凶兆襲来
「ディーっていつも眠そうだね」
朝飯の時に大欠伸したらカフカに言われた。そりゃあ徹夜で調査してるからな、とは言えず「育ち盛りだからな」と返す。本当のことを言えばカフカのことだ。調査についてくるとか言いそうだ。それは大いに困る。
「まだ大きくなるつもりなの?」
おれはもう身長は伸びていない。
単純なカフカは目を丸くしておれのつむじ辺りを眺め始めた。ストロベリーブロンドとか甘ったるい名前の色味で、なおかつ癖毛がコンプレックスである為、非常に落ち着かない。カフカの額を弾く。
「いたっ。なんでえ?」
「さっさと食え」
「食べてるってば」
また口を尖らすが、コップを覗いて固まった。薔薇色の頬がみるみる青ざめる。
「どうした?」
カフカは一度唇を結んだ。
「凶兆」
いつもの饒舌はどこにいったというくらい簡潔な占い結果だった。続きを促そうとしたら魔石がリンリンと音を発した。取り出して回線を開く。
「姉貴?」
『弟、問題が発生した』
「は?」
『使者が王宮内で昏倒しているのが見つかった。〈夜会水晶〉も奪われて行方不明だ』
「ちょっと待て、王宮内って言ったか?」
姉貴に返しながら、宿の食堂の空気が変わったのに気づく。明らかに変な格好の人物が入って来たのだ。カフカは丁度背を向けていて気づいていないが。そちらへ目を向けながら姉貴の話に耳を傾ける。
『ああ、今早急に調査を』
「その必要はなさそうだ。犯人はこっちに来てる」
『なんだと?』
姉貴との通信を切る。そいつはこの蒸し暑いハニープールで黒マントを被っていた。きょろきょろと周りを見回すような仕草をすると、案の定こちらへつかつかと近づいてくる。やっと気づいたカフカが振り向くなり「あっ」と悲鳴に近い声を上げた。
「レーテ!?」
その黒マントは呼ばれるなり物凄い速さでカフカの腕を捕まえた。
「やっと見つけました。さあ帰りますよカフカ様。このような所にいては穢れます!」
呑気に情報を聞き出そうとしている場合ではなかった。帰る、という言葉に腰を浮かせる。姉貴が本を買ってくれなくなる!
「ちょっと待てよ」
レーテの腕を掴むと、この世の終わりのような悲鳴を上げられ振り払われた。次いで浴びせられた言葉は、
「触らないで穢らわしい!」
だった。その瞬間、レーテの懐が光る。あれは〈夜会水晶〉っ!?
目の前で光が炸裂して目を閉じる。次に目を開けた時には、食事中の客もろとも宿から追い出されていた。