第五十一話 探索者ミシュラ
俺が選んだ魔物の中で一際目立つのが「スピーカーラビット」の存在である。
こいつは戦闘能力が皆無な代わり、迷宮内にいる他の魔物を召集する能力を持っている。
ウサギが叫んでから魔物が集まるまでのタイムラグはあるのだが、俊足の「ケルベロス」なんかは一区画程度なら数秒で到達できるだろうから今回の作戦では問題ない。
貴重な魔物1枠を潰すといった意味で、「スピーカーラビット」は極めて扱いが困難な魔物ではあるのだが、うまく作戦に嵌った時は驚異的な効果を発揮するのだ。
「しかし、我ながら尖った編成だな」
「魔物サイド」で、基本に忠実な構成を選んできたミシュラとは異なり、俺が選んだ魔物の編成は「攻撃に全振り」した選び方であった。
それに比べると、俺の編成はバランスが悪いことに間違いはない。
だがこの編成は、ゴール部屋の入り口のトラップを最大限利用するための作戦を念頭に置いたものであるので、別に編成自体に問題があるというわけではない。
まず、パーティの初期位置からつながる3本の通路に「ケルベロス」と「アトラス」と「ゴブリンロード」を設置しておくのだ。
そして、3本の通路とは異なるゴール部屋の入り口にトラップがあり、ゴール部屋の中にあらかじめ「スピーカーラビット」を設置しておくのである。
裏口から入ってきた探索者達はトラップに引っかかり動けない間に、「スピーカーラビット」が呼び寄せた3体の魔物がゴール部屋へと走ってくるといった状態になるわけだ。
少し単純すぎるような気もするが、実際にやられると嫌な作戦なので、効果的であることは間違いない。
「マーチャントを選んできた辺り、恐らく「アレ」を購入してくるだろうな」
チュートリアル内で見ることが出来た「各ロールの特性」という項目の中で、「マーチャントの購入できるアイテム」という説明が密かにあったのを俺は見逃さなかった。
その中にあったアイテムの一つに「千里眼の腕輪」というものがあるのだ。
これは、マップ上にある転送装置と敵の位置を知ることができるというとんでもアイテムである。
ただし、これを購入してしまうと他のアイテムを買う分のお金がなくなってしまうらしく、便利な反面マーチャント一人分の枠を潰す諸刃の刃的な側面も持ち合わせる。
「攻撃に寄ってる編成も、1体で行動していて確実に倒せる敵を見分けるという作戦ありきのものである可能性が高いな」
俺は彼女のパーティロールの選び方についても予想する。
臆病でもあるが、意外なところで大胆なミシュラらしい作戦であった。
あくまでも俺の憶測でしかないわけではあるが、このロジック通りに事が進んだら俺の勝ちは確定だ。
もしもミシュラが裏手に回ってこないで、正々堂々と正面の3本の通路の中から一つを選んできた場合でも、同様にゴール部屋で待機する「スピーカーラビット」が通路から残った2体の魔物を呼び寄せてくれる。
確かに、トラップに上手くかかった場合に比べると殲滅力に欠ける感は否めないが、それでもアタッカー二枚が残った場合なんかは探索者達を圧倒できるだろう。
迷宮の構造が良かったから成り立つ戦法であり、ありきたりな迷宮配置であったならばこんな無茶苦茶な作戦は不可能であった。
「なんというか、本当に魔物側が有利に作られているんだな」
改めて、このゲームが「魔物サイド」が有利になるように作られていると感じる俺であった。
防衛側が強いゲームの面白さは、明確に力量差が出るところにあると考えられる。
攻撃側の勢いと運のよさだけでは勝てないというゲーム性に、製作者の性格が良くあわられているなと変な勘ぐりをする俺。
恐らく、このゲームを作った奴は「合理的な戦略家」であるのではないかと考えられる。
その割には尖った性能のアイテムや魔物が多いことも不思議ではあるが。
「ミシュラがどう動いてくるか見ものだな」
この作戦は「探索者サイド」のミシュラの行動が鍵を握っている。
うまいこと作戦が成功することを祈ってゲームを始める俺であった。
■■ミシュラの視点■■
クロノ先生はちょっぴりへんてこな編成で勝負を挑んできました。
なんと、ほとんど戦闘能力の無い「スピーカーラビット」を選んできたのです。
何の考えも無しに色物を選んでくるような人ではないことは、迷宮に入る時に思い知っているので用心しなければなりません。
私達学生が、自分の慣れていることと照らし合わせてロールを選んでいた中、先生だけは違いました。
先生が「トラバドール」を選んでいなければ、私達は布団も何もない野宿を強いられていたことでしょう。
「先生はなんでも先を見通したような鋭い着眼点を持ってるのですよね」
古代幻想魔法の「時間魔法」を使える先生は、未来もお見通しなのではないかと思ってしまう。
そんな先生が変わった編成を選んできた以上、絶対に何か作戦があるに違いないと私は気を引き締める。
「でも、時々見せるおっちょこちょいな先生がウサギを選んだ可能性もありますね」
迷宮探査都市についてすぐにアリスちゃんを保護した時や、自分に戦闘能力がほとんど無いのにグレートウルフと戦うことを決意した時なんかはちょっと見通しが甘く迂闊な先生でしたね。
私はその時のことを思い出して少し可笑しくなる。
お互いのパーティ情報が公開されて、いよいよゲームが始まります。
迷宮に降り立った私達のパーティは、地図を見ながらあることに気づくことになりました。
「隣の部屋にゴールがあります!」
私が編成の中に戦闘能力に乏しい「マーチャント」を入れた最大の理由は、とあるアイテムの存在にあったのです。
それは「千里眼の腕輪」という強力なアイテムであります。
このアイテムは、なんとゴールである転送装置と敵の所在地が探索者サイドに筒抜けになってしまうのです!!
「ふふふ、先生の作戦はお見通しですよ」
転送装置のある部屋につながる3本の通路に配置された3体の魔物と、部屋の裏口にあたる部分に配置された1体のモンスター。
私の読みが正しければ、この1体のモンスターが「スピーカーラビット」でしょうか。
恐らくは、正面の魔物に気づいた探索者サイドが、裏口からこっそりとゴールに近づいたところに魔物が駆けつけるといった作戦だと考えられます。
何も知らずに裏口に行った探索者達は、突然駆けつけた魔物たちに一網打尽にされてしまうことでしょう。
しかし、あらかじめ相手の作戦を把握することができた私はその限りではありません。
「マーチャントには「商人ダッシュ」があることを忘れてもらってはなりません!」
そう、私がグレートウルフから逃げる際に使った「商人ダッシュ」の存在を忘れてもらってはいけません。
迷宮戦争の細かい仕様にも目を通した私は「探索者サイドの誰か一人でも転送装置にたどり着いたら勝ち」というルールを知っています。
つまり「スピーカーラビット」が叫んでから魔物が駆けつけるよりも早く、「マーチャント」が転送装置にたどり着くことが可能であるというわけなのです。
準備の段階で、今回の特殊な迷宮構造を見て「これは使えるぞ!」と内心興奮していたクロノ先生の様子が目に浮かびます。
しかし、私だってそれくらい分かります。
相手の心理状況を伺い、相手の行動の先を行くことは商人の基本です。
私は先生が為そうとしている作戦を看破し、あえてまんまと引っかかった振りをしてゴール部屋の裏側へとパーティを導く。
「それでは行きますよ!」
勝利を確信して裏口から進入した私のパーティは、なんと迷宮にもともと設置されていた「行動阻害」のトラップに引っかかってしまう。
そして、トラップに引っかかる探索者達を発見した「スピーカーラビット」がその場で大声で鳴き始める。
「もしかして、クロノ先生が狙っていた本当の罠はこれだったのですか!?」と驚きながらまんまと罠にかかってしまうあたり、私も先生のおっちょこちょいさを馬鹿には出来ません。
ふと先生の顔を見ると「やったぞ!」といったようにニヤリと笑っていました。
しかし、先生は「迷宮戦争」において「マーチャント」が扱える技能についてあまり詳しくない様子です。
予期せぬ突然の出来事に思わず驚いてしまった私ですが、実は「マーチャント」の使えるスキルの中に現状を打破するものがあることを知っているので、気を取り直して冷静に対処するのでした。
「マーチャントは「罠抜け」が使えるのです!」
どうしてマーチャントが「罠抜け」を使えるのかは良く分かりませんが、とりあえずこれでマーチャントだけは罠から解放されます。
商人といえば腹黒いイメージが付き物なので、そういった場面で脱走するための技なのかも知れません。
罠から抜け出したマーチャントは部屋の中央にある転送装置へと「商人ダッシュ」を使って走り出す。
「爪が甘いですよ先生!」
私が罠を切り抜けたのを見て「まさか!?」と頭を抱える先生。
その様子を見た私は「探索者サイド」の勝利を確信するのでした。
しかし、先生の顔からゲームへと視線を戻すと先ほどまでとは異なるおかしな状況に目を見張ることになるのです。
「ゴ、ゴブリン!?」
なんと、ゴール部屋の転送装置の周辺には大量の「ゴブリン」が徘徊していたのです!
いくら他の魔物に比べたら弱い「ゴブリン」であるとしても、これだけの量がいたら戦闘能力に乏しい「マーチャント」一人では突破できません。
予想だにしない出来事に戸惑い、一瞬完全に思考停止状態になった私の視界に「やったぜ」と勝ち誇る先生のドヤ顔が見えます。
そして、ゴブリン達に「商人ダッシュ」を止められたマーチャントと、トラップから漸く抜け出したパーティの元に、凶悪なアタッカーである「ケルベロス」が到着してしまう。
「惜しかったなミシュラ。もう一息だったな」
程なくして「アトラス」と「ゴブリンロード」も到着した転送装置周辺は、輝かしいゴール部屋から探索者パーティの処刑場へと変貌を遂げるのでした。




