第三十五話 トラバドールの意外性
次の階層へと繋がるポータルを探すために、俺達はトラバドールの技能である「探索地図」を習得することを目指す。
昼食も取り終え、午前中と同様に午後からも魔物狩りをしてスキルポイントを稼ぐことになったのだ。
一同がキャンプに設置された椅子から立ち上がる段階で、俺は午後からの狩りのイメージを思い出す。
「迷宮陣形」は前衛のルークとラズメリノ、中衛はエイレネ、後衛は俺とアンデルスとミシュラが配置されたものになっている。
主に「ナイト」のルークが盾で敵を惹き付け、「ファイター」のラズメリノがとどめを刺すと言った戦い方が基本であった。
昨日の戦闘のように敵の攻撃をもらってしまった場合は、中衛に控えている「プリースト」のエイレネが傷ついた仲間を迷宮魔法の「ヒール」で癒すという具合である。
ただ、今日の午前中の前衛の働きぶりを見る限りでは、エイレネの回復魔法が必要となる場面はほとんど無くなる事だろう。
そこで、俺はシステムロール以外のメンバーが手持ち無沙汰になってしまう事態を改善するために、パーティのメンバーたちにある提案をする。
「なあ、パーティで一冊「迷宮魔法書」を購入するのはどうだろうか?」
俺は「スキル習得」以外の方法で、迷宮技能を習得するのはどうだろうかとメンバーに伝える。
「迷宮魔法書」とは、コネクトで購入することが出来るアイテムである。
このアイテムは使うことによって「その魔法を習得できるロール」のメンバーが、魔法書に書かれた魔法を習得できるという便利アイテムなのだ。
「スキル習得」とは異なり、魔法を習得する際に「スキルポイント」を消費することは無い。
「迷宮魔法書ですか、それって私が覚えることになりますよね?」
このパーティで魔法が使えるロールは「プリースト」であるエイレネということになる。
彼女のロールである「プリースト」は主に回復魔法がメインの職業ではあるが、一応攻撃魔法も簡単なものなら覚えることが出来るのだ。
パーティのメンバーも「戦闘が効率化できるのならば問題ない」と言うので、ミシュラの技能である「アイテム購入」から迷宮魔法書のラインナップを見ることになった。
俺達はアイテム購入の商品リストを見ていくと、迷宮魔法書が結構高い事実に気づく。
最も安い攻撃魔法である「ファイア」ですら 1300 コネクトもするのである。
「これを買ったら、午前中に貯めたコネクトがほとんど無くなっちゃいますね」
マーチャントであるミシュラが金勘定をする。
パーティ内でも意見が上手くまとまらなかったので、最終的にリーダーの俺が決定することになった。
俺は魔物狩りの作業を効率化できるほうが、コネクトを貯めておくよりも後々有効に働くと考える。
「魔法書を買うことにするぞ?」
パーティの一同から不満の声も出なかったので、俺はミシュラに「アイテム購入」してくれと頼む。
はい!と元気良く返事をしたミシュラが迷宮魔法書を購入する。
メニューのコネクト残高が 1350 から 50 に減り、アイテム欄に「ファイアの書」が追加された。
早速エイレネに「ファイア」を習得してもらうために、俺達はファイアの書を使う。
特に訓練を積んだり、本を読み込んで勉強することなく魔法を扱えるようになるシステムが良く分からないが、迷宮特有の不思議現象として飲み込んでおくことにした。
「エイレネ が 「ファイア」 を習得しました!」
「クロノ が 「ファイア」 を習得しました!」
購入した「ファイアの書」をエイレネが早速使ってみたところ、俺達の視界に薄くシステムメッセージが現れる。
久しぶりの現象に一瞬驚く俺達だったが、なによりも驚いたのはその内容であった。
「なんか先生も「ファイア」を習得してなかったか?」
「俺の見間違いか?」とメンバーに問いかけるルークに対し、他のメンバーも「自分も見えた」を驚いた様子で答える。
俺にもそのメッセージは見えたし、実際にメニューから「迷宮技能」の欄を確認したところ、攻撃魔法の欄に「ファイア」という表示があった。
せっかくなので「ファイア」の説明文を見てみたところ、
・ファイア
敵一体を火球で攻撃する下級攻撃魔法。
という駄洒落のような説明が申し訳程度に書かれていた。
実際に「ファイア」を人のいない方向に発動してみたところ、拳大の火の玉が現れて草むらに向かって飛んでいく。
草に燃え広がるのではないかと一瞬焦ったが、フィールドに設置されているものには燃え移らないようであり、迷宮って便利だなと思う俺であった。
同様にエイレネも「ファイア」を発動してみたのだが、俺のグーサイズのチビ火球とは異なり、バレーボール大の大き目の火球が現れる。
火球の発射スピードも、俺の手投げ爆弾程度のものと比べるとパチンコ程度の速度は出ていたように思える。
「なんだかクロノ先生のファイアは小さくて可愛らしいですわ」
横で見ていたラズメリノが俺の出した火球を見て感想を口にする。
「ファイア」を再発動するための「クールタイム」も、俺よりエイレネの方が短いようであった。
やはり、「ファイア」そのものの性能が俺よりもエイレネの方が優秀であるらしいことが分かる。
「あ!師匠!もしかしたらロールの説明にあったトラバドールの特性のおかげかもしれませんよ?」
何かを思い出したように声をあげるエイレネ。
「学院の魔法探索科棟でガイルさんに見せてもらった「ロール一覧表」の中にある説明を思い出してみてください!」と彼女に言われた一同はかすかな記憶を辿り、表に書いてあった記述を頭の奥から引っ張り出す。
記述を思い出した俺は確かに次のように書かれていたことを思い出す。
■トラバドール■
システムロール。迷宮内での行動全般に役立つシステム職。
迷宮内の地理情報を把握したり、敵情報取得、野営能力に特化している。
戦闘能力も他のシステムロールに比べると幾らかマシで、満遍なく戦闘技能も扱えるという。
しかし、器用貧乏である点は拭いきれないので戦闘的な役割は他の専門職に任せよう。
野営に関する技能が得意。
この「満遍なく戦闘技能も扱える」と言う点に注目していただきたい。
おそらく、このシステムのせいで俺も「ファイア」を習得することになったのだと考えられる。
しかし、「器用貧乏」であるという性能も相まって「ちっこい火球」しか出てこなかったのだと推測できる。
「結構便利なロールなんですね」
「マーチャントにはそういった「法の抜け穴」のようなものはありませんでした」と呟くミシュラ。
なんだか俺が悪いことをしているような気分になったが、ここは「トラバドール」の特性ということで快く「ファイア」を習得させてもらうことにした。
しかし、その理論で行くと俺は他にも様々なロールの迷宮技能を扱える可能性が出てくることになる。
ただ、いずれの技能も本職のロールが使うものよりも「弱体化」されたものになるということは否めない。
「でも、これで私と師匠も攻撃に参加できますね!」
「魔物の殲滅スピードが上がりますね!」と嬉しそうなエイレネ。
攻撃魔法の「ファイア」が使える人員が2名ほど増えたところで、早速魔物狩りを始めることになった俺達。
キャンプの近くをうろうろしている魔物たちにちょっかいをかけて、敵の攻撃をルークの盾へと誘導する作業へ移る。
それからしばらくウルフやラビット等の魔物を狩り続けていたのだが、午後の狩りは午前中よりも凄まじい効率で進んでいった。
盾を張るルークが敵をストックしておくことはもちろんなのだが、手の空いているアンデルスも誘導した敵を「アイテム生成」で作った土壁で閉じ込め始める。
また、アンデルスが作った落とし穴に嵌っている魔物を上空から「ファイア」で焼き殺すといった無慈悲な攻撃ルーチンも出来上がり、とんでもない作業効率になっていたのだ。
落とし穴の手前で敵の囮になる役目をミシュラが担当していたのだが、
「私だけなんだか足手まといみたいだ」
と狩りの終わりごろに悲しそうな顔をしていた。
狩りの終了後「そんなことはないぞ」と彼女を励ます俺は、マーチャントであるミシュラの重要性を説く。
俺の決死のヨイショによってなんとか機嫌が戻った彼女は、早速敵から回収したスキルポイントとコネクトを確認する。
「スキルポイントが 650 で、コネクトが 2840 ほど貯まってますよ!?」
俺達は午前中の倍程度のペースで魔物を狩りつづけていたことが発覚した。
「ファイアの書」を購入して良かったと心の底から思った俺である。
戦闘後に入手した魔物の肉も大量だったので、干し肉にすることで当分食糧に困ることは無いだろう。
「あれ?なんですかこれ?」
アイテム欄で魔物から入手したドロップアイテムを確認するミシュラが困惑した声をあげる。
どうやら、「魔物の肉」以外のものがドロップしていたらしい。
気になった俺はメニューのアイテム欄を確認してみる。
すると、そこには「銅」というアイテムが3つ、「大地石」というアイテムが2つあった。
「いったいこれは何だ?」
疑問に思った俺はアイテムの説明欄を見てみることに。
説明文には次のようなことが書かれていた。
・銅(生産素材)
迷宮内で取れるFランクベース素材。
・大地石(生産素材)
迷宮内で取れる「地属性」補助素材。
説明を見る限りでは、どちらも「アイテム生成」などの生産技能に使う材料であるようだった。
アルケミストのアンデルスに聞いてみたところ、やはり「アイテム生成」で使用できる素材であるとのことである。
「銅」は文字通り銅製のアイテムをつくるために必要なものであり、「大地石」は「地属性」のアイテムを作るために必要なものであるという。
「地属性」がこの迷宮内での「属性」の一つを表現していることは、迷宮探索前のレインさんの講習で習った記憶がある。
俺達は戦利品の確認をしながら夕食にすることにした。
昼飯の時のようにテーブルと椅子を生成し、食器に盛った調理肉とコップに注いだ水を摂取する。
ご飯も食べ終えた頃に、俺達は今回入手したスキルポイントとコネクトについて話す。
「とりあえず、当初の目的だった「探索地図」を習得しようと思うが問題ないか?」
一応俺がメンバーに確認を取ると「それで問題ない」とのことだったので、俺はメニューから「スキル習得」を開き、「探索地図」を習得する。
ひとまず「迷宮探索」の目途が立った瞬間であった。




