深夜
夜、カフカが寝たのを確認して宿を出た。酒を呷っていた受付係が「お兄さんが好きそうな店はずっと右に行った所だよ」と声を掛けてきたが、生憎おれはロリコンじゃない。金をケチって部屋は一つしか取っていないが、おれはちゃんと床で寝ている。睨みつけて黙らせ、山の方に向かった。
カフカが占いで怪しいと言っていた山だった。聞き込みしてみてもタチの悪い賊が棲み着いており、町で盗みを働いてはあの山に戻っていくという話を何度も聞いた。警備隊が追ってもどうしても途中で見失ってしまうとも。
風魔法を使って加速して、山の麓に辿り着いた。だが山には入らず足を止める。舌を巻いた。また当たりだ。
最高傑作、〈夜会水晶〉。
手のひらに収まるサイズの丸い水晶で、赤と青で対になっている。発動すると持ち主同士しかお互いの元に辿り着けなくなり、他の者は惑わされて道を失う。
賊は山に戻った後〈夜会水晶〉を発動して警備隊を撒いているのだろう。〈夜会水晶〉の片割れは王宮に保管してあるはずだから、それがなければ賊の所へ辿り着くことができない。
「こりゃ厄介だな……」
頭を掻いて呟いた。今背負っているブツを使えば強行突破できなくもないが、その場合確実に〈夜会水晶〉が壊れる。姉貴に連絡して王宮にある片割れを届けてもらうしかない。おれはポケットから通信用の魔石を取り出して姉貴を呼び出した。
「おい姉貴」
『なんだ弟。少しは時間を考えろ』
文句を言われたが、声音は平坦だった。どうせ眠っていなかった……眠れなかったに違いない。
「〈夜会水晶〉の片割れが見つかった。どうにかしてハニープールまで寄越してくれ」
『ハニープール? また微妙な所にいるな』
「〈夜会水晶〉を発動させながら来れば国境付近に駐屯してる兵は撒ける。ただし、こっちの片割れは賊が持っているから、国境を越えたら使わないでくれ。下手すりゃ賊に襲われる」
『わかった。足の速そうな者を送ろう。少し待て』
堅苦しい返事で通信は切れる。おれは天を仰いで溜息をついた。
「面倒臭ぇ……」
たった一ヶ月でこの有様だ。それでも片方が祖国にあるだけマシ、近いフォン・ダン王国で見つかっただけマシ、と自分に言い聞かせた。