第32話 水の精霊・ディーネの加護
前回のあらすじ
キエフ大修道院で再会してレイ・ロマノフは水の加護を持ち代行者であった。
またレイの身体には兄であるレオ・ロマノフの魂も宿っていた。それには深い理由があるのだが、一先ず水の精霊であるディーネと面会することとなった。
※※※※※※
「こちらですわ、どうぞ中へお入りください」
シエルたちはレイに案内されてディーネがいる聖堂へとやってきた。
中は立派な作りになっていて、クリアスタンドが豪華さを物語っていた。
「ではディーネ様をお呼び致しますので、ここでお待ち下さい」
レイはそう言って祭壇に上りお祈りを始めた。
「ディーネ様...お探しの方々がわざわざお伺いくださいました」
「ついにこの時が来たのですね」
シエルたちにはディーネの声が耳に入ってくる。その声から礼儀正しい性格が感じられる。ヴァンとは全然違った雰囲気でシエルたちは少し緊張した。
「なんだかヴァンとは違った雰囲気で圧倒されるわね」
「ディーネは四大精霊の中で最初に作られ、真面目と礼儀を重んじる精霊なのですよ」
アグライアが丁寧に説明をしてくれる。
祭壇から神々しい光が解き放たれると、水のような透き通った長髪に色白の肌と神々しさから精霊としか思えない姿を現した。ヴァンも見た目は綺麗な精霊だったが、性格が人間味溢れていてその神々しさが欠けてしまっていた。
今頃くしゃみの1つぐらいはしている頃だろう。
「お久しぶりです、アグライア様...」
ディーネは丁寧に挨拶すると驚きのあまり言葉が出なかった。アグライアの姿を見てすぐに理解したようだ。
「そんな...アグライア様のお姿が...」
「申し訳ありません...私は未来から転移してきたのです。もちろんここにいる英傑の魂を持つ者たちも未来から転移させた者たちです」
「魔神に敗戦してしまいましたか...。それほどに魔神は強敵だったわけですね」
「そういえば、シエルたちには未来での話は詳しくしていなかったですね。ここで話しておきましょう。レイもよく聞いておいてください」
アグライアは未来での魔神との戦いについて説明した。
魔神が復活を遂げたときの英傑たちは今のシエルたちと近い年齢だった。魔神との戦いに備えて旅をしながら各地の魔物討伐などを繰り返し場数を踏んでいった。ただ10年という歳月の間に魔神は力を取り戻し、アグライアたちは敗北した。
アグライアは時空魔法を使い、死んだ英傑たちの魂と共に過去の世界へと転移してきた。
アグライアは時空魔法を使う際に1つ作戦を考えがえていた。魔神が復活する時間を把握ことで先回りし英傑たちを見つけ出し力を蓄え、魔神が復活を遂げた時を狙って討つ算段であった。
しかしアグライアが想定して世界とは何もかも違っていたのだ。
「辛い経験をされたのですね...それにこの世界は既に魔神の影響を大きく受けてしまっているのでしょう。私が経験する全ては初めてのことばかり、お力添えできず誠に申し訳ありません」
「なぜ魔神の影響を受けてしまったのかわからないでしょうか?」
「私ならアグライア様が使った時空魔法に何らかの細工を施したと推測します」
「そう考えるのがはやり最良ですか...安易でした。あの時に不要なことを言わなければ」
アグライアが言う不要なこととは、時空旅行者を使った際に放った一言である。
「ですが魔神の力量は把握済み。最善を尽くし時期を待ちましょう」
「それじゃ私たちの自己紹介をしましょ!」
ルミエールはディーネに深々と頭を下げてから名前を言った。
「私はルミエールです。これから宜しくお願いしますね、ディーネ様」
「俺はシエルだ!」
「僕はアレス!」
「これは珍しい方もおられるのですね。アレス様は獣人族でありませんか。しかし見た目は人間...で耳や尻尾がありませんね」
「アレスには深い理由があるのですが、本人もつい最近まで自身の正体を知らなかったです」
「獣人族は第4領地にしか存在しない太古の生き物ですから...私も驚きました。それにシエル様も...」
「ディーネにもわかるのですね。私は力を失い過ぎて気付きませんでした」
「私の力がシエルに様反応してることが不思議ですから気付いてしまいます。代行者ではない存在でありながら精霊から力を与えられるとは...不思議な方です」
「なら早速、ディーネからも力を分けてもらうか。これで3つ目だな。魔力量も増えるから安心だぜ」
「では目をお閉じになってください」
シエルは静かに目を瞑りジッとする。
「我が名は水の精霊・ディーネ。世界では水の守護を受け持つ者なり。生命の潤いは水なり。姿型を自由に変えれるは水なり。緩やかに流れ、時には激しく流れその威力は数百倍にもなり得るは水なり。汝に我が力をもって与える。神聖加護!」
シエルの周りには聖なる水が渦巻き、流れるように身体に吸収されていった。
シエルに宿る魔力量も増量し力を使える1日の総使用時間は1時間になった。
「これでシエル様は水の加護がご使用できます」
「水の加護は回復に特化した力って聞いたんけど、俺にも回復魔法が使えるようになったのか?」
「はい。しかし回復魔法と言っても効果は様々あります」
回復魔法にはいくつか種類と効果があり、代行者と一般人の違いも説明しておく。
一般人が使える回復魔法は状態回復と治癒のみである。
代行者が使える回復魔法は状態回復、治癒、再生、神聖雫、神聖雨が使える。
①状態回復
解毒や治痺の効果がある。
②治癒
傷を癒し体力を回復させる。
致死傷の回復はできない。
③再生
死んでいない状態であればどんな傷でも元も状態に戻す。
離れた四肢の接合などもできる。
精霊装飾を施した際に使える魔法。
1日に3回の使用可。
④神聖雫
全体に状態回復、治癒の効果。
精霊装飾を施した際に使える魔法。
1日に5回の使用可。
⑤神聖雨
全体に再生に効果。
精霊装飾を施した際に使える魔法。
1日に1回の使用可。
「シエル様は状態回復と治癒がご使用できますが、回復魔法は魔力の消費が激しいので、今のシエル様にはあまりオススメ致しません」
「またなのか...それじゃ意味ないんだよ!なんで俺だけ最強の力じゃないんだよ!」
「シエル様は精霊石をお持ちになってますよね。では私からも精霊石をお渡し致します」
シエルはヴァンのときと同様にディーネからも精霊石をもらった。
駄々を捏ねていたシエルは少し落ち着いてディーネから精霊石を受け取った。
「精霊石に魔力を込めることで短剣ご使用できます」
【短剣】
水の加護を宿した小さな剣。
狭い場所でも攻撃ができるようになる。
受け流しを得意とし敵の隙を作ることに長けた武器。
「双剣とは全然違う剣だな」
「是非、お使いになってください」
「ディーネもう1つお願いしても宜しいでしょうか?」
「はい。なんなりとお申し付けください」
「アレスも実は怪我をしておりまして...ディーネの力で治して頂けないでしょうか?」
「承知致しました」
ディーネはアレスの怪我を再生で元に戻した。
力を使うことを禁止されていたがこれで力を使っても問題ない元の身体に戻った。
しかし再生とは便利な回復魔法だ。
ある種の最強魔法と言っていい。この力がレイに宿っているとは心強い。
「どうでしょうか、アレス様?」
アレスは走り回ったり、加護の力を使ったりして身体の調子を確認した。
「全然痛くないよ!治ってる、ディーネちゃん!」
「では、あとはレイ様にお願い致します。まだ身体のことをご説明してないのですよね?」
「はい。父と母に会ってからご説明した方がいいと思っておりまして」
「その方がよろしいと思います」
「では私はディーネと少し話したいことがありますので、また話しが終わりましたら聖堂に来てください」
「了解」
シエルたちはレイに連れられて聖堂を後にした。
アグライアがディーネに話したい内容とはルミエールのことであった。シエルやアレスについては何者であることに気付いていたが、ルミエールには触れることがなかった。気付いているのか、気付いていないのか。
「私に話したいこととは?」
「ルミについてですが、何か感じませんでしたか?」
「ルミエール様ですか?彼女は素晴らしい魔力量の持ち主です。あれほどの魔力量をお持ちに人間もそうそういません。逸材です」
「...そうですか」
ディーネはルミエールに眠る悪魔について気付いていなかった。ならここは信頼できるディーネに真実を話そうと決めていた。
「実はルミには、魔神が持つ固有能力である【嫉妬】が使えるのです。そして別人格とも何度か話しました。何か知らないでしょうか?」
アグライアから信じ難い内容を聞いてディーネはしばらくは何も口に出来なかった。
「レイ様の人格は兄君であるレオ様ですから、そのような類ではないということはわかりますが...魔神の力を使うとなると...ヴァンに情報収集していただきましょう」
この世界にルミエールと同じ魔神の力を使う存在がいないかを調べるようにヴァンに依頼するのであった。
残る魔神の力は【傲慢】、【憤怒】、【怠惰】、【強欲】、【暴食】、【色欲】である。
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