*氷の姫
ここからは少し茶番にお付き合いください。種明かしは最後です。
*
その日はなんだか胸騒ぎがしていて、いつもより早く目が覚めた。かといってもう一度目を瞑る気にはなれなくて、程よい温度のベッドから抜け出した。カーテンを開けて目を細める。空はすっきりと晴れていて、太陽の光が一面の雪から跳ね返ってきている。昨日の吹雪が嘘のよう。
「カフカ様、お目覚めでしたか」
部屋に侍女が入ってくる。しかし、知らない顔だ。首を傾げて訊いてみる。
「いつもの侍女はどうしたの?」
彼女はびくっと身を震わせた。なにやら口の中でもごもご言ってから、やっと返事をする。
「その、実は。エイル様と、か、駆け落ち、したようなのですっ!」
言われたことの理解に少し時間を要した。理解した途端、心臓がどくどくと重い音を立て始める。
「ねえ、嘘よね? だってエイル様はわたしの婚約者でしょう?」
「仰る通りでございますっ」
とうとう言葉を失った。平衡感覚がなくなってよろめくと、「お気を確かに」という侍女の声がぐわんと響いた。
じきに春がやってきた。雪はほとんど溶けてしまったが、わたしの心は凍ったままだ。
ゴォン、ゴォン、ゴォン……。
銅鑼の音が響き渡る。謁見の間から見える広場では、若い男が断頭台へ引きずられていくところだった。あれはわたしを得ようとした男。けれどわたしの用意した謎に誤答して打ち首になる。自信満々に誤答した彼は、口説き文句を吐いたのと同じ口でわたしを罵り、命乞いをした。
最後にこちらを見上げ、わたしを目にした男はなにを思っただろう。これで十二人目。男なんて信じない。みんなこの世からいなくなってしまえばいいんだ。
挑戦者の来訪を告げる銅鑼が鳴る。今日はまた多いこと。