第45話 ブリノフ学院の加護〜研修旅行編〜part4
前回のあらすじ
研修旅行3日目、学院側が準備したイベントで事態は動き始める。
ルミエールはシエルとレイの関係から不安を抱き始めていた。その不安を感じたレヴィアタンはルミエールの身体を乗っ取ろうと煽り始めたのだ。ギリギリのところで意識を取り戻したのだが、レイに疑心を持つようになってしまう。
※※※※※※
研修旅行4日目——。
レイはルミエールに話しかけようと試みるも、ルミエールが避けているようでなかなか話しかけるタイミングが見当たらないでいた。
(どうしましょう...完全に避けられてしまってますわ)
ルミエールは朝食を摂り終えるといつもとメンバーと合流することなく、ユリアと出かけてしまった。
ソフィアやアレクサンドル、アンナもおかしいな雰囲気に気付いてレイに何があったのかを訊ねた。
「では昨日の件で、ルミエールはレイ様を避けておられるワケか」
「そのようです...でも仕方ありませんわ。私が悪いワケですから」
「ですが、シエル様も理由があってお姉様の手を引いていたワケですの。ルミエール様にそれを伝えないといけないですの」
「でも、それをルミエールさんが信じるか...わかりませんよ」
「ルミエールはユリアと行ってしまったか」
「私はどうしたらいいのでしょうか?」
「レイ様だけが悪いワケではありません。シエルにも事情を伝えるべきか?」
「サーシャ、それはややこしくなるだけよ。ユリアさんに協力してもらうのが1番いいかも」
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一方で原因の1つを作り上げた1人でもあるシエルは、いつも通りダービーと素材集めに専念していた。
「タービーに1つお願いしたいことがあるんだけどいいか?」
「どうしたんですぜ?」
シエルはレイと採石した水晶を取り出し、ダービーに手渡した。
ダービーは驚いた顔をしてシエルに聞いた。
「これはどこで摂ってきたんですぜ?」
「昨日の魔石収集で見つけたんだよ。珍しい物なのか?」
「これは魔石になる前の石ですぜ。いわば魔石の原石ってことですぜ」
「魔石の原石?」
魔石は魔力を長い年月をかけて吸収して出来上がる石で、魔石の原石は色もない澄んだ透明の色をしている。そして魔力を吸収していないため、どんな魔石の種類にも加工することができる。
魔石には種類があって、紫の魔石は武器や防具の生成などに使われる。魔油との愛称が良く、エネルギー吸収率の効率がいいようだ。空挺箒も魔石の原料が含まれている。
またルミエールがイーリア地区のベネチ街で出逢った、マルクスが使っていた魔拳銃も魔石が元で出来上がっている。そして、魔弾と呼ばれていた銃弾の魔石から作られているが、炎の吹き出る魔弾は赤色をした魔石から作られている。
「原石は色が透明だから、見つけにくい代物なんですぜ。それに原石は人口的に魔力を注入できるもので、非常に価値のあるものなんですぜ」
「へー。ならこれで魔道具を作ってくれないか?」
「いいですぜ。この大きさなら2種類は作れますぜ?」
「2つ作れるのか...なら1つはアクセサリーにしてくれないか?」
「それは、ピアスですぜ?それともネックレスですぜ?」
「そうだなぁ...ピアスにしてもらっていいか?」
「もう1つはどうするぜ?」
「残しておくよ。珍しいものなら、どこかで使う機会があるものだしな」
「で、中にはどんな魔力を注入するですぜ?」
「それはまだ決めてなかったな...入れてる方がいいのか?」
「魔道具は使ってこそですぜ?」
「壊れるぐらいならアクセサリーとしてだけの機能でいいよ」
「まぁ別に構いわしませんですぜ」
こうしてダービーにアクセサリーの加工の受注をし、ルミエールのプレゼントを準備したシエルだったが、今ルミエールとレイは複雑な環境に置かれていることは知る由もなかった。
——————
その頃、ルミエールはユリアに相談していた。
「私はどうかしてるわ」
「急に何を言い出すのですか?」
「逃げてるのよ。不安から...色んなことが怖くて逃げてるのよ」
「ですが関係を取り戻すには、直接聞かなければいけませんわ」
「わかってるんだけどね。本当はレイにも事情があるのはわかっているわ。シエルも優しさで握っていただけってわかっているのよ。でもわかっていても、心の奥底が痛むのよ」
「ルミエールさん...」
そこへソフィアとアンナがやってきた。
「探しましたの!」
「ソフィアちゃん、どうしてここへ?」
「朝からルミエール様とお姉様の様子がおかしいと思ったの。それで心配になって探していたの」
「そう...」
「レイ様と会って話しはできないのですか?」
アンナがレイの名前を出すとルミエールは俯いて黙り始めた。
「ルミエールさん、アンナさんの言う通りです。怖くて逃げても何も生まれはしません。とにかく話しだけでもしてみましょう」
「...」
「なら私たちでレイさんと連れてきます。ルミエールさんはここで待っててください」
ルミエールは1人残されるように待っていた。
何も考えずただボーッと湖を眺めていた。
「ルミ?ちょっといいですか?」
アグライアが姿が現す。
「ずっと中にいたので、事情はわかります。貴方たちのことですから、私も深く干渉はしないつもりです。ですがこれだけはルミエールにも話しておきましょうか」
アグライアはレイに話した昔話をルミエールにも同じように話し始めた。
レイの魂がアクアで、シエルの魂であるラルカンに好意を持っていた事を。そしてアクアとクラルテは良き理解者でありながら、恋敵手でもあった事を。
レイの魂がアクアである以上、シエルに好意を寄せる可能性はある事も伝えていた。
「そうなのね。それでアクアやクラルテはどうなったの?」
「彼女たちはラルカンに想いを告げることはなかったです。というより出来なかったが正しいでしょうか」
「なんで?」
「魔神討伐が叶わなかったからです。ですがアクアはクラルテに最後に想いを告げるチャンスを与えていました。そして2人を守るように死んだのです」
「なんで?自分も好きなんでしょ?」
「その心情も、その行動もアクアにしかわかりません。アクアは大変優しい方でした。レイもアクアに良く似ています。そんなレイがルミの事を考えずに行動するとは思えません」
「ライアはレイのこと凄く信じてるのね」
「もちろんです。何があっても私の大切な仲間です。それはルミも同じです。だからこそ信じているのです。ルミもレイのことを信じてください。よく話し合って欲しいです。レイは逃げずに話してくれるはずですよ」
アグライアはそう言って、ルミエールの中へ戻っていった。
暫くするとレイだけがやってきた。
ルミエールの背後に立って口を開いた。
「あ...あの...ルミエール様、申し訳ありませんわ」
レイの第一声は謝罪の言葉だった。
「ルミエール様の想いを知っていながら、私はしてはいけないことをしてしまいましたわ」
ルミエールはレイの言葉を黙って聞いていた。
そして湖を眺めながらレイに質問した。
「いいのよ。それよりレイはシエルのことが好き?」
「それは...」
「本当のことを言って」
「本当のこと...もしこれが好きという感情なら...好きなのかもしれませんわ」
「そう。いいのよ。レイがシエルのことを好きになる可能性があることもライアから聞いたわ。でも前世の魂のことは置いときましょう。今、どう思っているかよ。私はシエルのことが大好きよ。誰よりも好き。でも想いを伝える気はないの。魔神討伐を成すまでは」
「私は...ルミエール様の邪魔をしたくありませんわ」
「レイ、それじゃ意味がないのよ。レイも素直な気持ちになったときにシエルのことが好きなら、私に遠慮なんてしなくていいのよ。私たちの前世の魂のことも聞いてるんでしょ?」
「聞いておりますわ」
「なら譲るなんてことしないで。私はシエルが幸せになって欲しいの。それが私を選んで幸せになって欲しいけど、レイと一緒の方が幸せってこともあると思うの。だから全力を尽くして欲しいの」
「ルミエール様...私は...シエル様のことが好きですわ!」
「それでいいと思うわ。私が好きになった人だもん。魅力があるに決まってるわ」
ルミエールは笑っていた。
「私も魔神討伐を成すまではシエル様に想いを告げることは致しませんわ!」
「いいの?」
「はい!魔神討伐を成すことができなければ、その先はありませんわ」
「そうね。でもこれからは恋敵手としてもお互いに頑張りましょ!想いを告げることはなくても、シエルに私たちの魅力を知ってもらえるように頑張りましょ!」
「ルミエール様」
「それと…レイ...ごめんなさいね」
「そんな...ルミエール様が謝る必要なんてありませんわ」
「そんなことないわ。私、レイを疑っていたの。大切な仲間なのに疑っていたことは決していいことではない。だから、謝らせて」
「私こそ...抜け駆けするような真似してしまいましたわ」
「いいのよ。シエルから握ってきたんでしょ?シエルは優しいから。それに私たちの気持ちのことなんて何にも知らないし、考えてないから」
「ですが...」
「いいのよ。全部悪いのはシエルよ!」
「...ルミエール様...それは...あんまりですわ。クスクス」
レイは笑っていた。
ルミエールもレイの笑った顔を見て笑い始めた。
「そうね、言い過ぎかしら。でもこればっかりはシエルが悪いわ」
「仲直り出来たようですね」
アグライアは再び姿を現した。
「ごめんね。心配かけて」
「いいのですよ。こうして絆を深めていくのです。以前の冒険でも色々あったのを思い出します。その度に貴方たち人間の心の強さを実感してきました。では最後は絆を深めた意味も込めて握手しておきましょうか」
ルミエールとレイはお互いの手を強く握り締めて、固い絆を結ばれたことを確信した...と思われたが——。
この固く結ばれた絆さえもいとも簡単に解く人物がいた。
それが救世教の7つ大罪である『色欲』を司る悪魔である『アスモデウス』である。
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