第四十七話 雨の日
エイレネの過去話をキャンプで聞いた俺達は、2階層でジャガイモを育てることになったので、作物が出来上がるまでの二日間ほど今の階層で狩りをすることにする。
先日莫大なスキルポイントとコネクトを得ることになった超高効率の稼ぎである「落とし穴猟」を今回も決行することにした。
最悪ユニークモンスターが出現してしまった場合、対処が厳しかったらジャガイモは諦めて転送装置に乗るという手はずで進むことになる。
「それじゃあ落とし穴の修理から始めるか」
この前の猟で使った「巨大落とし穴」が未だフィールドに残っているので、これを修理して使わない手は無い。
アンデルスにアイテム生成で落とし穴の修理をしてもらい、中央部に魔物の肉を設置して準備が完了する。
トラップの準備も整ったので早速狩りを始める俺達。
やはり今回もルーク、ラズメリノ、ミシュラの3人が魔物をフィールドのあちこちから引っ張ってくることになる。
「前回はミシュラにボロ負けだったからな、今回は負けねえぞ!」
「そうね、この前はミシュラちゃんの圧勝でしたものね」
前回魔物を引っ張ってきた数で競っていたルークとラズメリノは、思いもよらぬことにミシュラの連れてきた圧倒的な物量に敗北を喫したので、今回こそは負けないと意気込んでいた。
一方ミシュラは「また私ですか!?」と驚いた様子であったが、迷宮技能の「商人ダッシュ」を用いることでアタッカーのラズメリノを上回る瞬間速度を出せる彼女を起用しない理由はない。
エイレネは俺と一緒にトラップの前で待っていられることに喜んでいたが、俺の方はあんな話を聞かされた直後なので、彼女のことを意識しないではいられない。
俺はトラップ待機隊の一員にアンデルスもいてくれたことに感謝して、走っていく囮3人を見送った。
ミシュラたちが魔物を引っ張ってくるまでの間、俺達3人は特にやることも無かったので世間話をして時間を潰す。
先ほどエイレネの昔話を聞いたときに「そういえばパーティメンバーのことを何も知らないな」と感じたので、今度はアンデルスに昔の話を聞いてみようと思った俺である。
「アンデルスはどんな少年時代を過ごしたんだ?」
俺の的を射ない質問に対して、アンデルスが「いちおう年齢的には僕もまだ少年だよ」と答える。
「ちなみに今はおいくつですか?」と聞くエイレネに対し「14歳だよ」と答えるアンデルス。
その事実に対し、俺とエイレネは驚愕する。
俺が17歳でエイレネが18歳であることを考えると、アンデルスがどれほど優秀な人材であるかが伺える。
俺は異世界チート能力とエリスさんのコネで成り上がっただけであるが、エイレネは天才的な一面を持ち合わせる秀才であることは間違いない。
魔法科と魔導工学科の主席では能力や方向性も異なるのだろうが、魔導工学科の主席であるアンデルスは少なくともそのエイレネと同等の実力をこの年で持っていることになる。
「アンデルス君って天才なんじゃないですかもしかして……」
俺の方を向いて言うエイレネ。
アンデルスが言うには「お姉ちゃんにいろいろ教えてもらった」らしい。
だから、アンデルスが自分は天才なわけではないと言う。
彼は3歳くらいの頃から、当時学院生であった姉と一緒に勉強をしていたらしい。
なので、応用的な魔導工学のキャリアは姉とほぼ変わらないという。
「それに、お姉ちゃんには全然かなわないよ」
現魔導工学科長の姉と比べること自体おかしいような気もするが、彼は自分の実力はまだまだ足りていないと考えているらしい。
なんだかアンデルスの言い分に納得したような気になったが、冷静に考えてみると3歳児が学院の勉強内容を遊びとは言え、理解して楽しんでいる以上彼は天才であるのだろう。
それからは、アンデルスの姉自慢が始まることになる。
姉のアテナさんの研究者としての功績から学生時代の成績、果ては人柄やら容姿まで。
満面の笑みでお姉ちゃんのことを俺達に紹介するアンデルス。
止まる事のない彼のマシンガントークに若干退いてしまう俺達。
以前男三人で話している時に、アンデルスのシスコンぶりは伺っていたが、まさかここまでとは思っていなかった。
それから小一時間ほどアンデルスの話を聞かされた俺達の元へと、フィールド上を駆け巡っていた3人が戻ってきた。
3人ともほぼ同時に落とし穴に戻ってきたのを確認して、俺達は戦闘準備に入る。
「先生!!お待たせしました!!」
前回に比べると大分余裕のあるミシュラが俺達のいる方へ走ってくる。
相変わらずとんでもない量の魔物を引っ張ってきた彼女は、落とし穴の方へ来るなり俺の胸へと飛び込んできた。
来るとは思っていなかった俺は衝撃に驚いたが、何とか彼女を正面から受け止める。
ミシュラが俺に接触した瞬間、隣にいたエイレネが「あ!!」と声をあげる。
だが、ミシュラが石に躓いてずっこけた先に俺がいたという事実に気づき、エイレネは「大丈夫ですかミシュラちゃん?」と彼女を気遣う。
「いてて、ごめんなさい先生」と腕の中で誤るミシュラ。
俺は怪我も無く無事だった彼女を解放し、落とし穴の方を見る。
すると、ミシュラが引っ張ってきた魔物の大群が次々へと穴の中に流れ込むのを確認した。
「おーい!戻ってきたぜ!!」
「クロノ先生!魔物を連れてきましたわ!」
ミシュラに続いて、ルークとラズメリノも戻ってくる。
彼らも前回の狩りに比べると、比較的余裕があるように見えた。
落とし穴の手前に戻ってきたルークとラズメリノだが、ラズメリノも俺の方へと突っ込んでくる。
「またか!!」と思った俺は、咄嗟に両手を広げて飛び込んでくるラズメリノを捕まえる。
「キャッ!クロノ先生!」
俺の腕の中に無事着陸したラズメリノは、恥ずかしそうに顔を赤くして俺に謝る。
彼女も無事だったことを確認して腕から解放すると、横から「この石め……」と足元から飛び出している石を睨むエイレネの声が聞こえてきた。
彼女達が引き連れてきた魔物たちを穴の上からファイアで討伐し、俺達は午後の狩りに一段落付ける。
今回はユニークモンスターも出現せず、安全に狩りを終える結果となった。
「この調子でいきましょう!」
魔物を連れてくることに慣れた様子のミシュラが、妙に張り切っていた。
それからもしばらく狩りを続け一日を終える。
そして3日目も同じように狩りをし続けたが、特に2日目と変わることなく安全に狩りを終了した。
遂にジャガイモが完成する4日目の朝を迎えた俺達は、テントの外から聞こえてくる雨音によって目覚めた。
俺が起きた時には既にアンデルスがテント内で目覚めていたらしく、彼と一緒に外へ顔を出す。
「結構凄い雨だな……」
雷雨とまではいかないが、傘を差さないとびしょ濡れになってしまうような規模の降水が見られる。
このまま外へ出たら雨で濡れてしまうので、俺とアンデルスは皆が起きるまでテント内で待機していることになった。
少しして、パーティメンバーが皆起きたところで、今日の予定について相談する。
「外は雨ですか。これが迷宮嵐というやつですね」
迷宮嵐の影響ですねと言うミシュラ。
俺は心のどこかで「嵐と言ってもシステム上のものだろう」と高をくくっていたのだが、迷宮嵐は本当に嵐であるということが分かった。
テント内では迷宮技能の使用が制限されるので、キャンプや外で「食品加工」を使う必要があるのだが、外は生憎の雨なのでどうしようか迷う一同。
「とりあえず、狩りで手に入れたものを確認しませんか?」
俺達は黙々と狩りをするだけして、手に入れたものの確認を未だしていなかった。
なので、テント内でいろいろと確認することになった。
入手したスキルポイントとコネクトの数字を見て、俺達は驚嘆することになる。
「ポイントが 62300 で、コネクトが 165400 と書いてるな」
本当に尋常でない量のポイントを稼いでいた俺達。
ミシュラなんかは「お酒が買えますよ!!!」となにやら喜んでいる。
その様子を見たラズメリノが「お酒は注意が必要ですのよ!」とこの前のことを思い出し注意していた。
一方エイレネは「お酒ですか……」となにやら考え事をしている様子であった。
そんな彼女を見た俺は「何か気づいたのか?」と神妙な顔で悩む彼女に問いかけると、ハッとした顔で「い、いや何でもないです」と顔の前で手を横に振るエイレネ。
エイレネもお酒が好きなのかと意外に思っていると、スキル習得リストを見ていたアンデルスとルークが「先生のキャンプ設置の技能を強化できるぞ」とポイントの使い道を提示してきた。
俺もスキルリストを見てみたところ、「キャンプ設置改」という技能の存在を発見する。
この技能の習得に必要なポイントは 30000 となかなか膨大なのだが、その効果を見てみると「欲しい!」と思ってしまった。
「キャンプ設置改」では、今まで焚き火と椅子だけであったキャンプが大幅に変化する結果となる。
まず、今までのような屋外キャンプではなく、倉庫のような金属製の建物の中で暖を取ることができるようになる。
これによって雨風を凌げるようになるので、迷宮嵐が来たとしてもキャンプを使うことが出来る。
迷宮内で雨に当たっていると冷たいだけでなく、能力値が一時的にダウンするバッドステータスがつくという。
なので、極力雨には当たらないように配慮したほうが良いと言うことになる。
「師匠!お風呂ですよ!!」
キャンプ設置改の説明を読んでいるエイレネが歓喜の声をあげる。
彼女に続き、女性陣はお風呂の存在に喜びを噛み締めていた。
俺が是非とも「キャンプ設置改」の技能を欲しいと思った理由も「お風呂」によるものが大きい。
今までは自作のシャワー室をキャンプの近くに設定するしかなかったが、これによって安全に体を清潔にすることが出来るのだ。
さらに、水ではなくお湯が使えるようになり、浴槽まで利用できるのだ。
今までのキャンプが「野宿」だとすると、今回のキャンプ設置改で得られるキャンプは「コテージ」とも言える性能なのである。
「綺麗なトイレもあるのですわ!」
キャンプには個室の水洗トイレが幾つかついており、自作の簡易トイレを利用しなくて良くなるのだった。
これにも女子達は大いに喜ぶ。
一方男3人が喜んだのは「人数分の個室」が用意されていることであった。
もちろん女子達も自分の部屋の存在には喜んでいたが、男達、特に俺とルークは安全に一人になれる空間の存在に沸いた。
アンデルスも夜中に一人で作業をする空間があるのは嬉しいとエンジニアらしいことを言っている。
「師匠と寝れなくなるのですね……」
個室を与えられることに対して微妙そうにしているエイレネ。
個室の他にはソファーが設置されたリビングがあるらしく、本当にキャンプが進化して別のものに変わるということを理解する一同。
他にある設備の中で地味に嬉しかったのは、リビングと各自の個室に設置された照明である。
今まではキャンプの焚き火の光と、月明かりしか闇夜を照らすものが無かったので、迷宮の夜はなかなかにスリルがあるものであった。
しかし、今回の「キャンプ設置改」ではそのような事態から卒業できるのである。
「これは、習得するしかないよな?」
一応メンバーに同意を取った俺に返ってきた返事は、満場一致の「習得する」であった。




