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異世界に転生して時間魔法しか使えない俺  作者: けろ
第二章 迷宮都市編
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第四十五話 マジカルボール


迷宮生活で初めてのユニークモンスターの討伐に成功して喜ぶ俺達だったのだが、夕食会のために購入した「フルーティフェアリー」という果実酒のせいでいろいろとおかしなことになったのだった。

決してお酒に罪は無いが、アルコールには人を惑わせる魔力があるのだと改めて確認した瞬間である。

結局俺は、酒に酔ったミシュラに抱きつかれたまま一夜を越すことになるのであった。


「もう!師匠もミシュラちゃんも起きてください!」


俺はあの後、どうやら朝までぐっすりと眠っていたようである。

頭上から聞こえてくる少し怒気を孕んだ声は、我が弟子のエイレネのものであった。

彼女の言い草から考えるならば、ミシュラもまだ目を覚ましていないようである。

「昨日の夜はなかなかに危ない状況だったなあ」と記憶を反芻しているとき、俺はあることに気づく。


「うお!ミシュラがまだ俺にくっついてる!?」


当然ながらあの後そのまま眠りに落ちた俺達は、昨日の夜の体勢のままであった。

なので、ミシュラの腕は相変わらず俺の胴体にガッチリと巻き付いたままである。

力強くミシュラを剥がそうとするエイレネだが、なかなかそれもうまくいかない。

体を揺すっているうちにミシュラも目が覚めたらしく、なにやらムニャムニャと良く分からない言葉を漏らしている。


「……あれ?朝?」


漸く俺の体から腕を外し、寝惚け眼を擦りながら周囲を見回すミシュラ。

彼女のクリっとした円らな瞳に映る景色は、怒ったエイレネの顔や二日酔いが無いか心配するラズメリノの顔であった。

「気分は悪くありませんこと?」とミシュラの顔を覗き込むラズメリノは、ミシュラの首筋に手を当ててなにやら健康状態を確認しているようである。

なにやら様子がおかしいと思ったミシュラは、頭を起こして周りを見回し、漸く隣で俺が寝ていることに気づいた。


「え?え!?先生!?なんで!?」


現在の状況が飲み込めていないらしいミシュラは、酷く焦った様子で困惑する。

エイレネが「ミシュラちゃんは昨日の夜お酒に酔って師匠と一緒に寝たんです!」と叱るような口調で言う。

ラズメリノが「まあまあエイレネさん、本人は覚えていないのですから」と言い、ミシュラを詰問するエイレネの肩を引っ張る。

それを聞いて顔を真っ赤にしたミシュラが、俺に事実確認をしてくるので、俺はありのままに昨夜あったことを話す。


「ミシュラが突然俺の布団に入ってきて、俺の体に腕を回すものだから大変だったぞ?まあ、昨晩のミシュラは可愛かったから理性を保つのが一番の難点だったな」


純粋な感想を述べる。

ここで変に「何も無かったぞ?」とか強調するのもかえってメンバーに怪しく思われる原因となりかねない。

もちろん、やましいことは何もしていないので問題はない。

だが、往々にして勘違いというものは起こるので、この辺の事後処理には細心の注意を払う必要があるのだ。

俺が日本にいた頃に学んだ「処世術」の一つである。


「か、可愛かった!!?り、理性が保てなかったですって!!!?」


俺の発言に対してなにやら盛大に勘違いを起こしているエイレネさん。

「アンデルス!!ビーストキラーを持ってくるのよ!!」と血気盛んなエイレネに対し、パーティメンバー達は「エイレネの師匠狂いが始まったか……」と温かく見守る。

いやいや、見守ってないで助けてくれよ!!

アンデルスも「ビーストキラー」持ってきてるんじゃないの!!

そもそも俺は「獣」になったわけじゃないから!!誤解だ!誤解!


「うそ!?先生が初めて!?べ、別に嫌じゃないですが……」


こっちもこっちで勘違いしているミシュラさん。

ちょっと!!人前でズボンに手を入れて確認しないのミシュラさん!!

そんなとこ触ったところで事実かどうかは分からないでしょ!!

いや、そういう問題でもないけど……


他のメンバーもいるテントの中で、耳まで真っ赤に染めて自分の下着の中に指を入れているミシュラと、ビーストキラーを持って鼻息を荒くしているエイレネ。

股間をいじるミシュラを慌てて止めるラズメリノや「昨日は煩かったなあ。ウルフがテント内にいるのかと思ったぞ?」と嘘をついてからかうルーク。

エイレネを自由にさせておくと危ないので、アンデルスが彼女を止めている。

こんなカオス過ぎる状況の中、俺はとりあえず起き上がり、ここから抜け出すためにテントの出口を目指す。

今やミシュラの拘束も無くなったので、楽に起き上がることができ、問題なくテントからの脱出に成功する。


「いやあ、災難だったな」


テントの中では未だ状況が整理できていないので、皆が中から出てくるまで俺は外で朝食の準備でもしてることにした。

ひとりキャンプに設置された椅子に腰掛ける俺は、いつものように「干し肉」を食べやすいように切れ込みを入れる調理をする。

もちろん「食品加工」による調理であるので、俺自身の持つ料理知識ではない。

「本当に便利だよなあ食品加工」と思いながら、技能を次々と干し肉に使っていく。

しばらくすると恙無く調理も終わり、俺は手持ち無沙汰になった。


「まだテントの中では説明会が行われているのか……」


エイレネとそれを止めてるアンデルスは使い物にならないだろうし、ルークは冗談交じりでふざけているだろうから、ラズメリノが頑張っていることが予想される。

あとで労いの言葉をかけておかなければと思った俺だった。

一人で魔物狩りなど出来るはずもないので、俺はこの空き時間を利用して「農場設置」についていろいろ試してみようと思った。

以前購入したジャガイモの種は最短二日で成長するので、今植えると「4日目の朝」に収穫できる計算になる。

4日目というと、迷宮嵐が発生し始めるタイミングなので、違う日に違う階層で作ったほうがいいような気もした。

だが、一度迷宮嵐がどんなものかを体験しておくのも悪くないと思ったので、パーティメンバーに相談してジャガイモを植えるかどうか決めることにする。


「とりあえず農場はいくらでも設置できるから、適当にそのへんに作ってみるか」


俺はキャンプの近くの草原に向かって「農場設置」の技能を発動してみた。

すると、地表を覆う草が消えてなくなり、そこには良く耕された土の長方形が出現した。

近づいて表面の土を手にとって零す。

設置された農場の土は、日本にいたころの畑のイメージと何ら変わりないものであった。


「本当に農場なんだな……」


目の前に現れた畑を見て思わず呟く。

ジャガイモの種はパーティで話し合ってから決めるので、とりあえず今のところは畑だけ作って放置しておくことにした。

キャンプの椅子に戻ってきた俺だが、まだ誰も出てこないので拾ったアイテムの確認でもしてようと思っているところであるものを発見する。


「なんだこれ?」


俺は何気なく見ていたアイテム欄の中に不思議なものを見つけた。

ジャガイモの種の下に「マジカルシード」という謎のアイテムがあるのである。

拾った覚えのないアイテムの説明文を読んでみたところ、どうやら「農場設置」をはじめて使った際に手に入るお試しアイテムであることが分かった。

畑に植えると約5分で実を付けるという。

しかも、ヤシのみのようなデカイ実を付けるというのだから驚きである。


「とりあえず埋めてみるか……」


いったいどんな実がなるのかという興味を持ちながら、俺はマジカルシードと呼ばれる種を畑にまいた。

迷宮内における作物の成長というのは良く分からないもので、特に水や肥料をまかなくても一応生えてくるらしい。

もちろん、水や肥料が必要な種類の作物もあるのだが、マジカルシードみたいな撒くだけで生えるものもあるのだ。

俺は異世界迷宮の滅茶苦茶な理論に驚かされながら、マジカルシードの実が生えてくるのを待つ。


作物が育つのに5分ほどかかると書いてあったが、実際に成長の過程を目で追っていると、理科の時間に見た「アサガオの成長の早送り」を見ているような気分になった。

やがて、一つ一つの苗が俺の腰くらいの高さまで成長すると、小さな実をつけていく。

そして、その小さな実がどんどんとサイズを増していった。

いよいよバレーボール大まで成長したところで、作物の伸びが止まったようである。


「本当にデカイなこれ……」


日本で言うところのスイカのようなサイズの実がなったので、工具の中にあったナイフで収穫する。

茎から実をもぎ取ると、実を失った植物は消えてなくなる。

なんだかゲームチックだよなあと思いながらも次々と実を収穫していく。

すべての実を取り終えると、アイテム欄には24個の「マジカルボール」という謎のアイテムがあった。

恐らくこれが先ほど収穫した実であると考えられる。

試しに「マジカルボール」を食品加工の技能でいろいろと調理してみることにした。

このマジカルボールが食材ではない可能性もあるが、その場合は「加工不能」と出るので安心である。


「おお!そのままフルーツ感覚でも食えるし、ジュースにもできるのか!」


なんだか喉も渇いていたので、俺はマジカルボールを一つジュースに加工することにした。

食品加工の技能を「マジカルボール」に使うと、1リットル程度のビンに入ったジュースが完成する。

ビンの中から姿を見せる「マジカルジュース」は、虹色の液体が容器内で鉛直循環を起こしているような見た目であった。

日本人的な感覚からすると「なんだこの毒々しい液体は……」と危険を感じる。

だが、肉と水以外ない現状では、こんなやばい色の飲み物ですら美味そうに見えてくるから不思議なものだ。

実際にビンに閉められているコルクの蓋を外すと、様々な甘い果物の匂いが香ってくる。

柑橘系の甘酸っぱい匂いから、白桃のジュースのような柔らかい香り、パイナップルジュースのような強い甘さを感じさせるものまでごちゃ混ぜになった乱暴な刺激が鼻腔に届く。


「飲んでみるか……」


一応食品加工によって生まれた「マジカルジュース」に毒性があるといったような説明は無いので、試しに少し飲んでみることにした。

俺はアンデルスが作った金属性のコップにジュースを少しついでみる。

そして、そのままコップに注いだ虹色の液体を飲んでみた。


「う、うまい……」


なんとも言えない旨味がそこにはあった。

口の中に広がる果物の甘さに加え、鼻の奥に広がる爽やかな香りが素晴らしい。

見た目は完全にアウトなものであるが、飲み物としては一級品である。

結局何杯も飲んでしまった俺は、半分ほどビンを空けた。

他のパーティメンバーにも飲ませようと思って、とりあえず人数分のジュースを作ることにする。

食品加工によって、ふつうの果物として食すものも幾つか用意しておく。


変な実の収穫を終えてキャンプへと戻ると、漸くテントの中からパーティメンバーの皆がでてきたところであった。

畑から戻ってきた俺が声をかけると、


「あら、クロノ先生はどこにいってらしたの?」


と疲れた様子のラズメリノが言う。

何故か泣きはらしたような目をしたエイレネと、気まずそうに此方を見るミシュラ。

ルークとラズメリノとアンデルスは3人とも酷く疲れた様子であった。


どうやら、テント内から俺がいなくなって後も一悶着あったらしい。

俺達はキャンプに設置された椅子に腰掛けて、朝食の干し肉を食うことにする。

「また干し肉だよね……」と辛そうな顔をするアンデルス。

しかし、今日の朝食には先ほどゲットした「マジカルボール」も並ぶことになる。


「なんですかこれ!?」


新しい食べ物が食卓に並び、目をパチクリさせて驚く一同であった。

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