第四十三話 強化合成と肉
決死の覚悟でグレートウルフに背を向けて逃げ回った俺達だったが、意外な結末によって危機を乗り越えることになる。
俺達が大規模な半自動魔物狩りをする際に用いた「巨大落とし穴」が放置したままであり、信じられないことにそのトラップにグレートウルフが引っかかったのであった。
「出てこようとして中でもがいてますね」
穴の上から冷静に分析するミシュラ。
その横で「でかくてもウルフはウルフなんだな」と笑い転げているルーク。
そのまましばらく穴の中にいるグレートウルフを眺めていたのだが、特に事態が変化する様子も無かった。
なんとなく、穴の中で生を求めてもがくグレートウルフを哀れみの目で眺めているエイレネやラズメリノ。
「魔物とは言え、こうして見ていると切ない気持ちになりますね師匠」
頬に手を当てて、長く綺麗な銀髪を風に靡かせて言うエイレネ。
確かに、迷宮内にいる魔物が俺達の敵であるとは言えども、こうして必死に生きようとする生命の有様を安全地帯から見せられると微妙な気分になる。
そうかと言っても、この穴から出してあげるわけにもいかないし、このまま放置しておくメリットも無い。
そもそも放置しておくくらいなら最初から相手にしなければと良いという話である。
「無抵抗の相手にトドメを刺すというのも、なんだか気が進みませんわ」
肘を抱いてグレートウルフを見下ろすラズメリノ。
結構合理的な思考をするアンデルスなんかは「戦って負けたのだから仕方ない」と魔物に同情している様子は無かった。
ミシュラも政治的、商人的な考えをするところがあるので「勝てば官軍、敗者に正義は無い」といった冷血なことを言っている。
負けた相手に情けをかけることができるのも自分に余裕がある時だけであるし、その後に反撃される可能性がある点に関しても自己責任であるので、彼女達の説く理論も間違いではない。
倫理的な問題に直面して、微妙な時間をすごしていた俺達であるが、グレートウルフが苦し紛れに放った魔法によって事態は一変する。
「キャっ!」
エイレネとラズメリノの目前を小さな火球が通過する。
穴の中にいるグレートウルフが「プチファイア」の魔法を使ったようであった。
彼女達にヒットすることはなかったが、突然の攻撃行動に驚かされることとなる。
「やっぱり魔物は魔物ですわ!!」
「畜生に情けをかける必要はありませんね!!」
そこに先ほどまでの慈愛に満ちたエイレネとラズメリノの姿はなく、主人に牙を向いたペットを調教する時のような剣呑な雰囲気があった。
無慈悲なまでに穴の中へと放り込まれる「ファイア」を食らい絶命するグレートウルフ。
グレートウルフが息絶えた瞬間、俺達の視界にシステムメッセージが現れる。
「ユニークモンスター の 討伐に成功した!」
俺達はグレートウルフを倒したことにより、5000 のスキルポイントと 30000 のコネクトを入手した。
ドロップアイテムには、
・「銀狼の毛皮」(生産素材):
巨大な狼の毛皮。生産素材として使うことが出来る。
というものがあった。
「まさかレアアイテムってこれのことか?」という空気がパーティ内に流れる。
しかし、次の瞬間俺達の前に豪奢な模様の装飾が為された宝箱が現れた。
「ユニークモンスター の 討伐報酬 が出現しました!」
宝箱が出現すると同時に、俺達の視界をシステムメッセージが流れる。
目の前に突然出てきた宝箱を開けると、次のようなアイテムが入っていた。
・ビーストキラー(片手剣)(Dランク)[合成印][獣]:
獣族に対して大ダメージを与えることができる。「攻撃力+15」
・回復の盾(片手盾)(Dランク)[合成印][回]:
盾で防御した際に、敵から受けた攻撃ダメージの1割を回復する。「防御力+5」
・錬金粘着玉(生産素材):
同じジャンルの異なる装備を合成する際に使用する。
上二つは装備品であり、3つ目のアイテムはアルケミストの技能である「強化合成」に用いるものである。
通常「強化合成」を行う時には、同一名のアイテムを準備しておく必要があるという。
その際、元になった装備だけが手元に残り、素材として使われたもう一方のアイテムは消滅する。
強化されたアイテムは「強化値」が +1 されて、能力補正値が +2 される。
具体的に説明すると、もともと「攻撃力+5」の装備ならば「攻撃力+7」へと成長するというわけだ。
ただ、この際に気をつけなければならない点は「装備ごとに補正される数値の種類が異なる」という点である。
例えば、「攻撃力+5」「防御力+5」の片手剣を強化した場合、攻撃力は上がるが防御力はそのままといったことが起こるということだ。
これは「満遍なく能力値が上がる装備」をひたすら強化することによるバランス崩壊を防ぐための措置であると考えられる。
確かに、安価で手に入る上に、全能力値が 1 ずつ上がる「初心者のお守り」みたいなものを +999 とかまで強化されてしまうような事態を防ぐ必要があるわけだ。
また、このような事態を防ぐ別な対策として、「強化限界値」というものがマスクデータとして存在することが予想される。
今回手に入れた「錬金粘着玉」というアイテムは、「強化合成」を異なる装備を用いて行う際に必要になる素材であるという。
イメージとしては、強化したい「鉄の剣」に素材として「ビーストキラー」と「錬金粘着玉」を用いるというような使い方である。
この場合、強化合成によって完成するアイテムは「鉄の剣 +1 [獣]」といったものになる。
これは、強化値が +1 であり「獣」の合成印が付与された「鉄の剣」が誕生するということである。
合成印とは、その印を持つアイテム特有の性能を発揮するものであり、強化合成によって違うアイテムに付け足すことが出来るのだ。
例えば、「ビーストキラー」を3本「鉄の剣」に合成すると「鉄の剣 +3 [獣][獣][獣]」という獣タイプの魔物に特化した武器が誕生する。
また、この「鉄の剣 +3 [獣][獣][獣]」を「はがねの剣 +4 [火][回]」に合成した場合「はがねの剣 +7 [獣][獣][獣][火][回]」という片手剣が生まれることになる。
この理論で行くと、[獣]印を100個程度重ね掛けしたような「特定の種族特化」の武器を各種族ごとにそろえておけばよいのでは?と考えられるのだが、「錬金粘着玉」が基本的にレアなアイテムなのでそういう訳にもいかないのである。
なので、錬金粘着玉を使う際には十分に注意して使う必要があるのだ。
今回手に入れた装備の印は以下のようである。
・[獣]:獣科の魔物に与えるダメージが、ダメージ計算後に二倍される。(武器印)(重複 可 )
・[回]:ダメージ計算後に、受けたダメージの1割を回復する。計算処理後にHPが正の数になった場合は生存するが、負の数になっている場合はそのまま瀕死状態になる。(防具印)(重複 不可 )
説明を見る限りでは、[獣]印は重ねがけ可能であり、[回]印は不可能である。
確かに、[回]印を多くつけておけばほぼ無敵状態になってしまう。
迷宮がどういう意図で作られたのかは分からないが、少なくともチートっぽい裏技で突破することを良しとはしていないはずだ。
「でも、その理論だと俺達の討伐方法は不味いような気もするが……」
俺達の狩りは「頭を使った良い方法」であることを信じて止まない。
強化合成の素材を手に入れた俺達は、パーティ内の相談の元、[回]印をルークの持つ「タワーシールド」に入れることにした。
グレートウルフ戦でも思ったことだが、迷宮探索においては「死なない」ことがやはり重要である。
「攻撃は最大の防御である」場合もあるのだが、こと迷宮に関しては「防御こそ最大の攻撃」になる場合が多い。
「それじゃあ早速作るよ」
習得してから初めて「強化合成」のスキルを使うアンデルス。
武器と武器を錬金粘着玉でくっつけるようにして強化合成が完了する。
少しして、俺達のアイテム欄に「タワーシールド +1 [回]」が誕生した。
早速出来上がった盾を装備したルークは「何も変わらないな」と感想を口にする。
使用感が変わるような合成印もあるかもしれないので、次はそのようなものが出ることを期待する俺達であった。
「ビーストキラー」はメイン火力のラズメリノが持つことになり、お古の「ロングソード」はルークが持つことになる。
とりあえずこの階層でやることが無くなった俺達は、日も暮れてきたことなのでキャンプを設置することにする。
このまま転送装置へと向かっても良いのだが、転送準備エリアで野営できない可能性があるので、ひとまずこの階層で夜明かしをすることになったのだ。
転送装置の近くにキャンプ及び野営に必要な設備を作る俺達は、早速夕食を食べることにした。
先ほど倒したグレートウルフが「ウルフの上肉」というアイテムを6つほど落としたので、今晩は「食品加工」によって作った「グレートウルフのステーキ」を食べることになる。
キャンプに設置されたテーブルの上に料理を設置していく俺をメンバーたちが待ち遠しそうに眺める。
今まで食べていた魔物の肉と比べると、明らかに質感と香りが異なる「グレートウルフのステーキ」に一同は思わず涎が出そうになる。
「これはレアアイテムの匂いがしますねぇ」
と物理的にクンクンと匂いを嗅いでいるミシュラ。
一般的にはあまりお行儀の良くない行為ではあるのだろうが、幸せそうに匂いを嗅いでいるミシュラはなんとも可愛らしかった。
「早く食べようぜ!」と急かすルークをちょっと待たせて、俺はパーティメンバーにある提案をする。
「ユニークモンスター討伐記念にお酒を購入するのはどうだろう?」
先ほど手に入れた 30000 ゴールドのうち、幾らか使ってステーキに合いそうな酒を購入しないかと提案する俺。
日本では未成年飲酒でアウトになる年の俺達ではあるのだが、この世界には飲酒に関する年齢制限が無いので、自己責任の下飲むことが推奨されている。
なので、この場合お酒を少量飲むことは特に問題にならない。
「いいですねえ!!」
と目を輝かせるのはミシュラであった。
以外にもお酒が好きらしい彼女は、俺の提案に真っ先に飛びついてくる。
他のメンバーも「祝勝会ですね!」と乗り気なので、早速「アイテム購入」の「商品リスト」を見ることに。
食料品の欄を見ていくと、多種多様なお酒のラインナップが目に映る。
「滅茶苦茶種類があるな……」
オーソドックスなものからゲテモノまで豊富に取り揃えてある酒類に驚嘆する一同。
お酒の値段はピンキリであり、高いものは数百万コネクトという恐ろしい値段設定であった。
俺達は比較的安く、肉を食べる上で相性の良さそうな「フルーティフェアリー」という果実酒を選ぶことにする。
お値段は大きなビンで一本 10000 コネクトとおてごろであった。
内容量的には一人当たりグラス一杯分は取れそうなものである。
「アンデルス、ワイングラスのようなものを作れるか?」
俺の問いかけに「まかせて!」と言い、すぐに地面からグラスを練成するアンデルス。
果実酒をついだグラスが人数分行き渡ったのを確認し、俺達は乾杯する。
「それじゃあ、俺達の迷宮探索がうまくいくように!」
軽くグラスを合わせた一同は漸く食事を開始した。




