第1話 終わりと始まりの加護
〜2度目の敗北〜
今ここに、数十億年の歳月を経て災厄の魔神が蘇る。
魔神が復活を遂げてから10年が経ち、世界には多くの魔物が蔓延り、各地は次々に魔物の手によって滅んだ。しかし中には魔物に対抗する主都や街もあった。
そんな時の中で人間は恐怖に脅えながらも生活を続けていた。
一方で、魔神に対抗する希望の光も誕生しており、創造主の意志と精霊の加護を脈々と受け継いできた6人の精霊の代行者と呼ばれる者たちだ。
魔神との因縁に終止符を打つために立ち上がり、力をつけていたのだが10年という歳月を魔神に与えてしまったことが最大のミスであった。既に力を取り戻していたのだ。
「まさか...これほどの強さだと思っておりませんでした。創造主様によって封印され、力は衰えていると思っていましたが...10年の間に力を取り戻しているとは」
「フフッ...フハハハ。人間如きが神である我に勝てるとでも?貴様らは所詮、創造主に作られし玩具よ!」
「黙れ!貴様だけは必ず倒す!」
彼の名はラルカン。
アグライアから力を与えられた光の代行者である。
「格の違いが未だに分からぬ阿呆なのか?」
「まだ、私たちはやられていないわ!」
彼女の名はクラルテ。
ラルカンと同じくアグライアに力を与えられた光の代行者。
「なら我をもっと楽しませろ!貴様らの絶望こそが我が喜びよ!」
「クソッ!どうすればいい?」
彼の名はフレイ。
火の精霊・イフから力を与えられた火の代行者。
パーティーの中で最強の火力を誇り、攻撃担当として幾度となく強敵を灰にしてきた男。
魔神に対しても、威力のある攻撃を打っているが効果のほどは全くなかった。
「効かぬといっておる!」
魔神は小蝿をあしらうように、いとも簡単にフレイを薙ぎ払い続けて攻撃を仕掛ける。
「鉄壁」
魔神の攻撃を防ぐ、彼の名はボーデン。
大地の精霊・ガイアから力を与えられた大地の代行者。
大地の加護は防御特化と攻撃を可能とする万能型の力である。
ボーデンは防御担当として、幾度となく強敵の攻撃から仲間を守り続けてきた、屈強な身体をもつ男。
そして今も魔神を目の前にしても一歩も引くことなく仲間を守り続けていた。
「いいぞ!足掻け足掻け!!!!」
「フレイいくぞ!俺が奴の気を引きつける!その間に精霊装飾を施せ!」
【精霊装飾】
精霊の代行者だけが使える特殊な技。
精霊本来の力を身に纏い、精霊の姿へと変化することができる。これが代行者と呼ばれる所以。
また精霊装飾を施すことで、霊力が使えるようになる。
魔神に突っ込み、撹乱させているのは彼の名はヴァント。
風の精霊・ヴァンから力を与えられた風の代行者。
風の加護は素早い攻撃を得意とし、連撃を重ねて相手に攻撃の隙を与えないのが特徴。
また遠距離攻撃も得意とする。
ヴァントが魔神の気を引きつけている間にフレイは霊力を体内に溜め込む。
徐々にフレイの身体から霊力が溢れ始めてくる。
霊力を纏ったフレイは魔神に近づき、剣を振るった。
「爆撃炎斬!」
巨大な炎の塊が爆発すると灼熱の炎へと変わり炎の渦柱となって天を貫く。魔神は炎の渦柱の中に飲まれると絶叫の声を上げる。
「ヌワァァァァ...」
「効いてるぞ!」
霊力なら魔神に対抗できると喜んだが、魔力消費は相当なもので何発も使えるものではない。
炎が鎮まると魔神が姿を現すが、平然と立っていた。
「...なんてな!あの程度の力で我を倒せると?滑稽すぎる」
「ま…まさか効いてなかったとでも言うのか…イフの力だぞ!?」
「いい顔をする。絶望に満ちた顔だ。美味…美味だぞ!」
魔神は絶望に満ちたフレイに興奮し、フレイとヴァントの身体を鋭い爪で切り裂いた。身体を切り裂かれた2人は致命傷を受け、大量の血が流れ始める。
2人の傷を癒やす為に駆け寄る女性の名はアクア。
水の精霊・ディーネから力を与えられた水の代行者。
水の加護は唯一回復魔法が使える力であり、必要不可欠な存在である。
攻撃することもできるが強くはない。
「ダメ...どうして...血が止まらない」
アクアが使う回復魔法でも傷を癒すことができないことなど今までになかった。
何故癒えないのか?
それは魔神の攻撃に理由があった。
呪い…。魔神が持つ7つの大罪の1つの固有能力【怠惰】であった。
怠惰を受けると全ての効果が減速となる。無効とは違うためアクアの回復魔法は2人に効いているが、その効果が現れるのが非常に遅く、回復されてないように感じているのだ。
「フレイ!ヴァント!しっかりしろ!」
2人の意識は遠のいていく——。
フレイは遠のく意識の中でラルカンの腕を掴む。
「すまない...あとは...」
「フレイ!おい、返事をしてくれ!」
フレイとヴァントは返事をしなくなった。体を揺らしても目覚めることはない。その体は、ぐったりとして生きた人間の感覚ではない。その間、ボーデンはずっとラルカンたちを守り続けていたが、それも限界のようだ。
「ラルカン!!俺も限界みたいだ。お前達を最後まで守ってやれそうにない」
「大罪の力の前に押し潰れるがいい!」
魔神の持つ固有能力【嫉妬】は重力を扱う力である。
その重さは一体いくらあるのか?
鉄壁で何とか持ち堪えるが、地面はヒビ割れ陥没してゆく。
「今のうちにここから離れろ!押し潰されるぞ」
ラルカンたちがボーデンから離れた次の瞬間、鉄壁は粉々に砕け散った。押し潰されるときに周囲にボーデンの血が飛び散るとラルカンたちは返り血を顔に浴びることになった。
「そんな...ボーデン様まで」
アクアは完全に魔神の恐怖に脅え、立ち上がることができなかった。次々に仲間が死んでしまう光景を目の前にして平然となどしていられなかった。
「許せない!光の力でアンタを断ち切ってやるわ!」
クラルテは怒りに満ちて霊力を解放する。
「待つんだクラルテ!早まるな!」
だがラルカンの静止を聞き入れることは無かった。
「霊力魔法陣・聖光放射!」
クラルテは巨大な魔法陣を展開させ、光を集めてくる。大量の光は熱に変わり全て焼き尽くす。
「最後の一撃よ!闇諸共、光の中に消え去りなさい!」
クラルテの放った魔法は一直線に魔神に向かっていく。魔神は片手を差し出し魔法を受け止める。クラルテは、その力の差にただ立ち尽くすしかできなかった。
「少々だがやるな。こんな力でも我に傷を負わすとは。お返しだ!受け取るがいい!」
魔神はクラルテの魔法のエネルギーを吸収して固有能力である【憤怒】を使う。
憤怒は受けた攻撃のエネルギーを吸収し倍増させる能力を持つ。
「黒濃霧」
魔神が放った攻撃の前になす術のないクラルテは死を確信した。
まだやり残したことが山ほどあった。
死を確信したときにゆっくりになる感覚が色んなことを思い出させる。攻撃がクラルテに当たる直前に、アクアが目に前に立ち、防御魔法で対抗する。
「深海壁!」
分厚い魔法壁が、魔神の攻撃を阻む。
と言ってもボーデンほどの防御魔法ではない。魔神の前ではすぐに崩れてしまうのは時間の問題だ。
「アクア。やめて、あなたが死んじゃう!」
「クラルテ様!まだ...まだですよね?」
「まだって何よ?」
「まだ、その想いを告げてはおられませんよね?」
「そんな事できるわけないわよ!だって...アクアだって好きなんでしょ!」
「私はいいのです。クラルテ様、私はずっと幸せでしたわ。好きな人の近くにいれることが、どれだけ素敵な事で、どれだけの力を貰えたか。もう十分頂きました。ですが、クラルテ様にはその想いを口にしてから」
アクアの言葉に涙が止まらない。
「霊力魔法・神聖雨!」
神聖なる雨がラルカンとクラルテの傷を癒し全回復させる。
「ラルカン様もクラルテ様も、全快しましたわ!最後の言葉だけでも」
ニコッと笑うと防御魔法は崩れてしまい、闇の霧がアクアを飲み込む。霧に飲まれるとアクアの壮絶に苦しむ声が聞こえてくる。泣き叫ぶ悲鳴を聞きたくないと耳を塞ぐ。
霧が晴れたあとに残っていたのは消し炭のようにボロボロな姿になったアクアだった。
「嘘よ...どうしてよ!」
「アグライア!もう打つ手はないのかよ!?」
「私たちの負けです...」
ラルカンは膝から崩れ落ちた。
そんなラルカンをクラルテはそっと抱きしめ、想いを告げようとしたが…
(ごめんアクア...やっぱり無理よ。抜け駆けなんてできないわ)
「すまない…みんな。この戦いは俺たちの負けだ」
「つくづく愚かな生き物だ。なぜこのような生物を作る必要があったのだ、弟よ?我を倒す存在と豪語していたが…呆気ない存在だったな」
魔神は不思議な顔をして、ラルカンとクラルテを見つめた。抱き合った2人をジッと見つめたが、なんの感情も湧いてはこない。
「死ぬがいい!」
2人は抵抗することはなかった。絶望の中に落ちてしまえば、人は何も出来なくなる。
押し潰されると2人の血は、すぐに地面を真っ赤に染めた。
ラルカンもクラルテも死んだ。
「さぁ玩具も潔く死ぬがいい!」
「まだです!」
「まだ?どういう意味だ?」
「まだ私には希望の光は潰えていません。最後の力を使い、再び貴方の前に戻ってきます!3度目の正直です。これが最後です!」
「この期に及んでワケの分からぬことを」
「英傑たちは完全には死んではいません。人間は輪廻転生によって、再び次の肉体に宿るのです。前世での記憶は残らないものの、こうして貴方を倒すために魂を意志を使命を受け継いできたのです!」
「なるほどな...さすがは我が弟だ。考えているじゃないか」
魔神は創造主の思考に感服をしたが、笑って言い返した。
「だが、その魂が次の肉体に宿り、我の下に来る時間などない。これで終わりになるのが理解できてないようだな」
「これさえも、創造主様は読んでおられたのです。貴方が復活する時も把握できました。私たちの敗因は、10年という時間を貴方に与えてしまったことです。次に合うのは復活した瞬間です!」
「どういうことだ?」
「私は過去へと戻ります。そして、英傑たちの魂も過去へと導くのです。創造主様が私に与えて唯一の魔法で!」
この魔法は1度切り…次はないということだ。最後の切り札をアグライアは使った。
今も尚、この場を彷徨う6人の魂はアグライア元へ集められた。アグライアが魔力を解き放つ。
「時空魔法・魂転移!」
異界の門が開くと、6つの魂は過去の世界へ転送された。行き先は魔神が復活する20年前だ。
「小賢しい真似をしてくれる!」
「この魔法を使うと、私の体にも大きなリスクがありますが...」
「時空魔法・時空旅行者!」
アグライアの背後に光のゲートが開かれ、吸い込まれてゆく。
「フッハハハ!どこまでも足掻きよるわ。だが、その望みも過去の世界で打ち砕いてくれよう!」
「魔物も存在しない過去へと戻るのに、できるはずないです!」
「過去戻ればわかること。そして、《《過去の世界でも絶望し足掻きまわれ》》。愚かな人間と玩具よ!」
アグライアが開いたゲートが閉まろうとした瞬間、魔神は不気味な笑みを浮かべて、アグライアを見つめていた。
「………」
亡き主である創造主の願いを叶えるために、アグライアは過去の世界へ戻る。
アグライアが戻る時間軸は6つの英傑の魂と同じ20年前。
しかし、この時から既に魔神の力によってアグライアの思い描いた台本通りにはいかなかった。そんな中、過去の世界では魔神や魔物に対抗する新たな台本が整いつつあった。
新たな『精霊の加護』の幕開けであった。
ご覧頂き、誠にありがとうございません。
評価やコメント等々頂けると嬉しいです。
改稿しておりますが、引き続き『精霊の加護』を宜しくお願い致します。




