呑気な食事
世界にひとつしかない強力な魔法道具、通称最高傑作。職人が魂を込めて作ったそれらがあれば、膠着状態に陥った戦況をひっくり返せると姉貴は考えた。
大陸の西の端と東の端の国が争っている現状では、中間地点のディグリース小魔法王国……つまりうちの国が戦場になる。魔法技術は最先端とはいえ、小さな領土でなにができよう。同盟国たる西の国の支援がなければ、早々に蹂躙されている。
だからこその最高傑作だ。場合によっては戦ってでも奪い取る。穏便に済むに越したことはないが。
「うーんうーん」
おれの物騒な思考とは無縁そうなカフカは、スープを見つめたまま難しそうな顔で唸っていた。通常星占は星の見える所でしかできないはずなのだが、カフカは屋内だろうが昼間だろうが関係ないらしい。しかも液体ならどれでもいいようで、食事にスープが出る度にこうして唸っている。
おれは食事の手を止めて溜息をついた。
「カぁフカ。スープで占いするのはやめろって言ったろ。行儀が悪い」
「でも~、だって~、見えるんだよ~」
言うのに合わせて蜂蜜色の頭が動き、頭のピンクのリボンも揺れる。黙りだった最初の三日間はなんだったんだ、というくらいカフカはよく喋る女の子だった。年は十歳越えたか越えないか、という具合。珍しいことにおれの脳内データベースには引っ掛からない。
とりあえずおれはその額を軽く弾いてやった。
「いたっ」
「さっさと食え、終わらん」
「はーい……」
唇を尖らせながらもようやっとスプーンを握ってくれた。動作は滑らかで洗練されており、少なくとも庶民でないことは窺える。
旅を始めて一ヶ月。カフカについてわかったことはあまりない。
まず、人見知りは大抵男に発揮される。女にはそこまででもない。加えて馬車に乗ったことのないくらい世間知らず。うっかり口を滑らせたことには、「閉じ込められて育った」とも。しかし大抵「言っちゃダメなんだよ!」の一点張りで詳しい身元は話してくれなかった。意外に頑固だ。
ただ、姉貴の言った通り占いの腕は百発百中。カフカの示す方向に歩いて行ったら森に捨て去られた最高傑作を発見したほか、敵の兵を避けて進むのにも役立った。おかげであっさり敵国の兵が駐屯しているフォン・ダン王国に入り込めている。
「もーらい!」
考え事をしていたら焼き魚を一口カフカに盗られた。が、すぐ後悔することになるだろう。案の定、口を押さえて涙目になっている。
「からい……」
「ここ、ハニープールは港町で、主に香辛料を取引している。という訳で、この魚には香辛料がたっぷり使われている」
「それを早く言ってよぉ」
コップの水をちびちび飲む姿が面白くて、つい頬が緩む。おれにもまだわからないものがあったなんて感慨深いが、個人情報に好奇心で首を突っ込むような阿呆ではない。任務に支障が出なければスルーすることにした。
なにより面倒臭いからな。