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異世界に転生して時間魔法しか使えない俺  作者: けろ
第一章 異世界生活編
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第五話 フタバ草の分類と言語チート


異世界初の雨の日との遭遇により、悪天候でのフタバ草拾いを強いられるかと思った俺であったが、受付嬢の紹介によりなんとか他の仕事を得る。

エリス魔法研究所でフタバ草や他の素材の分類をすることになった俺は、早速仕事をするべく作業場へと向かった。

作業場についた俺は、一緒にやってきたエリスさんに仕事の指示を仰ぐ。

エリスさんが指差す作業場の一角に山済みになっている革袋を見て、俺は内心マジかよと思った。

数十袋ではきかない量の革袋が堆く積まれていたのだった。

おそらく数百袋はあるフタバ草の塊をみて、ここが俺の生涯の職場になるのではないかと錯覚するほどだった。


「とりあえず今日はフタバ草の分類を頼む。フタバ草ならクロノ君も分かるだろう?」


今日はフタバ草の整理をしてくれとエリスさんが俺に頼む。

壁の前に積まれたフタバ草以外にも、大量の袋の山があちこちに見られる。

これらの袋の中に、将来俺が分類することになる素材たちが眠っているのだろう。


「今日はとりあえず10袋ほど整理し終わったら教えてくれ」


エリスさんは俺にそう言うと自分の研究室へと戻っていった。

しかし、果たして10袋も一日で整理できるのだろうか?

いくらフタバ草を拾うことに慣れてきたとはいえ、少々無茶があるような気もする。


「まあ、手を動かすか」


グダグダ考えていても始まらないので、とりあえず手を動かすことにした。

近くにある大きな作業机と椅子を使ってよいと言われたので、俺はフタバ草の入った革袋を机に置いて作業を開始する。

しかし、袋を空けて中身を確認して俺は驚愕することになる。


「うわあ、これは酷い……」


袋の中から顔を出したのは大量に詰まったフタバ草以外の葉っぱであった。

確かに、これを整理するには骨が折れる。

おそらく、この袋を納品したであろう冒険者は「フタバ草採集の手引書」なんて読んでいないのだろう。

中に入っている葉っぱはフタバ草に似てはいるが、よく見ると形状が少し違う草が多い。

鼻に近づけると匂いが少し違うので、注意して拾い集めればこんなことにはならないはずだ。


「まあ、子供が集めてくるんだったらこうなっても仕方ないよなあ……」


きっと子供達はフタバ草がどんな用途で使われているのかも分かっていないのだろう。

だから、似たような草でも大丈夫だと思って集めている可能性が高い。

実際、俺も小さい頃は野菜や花なんかを色だけで区別していた時期がある。

基本的な教養を親や周りの人間からしか教わらない異世界では、知識や考え方の文化に個人差が出てしまうのはある程度仕方が無いことだろう。


作業場に集まった素材袋の現状を知った今、俺は改めて覚悟を決めて仕事に取り掛かる。

せっせと無心で袋を開けて分類することを繰り返す。

変なところで丁寧な仕事をする癖がある俺は、フタバ草以外の草も細かく分類していた。

「フタバ草採集の手引書」に書かれていた、フタバ草と良く似た草である「カッパ草」や「クロロ草」なども一まとめにしたのだ。


しばらく働いた後に、エリスともう一人の男性店員が昼休憩を取るよう俺に薦めてきた。

最初にエリスさんと顔を合わせた図書室のような場所で、エリスさんと男性店員と食事をすることになる。

渋い声の男性店員はケインズさんというらしく、30台前半くらいの独身男性らしい。

エリスさんと同じく魔法研究家であるらしく、専門は補助魔法の中の「医療魔法」と呼ばれる分野らしい。

研究所内の人員が足りていないときは、薬局の店番をしていることが多いのだという。

ちなみに、エリスさんとは王立学院時代の友人らしく、他にも何人か学院の友人がこの研究所で働いているらしい。

一方、エリスさんは魔法研究家であるが特に専門があるわけではないらしい。

というより、魔法系は全部が守備範囲らしい。

強いて言うならば、古代魔法について調べることが好きだという。

エリスさんは研究者として活動する傍ら、王立学院で教鞭も執っているらしい。

担当授業は多岐にわたるらしいことからも、彼女の優秀さが伺える。

あと、年齢は教えてもらえませんでした。


「フタバ草の入った革袋の中、すごいことになってましたよ」


俺は素材袋の中が他の素材でゴチャゴチャになっていたことを報告する。

すると、二人ともが哀れみの目でご苦労様と俺に声をかける。

最近冒険者から届けられる素材袋の中身はいつもあんな感じらしい。

俺は素材を必要とするが手に入らない研究者達の苦悩が少し分かったような気がした。


「他の壁際にあった袋達も違う素材が入ってるみたいですが、あっちもフタバ草みたい感じなんですか?」


気になっていたことを聞いてみる。

エリスさん曰く、形状や性質に明らかな特徴があるものは大丈夫らしい。

フタバ草のように似たようなものが多い素材が、他のものと混ざって訳がわからなくなるようだった。


「それと、他の素材の整理のことなんだが……」


どうやら、他の素材の整理には「フタバ草採集の手引書」のようなものは無いらしい。

他の素材の場合、拾ってくる冒険者がその見た目から他のものと間違うようなものではないらしく、集まった素材の品質をエリスさん達がチェックして分類するという方法をとっていたという。

だから、エリスさん達研究者が分かる言葉で書かれているメモ書きのようなものしかないという。


「だからフタバ草採集の手引書のような生活用文字で書かれているものは無いので、新しくクロノ君用にメモを作らなければならない」


この世界の住人ならば誰でも読める文字が「生活用文字」であり、フタバ草採集の手引書はそれで書かれていたようだった。

そのため、他の素材の品質管理を俺に任せる場合は俺が読めるメモを作る必要があるのだという。

ちなみに、「生活用文字」とはこの国や周辺諸国で使われている「エルアリアン生活文字」のことであるという。

日本語でいう「ひらがな」や「カタカナ」のような感覚で使われており、あまり難しい表現や専門的な内容を説明する際には使われないということだった。

俺が異世界転生初日に見た「冒険者募集の張り紙」もこの「生活用文字」で書かれていた。


「ちょっと待ってください、その研究者用のメモってやつ見せてもらえませんか?もしかしたら読めるかもしれません」


俺は何故か異世界に来てから、現代語から古代語までありとあらゆる言語を読めるようになっていた。

だから、もしかしたら研究者達が使っている「エルアリアン共通文字」とやらも読める可能性がある。

俺の反応に少し驚いた様子のエリスさんは、近くにあった本棚から「地竜の鱗分類一覧」というメモの束を取り出した。

それを手渡された俺は表紙を見て驚いた。


「この世界には本当に竜がいるのか……」


ファンタジーだぜえ!と一人興奮しながら中身をざっと読みすすめる。

俺は、エリスさん達に共通文字を読めないと思われていることも忘れてメモを読み込む。

メモを読んでいると、地竜の部位別に鱗の特性が異なるという旨の記述が見られた。

特に背中の鱗は「基本属性魔法耐性」がとても高いらしく、属性魔法による攻撃はほとんど通らないということが分かった。

また、討伐した際に鱗を剥ぎ取る点の注意点なども細かく書かれていた。

剥ぎ取り方によって鱗の品質が大きく変わるらしい。


もともと図鑑や設定資料集を読み込むことが好きだった俺は、特に苦もなく流し読みするような速度でメモを読み終える。

そして、満足したようにメモの感想や質問をエリスさん達にぶつけるのだった。


「なるほど!地竜は魔法耐性が強いので関節を狙った刺突攻撃中心で討伐するのですね!」

「ふむふむ。地竜の鱗の表側は強い魔法耐性を持つが、裏側はあまり強い耐性を持っていないから剥ぎ取る際に「鋭利化」の魔法をかけたナイフを使ってはいけないと」

「地竜の血液は滋養強壮効果が強く、栄養剤に使うことができるのか。ただ、毒性をもった内臓部分もあるから解体して血液を回収する際には内臓を傷つけないよう注意が必要であると」

「内臓を傷つけて毒が混ざってしまった場合も、「エリス式血液ろ過法」を用いることで解毒できるのか」

「血液ろ過ってロートとろ紙とかでやるのかな?さすがに魔法を使うろ過機があるはずだよな。でも毒成分をろ過するって言っても分子レベルでろ過できるんだろうか?」

「分子レベルでろ過できるなら、あらかじめ解体する前に内蔵を無毒化することとかできそうじゃないですか?エリスさん?」


メモを読み終えてぶつぶつと独り言をいい、最後に良く分からない質問をする俺を見て、エリスさん達は驚きを通り越して唖然としていた。

俺は、シーンと静まった空気の中でやってしまったと思った。

昔から何かに夢中になると自分の世界に入ってしまうことが少なくなかった俺は、中学生になるくらいの頃からこの現象が起きないように注意していた。

しかし、異世界に竜がいることを知り、竜について細かく記述されているものを読んで完全に暴走してしまった。


それから数秒間の時が流れ、エリスさんがハッと我に帰った。

そして、感心したような驚いたような顔をして俺に問いかける。


「君は共通文字が読めるのか、というよりもその速度で全部読んで理解したというのか」


どうやら、エリスさん達のような研究者達であってもメモを読み込むのには小一時間ほどかかるのだという。

ただでさえ解釈が難しい共通文字に、魔法や生物の特性などの厄介な説明が混ざってくるので、メモを正確に読むことは非常に難しいことらしい。

俺はエリスさん達に「たぶん読めます」とか訳の分からんことを言って言語チート能力をごまかす。

エリスさんはそれ以上言語能力については追求してこなかった。

むしろ、冒険者でありながら共通文字を読み解くことができ、驚異的な理解力を有していると言って俺のことを褒めてくれた。

謎のチート能力のおかげであるので、褒められてもなんだか申し訳ない気持ちになる。

しかし、それを謙虚さと受け取ったエリスさん達はさらに俺を褒めるので、落語のような状態になっている。


俺が共通文字を読めるということが分かったエリスさんは、一日のフタバ草の分類量を減らし、直近で使う素材の分類を俺にお願いしてきた。

研究員がほとんど出張や私用で出払っている今、素材分類をできる手が空いておらず困っていたらしい。

分類費用をフタバ草の10倍の日当である50000ゴールド払うと言うエリスさん。

驚きのあまり変な声を出し、そんなにもらえないと断る俺だったが、追加報酬として良質なポーションも幾つか払うと押し切られてしまった。

この世界においては、これほどの精度の高さで共通文字を読み解ける人間というのは、単純作業をさせるだけでも日当50000ゴールドを払うだけの価値があるのだという。


新素材の分類の仕事は明日からすることになったので、昼休憩を終えた俺はまた作業場へともどり、再びフタバ草の分類を始めることにした。


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