第1話 いつもの夜
処女作です。
クレームは入れないでください。
「今日はどこいく?」
キーボードを打つ音が響くオフィスの中で、誰かがそう言った。
俺の名前は佐藤健一。
IT系の会社に勤める、車が好きなただのおっさんだ。
今日は花の金曜日で、同僚は仕事終わりにどこに飲みに行くかが楽しみでたまらないようだ。
「おい、佐藤も来るか?いつも来ないんだからたまには来たらどうだ」
先輩社員の田中さんが話しかけてくる。
田中さんは付き合いの悪い俺にもいつも声をかけてくれる良い人だ。
「すいません、ちょっとモジュール13がエラー吐いてて……。これ終わるまで残るんで、私の事は気にしないでください」
「おいおい、そんなに急がなくても大丈夫だぞ。納期まで余裕あるんだし……」
「あはは、お金が無くて……。残業代、稼がせてください」
俺は力なく笑い、言い終わった後にマグカップに入った冷えたコーヒーをすする。
「またか。佐藤、そろそろ残業時間の上限なんじゃないのか?大丈夫なのか?」
「大丈夫ですよ。部長には残業申請を出してますし、ちゃんと上限超えないように管理してますから」
「そうゆう意味じゃなくてだな……」
田中さんの言葉にかぶせるように、他の人が声を上げた。
「田中さん、佐藤は駐車場で彼女が待ってるんだから誘っちゃ悪いですよ」
その言葉には明確に揶揄するニュアンスが含まれている。
彼女というのは別に本当にいるわけではなく、俺の趣味であるクルマのことを言っている。
少し……そう、少しばかり古い車だから修理やメンテナンスに金がかかる。
そのため俺は万年金欠なのだ。
きっといい歳して結婚もせずに、趣味に金をつぎ込む俺をバカにしているのだろう。
「……佐藤、趣味に金を使うのはいいことだ。だが使いすぎて生活ができなくなったら、元も子もないぞ」
揶揄するような言葉には反応せず、俺の心配をしてくれる田中さん。
俺はこの人のこうゆう所が大好きだ。
これで女だったら今頃惚れていただろう。
「ちゃんと飯も食ってますし、大丈夫ですよ。ありがとうございます」
「ならいいが……。困ったことがあったら相談しろよ」
そんな話をしていると、終業時間を告げる音楽が流れだした。
田中さんは席に座り、帰るために荷物をまとめだす。
うちの会社は絶滅危惧種のホワイト企業で、基本的に定時で帰れる。
だが、俺は金がないので大体は残業だ。金がないから仕方がない。
「お疲れ様でした~」
「お先です」
俺は同僚が帰る声を聞きながら、いつの間にか止まっていた手を動かすことにした。