第2話 運命の時
プロローグを2話に分ける必要なかったな……。
「う~んやっと終わった~」
時計を見れば、21時を少し過ぎたくらいだった。
思ったより早く終わったな。
「やれやれ、初めはどうなるかと思ったが問題が単純でよかった」
データを保存してからPCの電源を落とし、机の上を片付けて荷物を鞄につめる。
誰もいないオフィスの戸締りをして、会社のあるビルを出る。
歩いて10分くらいの少し離れた駐車場に行き、自分のクルマに乗り込む。
「はぁ~つかれた……」
ため息をつきながらエンジンをかける。
元気に回るエンジンの音を聞き、かかりの悪さや異音が無いことに安心する。
「よし、今日も元気だな。」
俺の給料のほとんどをつぎ込んでいるのだ。元気でないと困る。
生産から15年経ち、経年劣化で部品はボロボロ。
野ざらし駐車のため、見た目もボロボロ。
それでも2リッターの水平対向エンジンは快調に動き、俺をどこにでも連れて行ってくれる。
今の会社に入社してから中古で買って、10年以上乗っている思い入れのある車だ。
金も手間もかかるが、子どもの頃からの憧れだった。
少し目を瞑ってPCのモニタに痛めつけられた目を休ませた後、シートベルトを着け駐車場から出る。
会社は田舎にあり、交通量も通行人も少なくて車通勤には好条件だ。
20分ほど運転して、水田の中を横断する直線の道に出る。
道がまっすぐなのと水田が広がる平野なこともあり、ここはスピードを出す車が多い。
だからこそ、俺はいつもこの道を通る時は特に安全運転を心がけている。
対向車線に大型のトラックが見えるが、遠目に見てもスピードを出しすぎな気がする。
職業ドライバーがスピードを出しているのは違和感があるが、中にはそんな人間もいるのでとくに気にしないことにした。
そして俺はそのまま車を走らせる。
刻々とお互いが近づいていき……トラックが急に進路を変えた。
俺の方に。
「ウソだろ!!!」
俺が法定速度で走っていても時速60kmは出ているうえに、トラックは遠目から見てもスピード違反の速さだ。
もっと遠くであれば回避も間に合ったかもしれないが、これは近すぎる。
本能のままに左にハンドルを切りながらブレーキを踏み込む。
俺はこれまで車には金をかけてグレードの高い部品を取り付けてきた。
グリップ力の高いタイヤ、制動力の高いブレーキパッド、それらはすべていつか来る有事のためだった。
だが、無情にもそのすべてが能力を発揮できないほどの近さだった。
時間にすればほんの一瞬。
突然の出来事だが、俺の頭は驚くほど冷静に、助からないと結論を出した。
そして金属がひしゃげる音と、人生で感じた事のない強い衝撃を最後に俺の記憶は途絶えた。
インド人を右に!