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知識の箱の最高傑作  作者: 佐田祐美子
夜会水晶
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大嫌いな名前






 カフカはひどく魔力を消耗していた。


 盗賊を警備隊に引き渡した後、連れの体調不良を理由に部屋へ引っ込んだ。これだけ大きな騒ぎに巻き込まれたのだ。早々に宿を変えたいが……。

 ちら、と目の前のレーテに目をやる。黒いマントは隣にきちんと畳まれている。となるとキツい印象の顔ときちっとひとつに括った長い髪が見える。声を掛けても一切反応しない。ぶすっとしているのは今の状況が原因なのだが。


「う……」


 おれの膝の上でカフカが呻いた。魔力を分けてやっていた手をどければ、まだとろんとして眠そうな目とぶつかった。


「おはよう、水宮の巫女姫殿」


 カフカは目を見開いた。やはり当たりのようだ。

 水宮はディグリース小魔法王国にある占いの宮だ。地震や嵐といった天災を予言し、時には政治に口を挟むこともある。

 巫女姫はその頂点の役職だ。

 巫女姫には一角獣が護衛としてついている。塒のある水宮からは離れている為、力が弱まり明確な形を成していなかったものの、カフカを守ったのは確かに一角獣だった。


 おれでもわからなかったのも当然。水宮は男子禁制。加えて巫女姫はその能力を利用されないために秘匿されている。しかもこんなにちっこいのが巫女姫だなんて思っていなかった。


「いつまでくっついてるんですかカフカ様! 男に触ると穢れます! 占いができなくなったらどうするんですか!?」


 黙りだったレーテが突然喋りだしたのにはびっくりした。しかしカフカは起き上がることもなくおれの膝にしがみついた。


「レーテの嘘つき。ディーに触っても占いはちゃんとできてるもん。喋ってもできてるもん」


 レーテは一度「うっ」と唸って黙った。代わりにおれに向けられる視線に殺意が増す。おれは溜息をついた。


「おいカフカ。起きたならどけ。足が痺れる。ついでにおれはロリコンじゃないから安心しろとレーテに伝えろ」


 どうやらレーテは女じゃないと話をしないと見た。カフカはひどく不満そうな顔をしながらもおれの横に座った。かと思えば腕をがっちりホールドされた。そのままぼそぼそとおれの言葉を伝える。


「カフカ様、そういう問題ではありませんとディグリース王子に言って頂けますか?」


 やはり、カフカの言葉には返答する。おれは渋面を作った。よりにもよって大嫌いな本名で呼びやがって。一触即発の空気になったが、思わぬことでそれはぶち壊された。


「ディグリース王子……って、誰?」


「「え」」


 おれとレーテは図らずも同じように驚いてカフカを見た。当のカフカはきょとんとしている。レーテがおろおろとカフカに説明を始めた。


「誰って、彼ですよ。我がディグリース小魔法王国の有名軍師にして第一王子、『知識の箱』と名高いディグリース・ディグリース様です」


 カフカが信じられないようなものを見る目でおれを見た。おれが頷くとぐいっと袖を引っ張られた。


「そんなの聞いてない!」


「なんでだよ。王女である姉貴の弟なんだから王子だよ」


 自分で言っていてなんだか情けなくなってきた。だがカフカはまだ混乱した顔をしている。姉貴が王女であることも知らなかったようだ。これは姉貴が悪い。ともあれ責任を追及する前に、だ。


「レーテに本名ではなくディーと呼べと言え。虫酸が走る」


 本来ならば生まれることのない四人目の子ども。名前に悩んだ親父がテキトーにつけたものだ。大袈裟で馬鹿馬鹿しいにも程がある。ディグリース・ディグリースなんて。

 カフカがレーテに伝えて、レーテは渋々了承した。








ディグリースの名前は英語の勉強をした時に目についた「decrease」という単語が由来。特に意味はありません。

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