2話 不思議なメイドと居城
僕は一晩中歩いて、今は何処とも知れない山中を進んでいた。
夜は危険な魔物が彷徨いているけれど、それは僕が作った護符のおかげ危険を回避できていた。
僕が作った護符は、百メートル範囲内にいる魔物の方向を鳴って知らせてくれる道具だ。
これで幾度か、迷宮での危険回避に役立ったんだけれど。
解雇されちゃったから、護符がパーティの為に活躍できる事はもう無くなったんだよなぁ。
「はぁ……これからどうすればいいんだろう」
さっきからため息しか出ていない。
それもこれも、僕は歩きながらずっと今後の事を考えていたからだ。
僕は生まれ故郷に帰る事も考えた。
でも、ファウストに追い出されたって言えば、親はいい顔しない。
「いっその事こと、新しいパーティを結成してみようかな……」
いや、それも却下だ。
支援しかできない僕には、新しいパーティを作っても結局同じ事の繰り返しになりそうだしな。
僕はうんうんと独り言を唸りながら、まだ山中を歩いていた。
「え……? な、なんでこんな山中に城があるんだ!?」
僕の目の前に、立派な建築様式のお城が飛び込んできた。
城を囲む天高くそびえ立る見事な大理石の城壁。
真っ白な漆喰で塗られた城の外壁が、陽に照らされてキラキラ輝いている。
僕は様々な国を旅してきたけれど、こんな美しい城は見たことがない。
「――まさか魔王軍の居城の一つか?」
そう考えたけれど、僕は即座に否定した。
何度か魔族が占拠した居城を攻略してきたから分かる。
ここからは、魔族軍特有のおどろおどろしい雰囲気を感じられない。
むしろ神聖な神殿のように、神聖で厳かな雰囲気が漂ってくる。
「人の気配はまったく感じられないな……悩んでいても仕方がない!」
考えるより行動あるのみだ。
僕は警戒しながら、その城の中へと足を踏み入れた。
外観もさることながら、丁寧に手入れが行き届いた中庭。
大理石で造られた噴水から水が勢いよく湧き出ている。
ゴクリと僕の喉がなった。
ここまで水を節約していたから、大量に湧き出る水を見れば、喉も我慢なんて出来るはずもない。
「ちょっと失礼しますよ……」
僕は噴水に溜まった水を手で掬い取り、グッと飲み干した。
「美味っ!? なんだこりゃ……これはただの水なんかじゃあない! この味はエリクサーだ!」
市販されているエリクサーの色は、通常は真っ青な色をしている。
でも、ここで湧き出しているエリクサーは無色透明だ。
いったいどんな錬成技術があれば、こんなエリクサーができるんだろうか。
それにエリクサーをこんなに大量に使える人って、どんな金持ちなんだ。
僕はその人物に興味が湧いた。
噴水のエリクサーを水袋に入れ終えると、僕はさらに建物の奥へと進んでいく。
城の中に入ってすぐに、天井が高いホールへと出た。
敷き詰められたふかふかの絨毯を歩いて、中央にある上へと続く階段を登っていく。
階段を登りきったエントランスに、一人のメイドが立っていた。
見た目は十代前半の形をしてる色白で髪の長いメイド。
何処となくこの世の存在じゃないみたいだ。
「――お待ちしておりました。ご主人様」
彼女はそう言うと、恭しく僕に頭を下げた。
「ちょ、ちょっと待って。僕がご主人様って、何の冗談んだい? と言うか、君は誰だよ」
彼女はきょとんとして首を少し傾げた。
「……誰、と申されましても、見た通りのメイドでございます」
「いや、見た目の話じゃなくて。ええっと、なんて言えばいいのか」
「ふむ。どうやらご主人様は混乱している様子でございますね。分かりました、ここはわたくしが説明させていただきます」
そう言うと彼女は再び頭を下げると、僕に話し出した。
○
彼女から聞かされた事は、僕には到底信じ難い内容だった。
「ええと……つまり僕は選ばれた存在でここにたどり着く事ができたと。で、ここに訪れた人が君や城の所有者になると言うことだね」
「はい、その認識であっております」
「で、君は人間じゃなくて、この城を守り人として、一万年前からここに居たと? それもたった一人で……」
「はい、その通りでございます」
「そして、ここはドワーフやエルフたちの技術の粋を集めて作られた城塞か」
「……ご主人様は信じられませんか?」
感情のこもってない声で、僕に彼女は訪ねてきた。
「まあ……今、君が僕の目の前にいる事は事実だし。信じない訳にはいかないだろ」
「……なかなか理解力があるようで助かります。それでは、早速これをお受け取りくださいまし」
彼女が差し出した手の中に白く輝く珠がある。
なんだか飴玉みたいにも見えるが……まあ考えれば飴玉なんかじゃないんだろうな。
「……これは?」
「これは魔術と科学力を融合させて作り出した、唯一無二の【全能】スキルを付与する珠でございます。さ、これを……」
スキルと言うのは、十二歳になったら教会で神に与えられる技能の事だ。
僕は錬金術師のスキルを授かっていた。
神の奇跡が、まさかこんな飴玉みたいな珠で再現できるなんてな。
それ以前に、全能なんてスキルは僕は知らない。
「ねえ、君。それってどんな効果を持つスキルなの?」
「全能……全てを可能にするスキル。それと同意にこの世にある全てのスキルを使う事が出来る【全技能】です」
「この世の全てのスキルを使う事ができるって……な、なんだよ、それ?」
「この世に今存在する全てのスキルは、元を辿ればこの全能スキルから始まったのです。
それを長い間、研究した人間たちが普通の人々に分け与えたのが、スキルの始まりなのです。
そしてそれが親から子へ……子から子へとスキルは引き継いでいくのが、スキルの存在なのです」
高揚のない声で坦々と彼女は説明を続けていく。
僕は驚く事すら忘れて、呆然として彼女の話に耳を傾けていた。
「……じゃあスキルは神の奇跡だとか言う教会の言い分は、嘘って事になるのかい?」
「いえ。神の存在は証明されておりますから、一概には嘘とは言えないかと。神から特別なスキルを授かる存在も認識されておりますからね。
ただ、現在の教会はわたくし共と似た技術を持っている可能性が高く、その技術でスキルを覚醒させているのでは無いか、と推測されます」
本当になんて言ったらいいのか、僕には理解が追いつかない。
ただ彼女が嘘を付いているような感じはしない。
「……それで。僕のスキルはどう使えばいいんだ?」
「これをお使いください」
彼女は何処からか分厚く古めかしい一冊の本を取り出した。
「この本は……?」
「これはご主人様が覚えなければならない、全スキルの取扱説明書です。今からここにある内容を全て暗記してください」
「えええ!? これを全部覚えろって言うの!?」
パッと見ただけで数千ページはありそうな、分厚い本だ。
この内容を覚えるのに、どれくらいの時間がかかるのか想像もできない。
「ご安心ください、ご主人様。まず暗記スキルをお使い頂ければ、こんな本の内容など、二日で暗記できましょう」
彼女は笑顔一つ見せずに、高揚のない声で僕に言い放った。




