第五十話 探索者クロノ
俺達が購入した「迷宮戦争」の初心者講義を終えて、実際にゲームを始めた俺とミシュラであった。
隣で裁縫をしているエイレネも「お二人とも楽しそうですね!」とボードゲームに興味を示している。
お互いの選択した「ロール」と「魔物」の情報が公開されたところで、いよいよゲームがスタートしたのだった。
ゲームが開始されると、指輪をはめている相手陣営のプレイヤーの声は届かなくなるらしく、ミシュラの声は俺の耳に届かなくなる。
「イメージどおりの迷宮といったところか」
「迷宮戦争」の舞台となる迷宮は、迷宮探査都市ラビリスに訪れる前の俺が持っていた「THE・迷宮」といった様相をしていた。
床と壁は黄土色の石で作られており、壁面には幾何学的な模様が彫られている。
チュートリアルにもあったように、このゲームは基本的に手元にある「地図」を見ながらダンジョン内でゴールを探すという手順で進んでいく。
なので、俺もパーティの所有する地図を確認するべく「地図」の項目を選択する。
「トラバドールがパーティ内にいる場合は自分が今いる座標まで分かるのか」
俺のパーティが持っている地図には、縦軸5マスおきにA~Fのアルファベットが上から振られており、横軸には左から5マスおきに1~7の数字が割り振られていた。
このアルファベットと数字によって大まかな現在地を知ることが出来るのである。
例えば、地図の左上は「A-1」であり、右上は「A-7」、左下は「F-1」で右下は「F-7」といった具合である。
迷宮地図を見てみたところ、俺のパーティの現在地は「F-5」にある3マス四方の小部屋であることが分かった。
トラバドールがパーティ内にいない場合は、マップ上に座標は表示されず、自分達が今いる地点を中心に地図が描かれていくという。
戦闘に力を入れたパーティ編成だと、なかなか迷宮内の位置関係が把握しづらく、マップを完璧に把握している「魔物サイド」に良い様にやられることがわかる。
「進める方向は北、西、東の3方向か……」
地図上で言うところの上と左右に通路が伸びている。
俺は日本で人気であった某漫画に書いてあったことを思い出す。
「人間は無意識のうちに左を選ぶらしいな……」
この場合は上という選択肢もあるので、厳密には左という選択を取りやすいわけではないだろうが、俺はなんとなくセオリー通り右の通路を選ぶことにした。
「F-6」へと歩みを進めるパーティ。
斥候役である「スカウト」を前衛に置き、一同は両側に石壁がある廊下を進んでいく。
特にトラップを発見することも無く、パーティは無事に次の分岐点へと到達した。
「左右に分かれる丁字路か……」
地図上で東に向かって進んだパーティは、北と南に分かれる丁字路にぶつかった。
マップ上の座標の縦軸が「F」であることから、南にいくという選択肢は消えることになる。
なぜなら、南に進んだところで行き止まりである可能性が高いからだ。
「左に進むことにしよう」
マップ上の北に向かって進むことにしたパーティの元にある情報が入ってくる。
パーティの先頭を歩いている「スカウト」の能力である「強敵探知」が発動したのであった。
「強敵探知」とは、パーティからの「道のり6マス以内」に強い魔物がいることを知らせるスキルである。
「角を曲がってから反応があったから、この通路の先に敵がいるのか」
現在一本道の廊下を進んでいるので、敵が現れるとしたら前方からである。
開幕早々魔物とのエンカウントとは、なかなか俺もついていない。
しかし、逆に考えると「魔物がいる」ということは「その先にゴールがある」可能性が高いというわけだ。
「魔物サイド」のミシュラとしては、ゴールの近くに強敵を多数配置しておくことが一番効率的であるからである。
もしも探索者が魔物と接敵しなかった場合、純粋に「その魔物はいない」ことと同義であると考えられるからだ。
「戦闘態勢を整えなければな」
斥候の「スカウト」を後列に下げて、タンクの「ナイト」とウォーリアを前衛に据える。
ここさえ突破できれば、一気にゴールへと近づくことが出来るだろう。
俺はパーティを慎重に進めていく。
近くにいる強敵が回復型の魔物「フェアリークイーン」だけだったらいいなあなんて甘いことを考えている時に事件は起きた。
「探索者サイドの スカウト が死亡しました」
突然表示されたシステムメッセージに俺は驚嘆する。
いったい何が起こったんだ!?
後方に敵がいるはずは無いので、前方にタンクを固めて接敵に備えていたのだが、安全なはずの後衛にいる「スカウト」がやられたのである。
そして、いきなりの出来事に戸惑う俺の元にさらなる悪報が舞い込んでくる。
「探索者サイドの プリースト が死亡しました」
「探索者サイドの トラバドール が死亡しました」
システムメッセージが表示されて、次々とメンバーが死んでいく。
パーティの後方を見渡しても、敵は見つからずその場に3人のキャラクターが残される。
ミシュラが選んだ魔物の情報を思い出し「そういうことか!」と気づいた時にはもう既にパーティは半壊状態であった。
さらなる被害を生まないように、その場に残った「ナイト」「ウォーリア」「メイジ」で正面の通路を走り抜ける。
「なんとか生き残ってくれ!!」
咄嗟にその場に残されたパーティメンバーを前方に逃がし、難を逃れることに成功する。
とりあえず一時的に危機を脱したのだが、不幸なことに前方にあった曲がり角を曲がったところで巨大な三つ首の狼が一同の前に出現する。
「うおおおお!!ケルベロスが待機してやがった!!!」
L字型の通路を右に曲がった先に凶悪なモンスターが待ち構えていたのだった。
その状況に思わず声をあげてしまった俺を見て、ミシュラがニヤリと笑う。
なんとか魔物を撃退しようとして、タンク二枚で攻撃を受け止めつつメイジで攻撃を試みるのだが、3つの知能を持つケルベロスの前にジリ貧になる。
そして、既に壊滅状態の俺のパーティはそのまま弱っていき、遂に「ケルベロス」にトドメを刺されてしまった。
「魔物サイド の 勝利です」
ミシュラの勝ちを意味するシステムメッセージが流れ、攻守が交代することになった。
嬉しそうに「やったー!」と両手をあげているミシュラ。
俺は彼女にうまくやられたと反省しながら、先ほどのプレイングについて考えることにした。
彼女が「F-6」に配置した魔物とはディフェンスタイプの「ドリルワーム」であり、右側面の通路を破壊してパーティの後衛メンバーだけ撃破したというわけだった。
壁の中に敵がいる場合もスカウトの「強敵探知」が反応するらしく、俺はシステムの穴をついた攻撃にまんまと引っかかってしまったわけである。
そして、そのまま進んだ先には強力なアタッカーである「ケルベロス」が配置されており、半壊したパーティをジワジワと倒してしまったのであった。
意外と強かな作戦を練ってきたミシュラに驚いた俺は、悔しさを感じながらも気を取り直して次のゲームの準備へと移る。
「迷宮戦争は魔物サイドが有利である」という言葉の意味を理解した俺は、、情報がフルオープンされたマップを見ながら魔物を選ぶことにした。
「お、パーティの初期位置のすぐ側にゴールがある部屋があるな……」
早速迷宮のマップを見ていた俺はあることに気づく。
パーティの初期位置である「D-3」の東側に伸びる通路が、ゴール地点のある「D-5」に繋がっているのである。
通路は内部で3又になっており、それぞれが「D-5」の部屋へと通じていた。
「つまり、この3本の通路にそれぞれ魔物を配置しておけば、開幕ゴールを取られることはないということか」
マップを見ながら、俺は3箇所に魔物をそれぞれ一体ずつ設置する際のデメリットを考えていた。
一番大きなデメリットは「他のルートでゴールに向かわれた場合、3体の魔物が機能しなくなる」ということである。
これは最悪の事態であり、6人の探索者で1体の魔物に対処された場合、普通に負けてしまうことになる。
当然ながら、この3つの通路を見たミシュラも同じことを考えるだろうから、他のルートを探すであろう。
そう考えると、あえてこの3本の通路に一体も魔物を配置しない作戦も考えられるが、索敵されてしまったらこれも無意味である。
「どうするかなあ」
作戦を考えながら何気なくマップを見ていると、ゴールのある部屋に繋がる通路は正面の3本と、裏側の1本であることに気づく。
そして、その裏側の通路から部屋につながる部分にあるものを発見した。
「これは使えるぞ!」
なんと、裏側からの進入口には「行動阻害」のトラップが設置されていたのを見つける。
これをうまく使って、ミシュラを罠にはめてやろうと画策する俺であった。
お互いにゲームの準備を進めていき、ゲーム開始と同時にお互いの情報が公開される。
ミシュラの選んだロール構成は以下のようであった。
・メイン盾である「ナイト」
・回避盾である「ウォーリア」
・魔法アタッカーである「メイジ」
・物理アタッカーである「ファイター」
・回復魔法を使う「プリースト」
・アイテムに強い「マーチャント」
「迷宮戦争」において果たして活躍できるのか怪しい「マーチャント」を選んでくる辺り、俺達は似たもの同士なのかもしれないと思った。
俺のパーティ構成から「スカウト」と「トラバドール」を外し、「マーチャント」と「ファイター」を投入することで、より戦闘向きなパーティを作ってきたミシュラ。
対して、俺が選んだ魔物達は前回のゲームでミシュラが選んだものよりもピーキーな性能をもつ構成となった。
選んだ魔物達は以下の通りである。
・ケルベロス:三つ首の巨大な狼。3つの頭がそれぞれ独立した思考をしており、凶悪な物理攻撃の他、魔法攻撃も同時に行ってくる。アタッカータイプの魔物。
・アトラス:一つ目の巨人。手に持った巨大な棍棒を振り回して戦う物理アタッカー。純粋な攻撃力ではケルベロスを遥かに上回るので、正面から戦うことは得策ではない。アタッカータイプの魔物。
・ゴブリンロード:凄まじい繁殖力を誇るゴブリンの上位種。高い知能と戦闘力を誇る巨体は、ゴブリンだと思って甘く見てはいけない。無数にゴブリンを呼び出す能力は、狭い通路での戦いにおいて脅威である。ディフェンスタイプの魔物。
・スピーカーラビット:探索者に見つかると爆音で鳴きながら逃げるウサギ。戦闘能力自体はきわめて低いが、迷宮内に散らばる他の魔物を呼び寄せる厄介な性質がある。テクニカルタイプの魔物。




