第10話 合成獣の加護
「そろそろ森を抜けるぞ」
「魔物も現れないし居る雰囲気はないな」
「そんなはずはないんだが...」
「待って!?」
ルミエールは何かに気が付く。
「何かこっちに来てるわ!」
「またさっきの魔物か?」
シエルたちは、周囲に警戒しながら武器を手に取り戦闘態勢に入る。緊張が再び始まる。徐々に聞こえてくるのは、人間にとって不快な音。
人間の可聴周波数は通常20〜20000ヘルツといわれている。迫り来る魔物が出す周波数350〜600ヘルツは、ちょうどよく聞こえる範囲である。
この500ヘルツくらいの高音は耳に突き刺さるような感じで飛び込んでくる。人間にとってのピンクノイズなのだ。この音域は、音の強弱に関係なく神経を刺激するような不快な感覚で聞き取られる。
「見つけた...排除...」
シエルたちの目の前に現れた魔物の姿は魔物によく似ているが雰囲気が全然違う。圧倒的な威圧感がシエルたちを飲み込もうとした。
そして魔物は人の言葉を話している。
「じ、人語...!?」
「こいつ喋れるのか?」
シエルとルミエールは驚いた。モーガンは嫌な表情で魔物を見つめていた。どうやらモーガンはこの魔物がどういう生き物なのかを知っているようだ。
「これは合成獣と呼ばれる生き物です!」
「合成獣?」
【合成獣】
合成獣の製造方法。
複数の生命体を合成することで誕生する。
また同体に複数の生命体を組み込み誕生させる。
前者は犬、猫、鳥の3種類を合成して誕生させるといったようなもの。
それは4種類でも5種類でも可能である。
一方後者は、同体に別の生命体遺伝子を組み込んで誕生させている。
姿はそのままで、異種の特徴が現れる。
この魔物は人間の遺伝子を組み込んでいる。その為、人語を理解し話している。
合成獣にもいくつかの部類がある。
①智獣
知能の高い合成獣を指す。
人語を理解したりする。
②豪獣
力の強い合成獣を指す。
複数の生物を合成させ破壊を得意とする獣。
「ですがこの魔物は、合成獣の中でも、厄介な部類にあたります。人語を話す合成獣は智獣といって、高度な知力を持つのです」
「じゃあ街や村を定期的に襲い来ていたのは、魔物が命令してたってことかよ!?」
「そういうことです。しかし、智獣はボス級のはず...こんな直ぐに出会すような魔物ではないはず」
そもそも智獣とは、簡単にできる合成獣ではない。
「俺...森...チョロチョロ...うっと惜しい」
人語と話せると言ってもカタコトだ。
完全な智獣というわけではないのか?
「ライア。こいつ、喋り方が馬鹿っぽいけど?」
「そうは言っても、合成獣は普通の魔物とは比べものにならない強さを持っています」
「何者なんだ!?」
「俺...名...マラリア...」
「お前が、この病気の元凶だな!」
モーガンは斧を握りしめて、智獣へと走っていった。病床に伏せてしまった人々のため、なのより、妻のため、娘のために1発キツい攻撃を喰らわせたかった。
「これでも喰らいやがれ!」
風の加護で軽くなった斧を縦横無尽に振り回して攻撃するが智獣はその攻撃すんなりと躱してしまう。
「攻撃...当たらない...次...俺...」
智獣は羽を羽ばたかせ、不快な音を出しながら近づいてくる
「不快周波音」
不快な音が智獣に対しての攻撃を阻む。耳を防いでないと、ストレスが溜まる感覚だ。防御することもできそうにない。智獣はこれを狙っていた。
智獣の攻撃が3人を襲う。
「死ね...世界...流血...もたらせ...」
「がはぁ...」
シエルとルミエールは何が起きたのか、一瞬の出来事すぎてわからなかった。身体が痛い。フラフラする。ルミエールは意識を失っている。
(ヤバい、ヤバい、ヤバい、死ぬ!)
「シエル、ルミ!一旦下がりましょう。死んでは意味がありません!」
「お、おう…モーガンさんお願いがあるだ。ルミを担いで走れるか?」
「もちろんだ。一旦逃げるぞ」
「いや、俺は殿を務める。その間に逃げてくれ!」
「何を言ってるのです!貴方も逃げるのです」
「無理だ!全員で逃げてもコイツは追ってくる!それこそ全滅する」
「何言ってる!?兄ちゃんも一緒に行くぞ!」
「安心してくれ。俺は死んだりなんかしないから。モーガンさんには、待ってる人がいるんだろ?なら、逃げてくれ!」
「とりあえず、嬢ちゃんを安全な場所に置いたら助けに来るから!」
「わかった!」
モーガンはルミエールを担いで逃げた。
「わりぃな、ライア」
「倒そうとしないで下さい。逃げ回って下さい!」
ふらつきながらシエルは立ち上がり剣を握り締めた。
「来い!ここから先は行かせしない!」
「蛮勇...」
※※※※※※
ルミエールを担いで逃げるモーガン。逃げ続けてから数分が経った頃、ルミエールが意識を取り戻す。
「...っん、私」
「気が付いたか?逃げてるところだ」
「ごめんなさい、私のせいで...あれ?シエルは?」
「兄ちゃんなら、魔物と戦ってるよ」
「戦ってるって。なんで逃げてるんですか!?」
「兄ちゃんが、俺たちを守るためだよ」
「そんなの無理よ!戻ってください!」
「それはできねぇ!男と男の約束だからよ!」
「そんなの知らないですよ!降ろして!私はシエルを助けに行きます」
「馬鹿野郎!!これで嬢ちゃんもやられたら責任とれねぇだろ!!」
厳しい声でルミエールを落ち着かせようとするがルミエールも声を荒げながら反論する。
「シエルは私にとって大切な人なの!いなくなって欲しくないの!モーガンさんも分かるでしょ!?大切な人の命を守るために、ここに来たんでしょ!命を懸けてでも守るものがあるの!だから戻ってよ。お願い!」
ルミエールの必死のお願いにモーガンは足を止めた。
「本当に戻るのか?」
「もちろんです!シエルもアグライアも。みんなで街に戻らないと意味がないです」
「わかった!兄ちゃんの事は嬢ちゃんに任せる。引っ叩いてでも連れてくぞ!」
「ありがとうございます!急がないとシエルが…」
ルミエールとモーガンは急いでシエルの元に駆けつけたが...時は既に遅かった。
そこには、血まみれで倒れるシエルがいた。アグライアはルミエールが戻ってきた事に驚いたが、ルミエールはこの光景を見て絶望してしまった。
「う、嘘…嘘よ」
ルミエールは膝から崩れ落ち言葉を失った。
「コイツ...無駄死に...女...死ぬ...」
智獣はゆっくりとルミエールに近づいてくる。
「クソ!これまでのか?すまないシュロン、シェーン...先に逝って待ってる」
モーガンは覚悟を決めて、斧を手に取ってルミエールを守るように智獣に立ち向かう。ボロボロになりながらも、倒れることをしない。
「ルミ!何してるのです?立ち上がって下さい。貴女も失えば何もかも終わりです。希望の光を絶やすわけには、いかないのです!」
しかしアグライアの言葉は、ルミエールにまったく届いていなかった。それより小さな声でブツブツ何かを言ってる。
「……す」
「どうしたのですか?」
「…ろす。殺す、殺す、殺す、殺す、殺す!ぶっ殺す!!!!!」
ルミエールの心の中で何か目覚める。ゆらりと立ち上がり金色の瞳が赤い瞳に変化していた。
そして身体の周りからは謎の力が溢れ出てくる。
「まさか霊力が使える領域に達したのですか!?」
怒りに狂ったルミエールが突如使えるようになった魔力の正体は果たして本当に霊力なのだろうか?
しかしルミエールの身体から溢れでる魔力は少し違っていた。
モーガンも異様な雰囲気に息を飲んだ。
「どうしちまったんだ?嬢ちゃんは...」
「女...俺たち...同じ...」
「………」
マラリアが足を止め、何かを考えてる一瞬の隙を見てルミエールは指に魔力を込め、智獣に魔法を放った。
ルミエールの魔法は智獣の1本の腕を射抜いた。
「げはぁぁぁぁ...」
智獣はルミエールに攻撃するも、その攻撃を片手で止める。智獣を下から睨みつける。その目は鬼神のような威圧感を放つ。智獣はルミエールの殺気を感じ取り、後ろへ飛んでゆく。
「女...何者...力...どこで...」
「………」
ルミエールはその言葉にすら耳を傾けてる事はなかった。
「女...おかしい...怯め...不快周波音」
辺りに凄まじい音が鳴り響く。モーガンはこの音に耳を塞いでいたが、ルミエールはその音に全く屈する事なく、智獣へと駆け寄った。行動出来るルミエールに智獣は焦ったようにみられた。攻撃をしても、すべてを躱すルミエール。
智獣の近くまで辿り着いたルミエールは無言で見つめた。そして1本の指に魔力を凝縮させて智獣の顔へ向けた。
ルミエールは小声で一言放った――
「レ……ア……」
よく聞こえなかった...
智獣へ魔法をぶっ放した。
だが攻撃は僅かに逸れてしまい、顔を射抜くつもりが羽を射抜いていた。
智獣はこの一瞬の隙に森の奥深くに飛んで逃げていた。
ただの姿をジッと見つめていたルミエール。
そして身体を覆っていた魔力がフッと消えると共にルミエールは地面へと倒れた。
「やったのか…?それより兄ちゃんは無事か!?」
モーガンは急いでシエルの元へ駆け寄り名前を何度も呼んだ。返事はなかった。
モーガンがシエルとルミエールを助けている時に、アグライアは考え事をしていた。
「あの力...何かおかしいです」
ルミエールの力の正体は?
そしてアグライアの予感は…
その出来事はもっとあとになってからである。
「とりあえず兄ちゃん死んではない。このまま嬢ちゃんと一緒に運んでいく。精霊様。このまま近くの村に向かいます!」
こうして智獣と戦いは、互いに大きな傷を残して終わった。
智獣を完全に倒せはしなかったもののかなりの痛手を負わせた。
そしてシュヴァルツヴァルトから撃退した。
不安と疑問が残る結果であったが、モーガンは2人を担いでアグライアと共に近くの村へと向かった。
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