のように部屋の中に物を置いて観光なんてできない。


 <転移>が使えれば外出前に荷物を安全な場所に置いておくことが可能だ。しかし、<転移>は遠くのものを持って来るということができないため、結局置いた場所に取りに行く必要がある。何とか遠くの物を手元に持って来る魔法を開発しようとしていたが、未だ完成していない。いいアイデアが生まれるまで開発は凍結中だ。


 それに俺の荷物は短剣、着替え、財布の3つだけだ。そんなに急いで開発する必要はない。


 俺はベッドに横になり目を瞑る。この世界には娯楽がほぼ存在しない。本なんて高級品だし、夜に読もうとしたら明かりを準備しなければならず燃料代がかかる。もちろんゲームやテレビも無いから暗くなるとやることがない。


 だから俺はいつも魔力操作の練習をしている。魔力操作は無詠唱で魔法を使うのに必須の技能だ。

 無詠唱は使いたい魔法をイメージし、その魔法が発動するだけの魔力を体から絞り出す必要がある。発動に必要なすべての魔力を自分で用意するので魔力の消費は大きくなるが、練習すれば詠唱するより早く魔法を発動することができる。


 魔力操作の練習は、身体に存在している魔力を体外に放出した後、その放出した魔力をまた体に取り込むことで行っている。魔法を使ったのと同じような効果が得られて保有魔力量が上がるうえに、単位時間あたりに放出できる魔力量も増える。


 魔力を垂れ流しているわけなので、他人の魔力を感じ取れるほどの技量を持つ魔法使いが居れば警戒するだろうが、この1か月間やっていてもまったくそのそぶりがないのでずっとやっている。

 他人の魔力を感じ取ることは、自分の魔力も感じ取るということであり無詠唱で魔法を使うためには必要な技能だ(少なくとも俺はそう考えている)。

 無詠唱で魔法を発動できる人間が街を警戒していないということになるのだが、首都なのに大丈夫なのだろうか。


 魔力操作をしながら、明日は何をしようかと考える。昼くらいに一度パトリックの店に行って合図を確認するのは確定として、他に何かすることがあったかな。


 うーん……特に思いつかない。


 復讐心に駆られていた時はあれこれ思いついたのにな。やはり目的が無くなってしまったのが大きいか……。


 まあいい。明日の事は明日の俺にやらせよう。おやすみ……。

nullはヌル派。ナルとか気取ってんじゃねぇ所詮日本人だろうが。

周りにナル派が居ないので聞けないんですが、なんでナルって読むんですかね。

ガンジーとガンディーくらいの違いしかないと思うんですけど。


それはさておきこの世界、レナータが死んだので大した魔法使いは居ません。(ネタバレ)

魔法学というものも存在しますが、魔法は神が人間に与えたもの扱いなので中身はスカスカです。

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