第三十三話 ルークと夜明かし
しばらく横になっていると、なにやら誰かがテントに入ってくる音が聞こえた。
どうやら、エイレネとラズメリノの番も終わり、俺とルークの番がやってきたようである。
俺は寝ているルークを起こして、外のキャンプへと出る。
眠たい目を擦りながら俺達は焚き火の周りに設置されている椅子に腰掛ける。
「迷宮生活結構大変だな先生」と初日から早くも疲れを見せるルーク。
実際迷宮を少し舐めていた節もあった俺はそれに同意した。
夜の番をこなす俺とルークは、キャンプの近くを魔物が通るたびに少しドキドキしながら魔物の名前を確認する。
「ウルフか、大丈夫だな」
迷宮に入る前にガイルさんから聞いた話だと、迷宮内は夜だけ強い魔物が出るということだった。
なので、適当に近くを通る魔物を見ては警戒する必要があるのである。
だが、魔物も基本的には夜はあまり迷宮探索者達に近寄ってこないので、戦闘になることはあまりないらしい。
番をする俺とルークは暇なので、他愛も無い話からお互いの身の上話までして時間を潰す。
「先生、どうすれば俺って強くなれるのかな?」
剣の腕ではラズメリノに勝てないし、魔法の腕ではエイレネに圧倒されるというルーク。
彼はその両方を駆使して漸く彼女達と互角に戦うことができるという。
しかし、騎士科にも属しているエイレネが剣と魔法を同時に使用すると、ルークは完敗なのだとか。
彼の実家は有名な騎士一族であるらしく、彼も将来は王国の騎士団に入ることが夢であるらしい。
そのためには学院でも成績優秀であり、さらには自身も強くなくてはならないという。
「人一倍努力はしているし、自分の強さに奢っているわけでもないんだ。なのに、あいつらには決して届かないんだ」
彼女達もほかの人たちよりも強くなるための努力をしていることを知っているルークは、その事実がまた辛いのだと言う。
ルークも他の学生に比べたら、迷宮探索組に選ばれるだけの実力はあるらしい。
しかし、才能がある上に努力も怠らない彼女達には、一族の中でも凡才といわれている自分では縮まらない差があるのだと彼は語った。
なんだか、彼の話を聞いているとエリスさん達天才と共に学生時代を過ごすことで苦労したというケインズさんのことを思い出す。
「ルークはいったい何を目指しているんだ?」
俺は、1体1の戦いにおける強さにこだわる彼に問いかける。
すると、彼は「誰よりも強く、どんな敵からも味方を守れる騎士になりたい」と答えた。
「学院での模擬戦や、実家の兄弟とする手合わせでは全然勝てないんだけどな」と自嘲気味に笑うルーク。
俺はどんな訓練を普段しているのか気になったのでルークに聞いてみた。
「俺達騎士科の学生は、同じ騎士科に属する学生や先生を相手に模擬戦をやるんだ」
どうやら、騎士対騎士の一騎打ちが戦闘訓練のメインだという。
学科内の戦闘力順位もこれによって決められているらしいので、純粋な剣技でラズメリノに叶わないルークはいつも二番手であるという。
彼には3人の兄がいるらしいが、3人とも優秀であり、学生時代は常に騎士科のトップであったという。
それゆえにルークは自分の実力の無さを憂いているのだとか。
「ちょっと待て、それって一対多の試合や大型の魔物を想定した訓練はしたことがないってことか?」
魔王が不在の時代が「大崩壊」以降続くこの世界では、戦いというと「人間体人間」のバトルを想定しているらしい。
基本的に多数を相手取るのは「魔法使い」の役割であり、「騎士」はタイマンで勝てることが大事という認識であるという。
また、凶悪な魔物に関しては魔王の影響がほとんどない現在ではこちらから手出ししない限り襲ってこないのだとか。
なので、魔物の討伐は本来騎士の役割ではないという。
どうしても魔物と戦う必要があるときは、それを専門としている冒険者に頼るのが世界共通の認識だと言う。
「だから、冒険者にはいろんな奴がいるんだな」
俺が冒険者ギルドに通っていた時には前衛職っぽい人でも、いろんな種類の武器や多種多様なアーマーを身につけていたことを思い出す。
たしかに、巨大な斧なんかは比較的身軽に動く騎士を相手にするには無茶がある。
完全に魔物討伐用に特化したメンツが集結していたのが冒険者ギルドだったわけだ。
そのへんの事情を知った俺は、一向に強い連中に勝てるようにならないと悔しがるルークにアドバイスのようなものを送ることにした。
正直、騎士でも戦う冒険者でもない俺から送っていいものなのかも分からないが、悩んでいるメンバーの力になれる可能性があるなら惜しむ必要はないと思った。
「ルーク、別に騎士は一騎打ちだけが仕事じゃないぞ?」
俺はルークの考える「騎士の仕事」について、根本から異なる意見をぶつける。
「騎士の仕事は味方を守ることだから、必ずしも勝つ必要はない」と俺は話す。
それを聞いたルークは「何言ってるんだこいつ」というような、もはや俺が見慣れた顔をする。
「今回の迷宮での戦闘において感じたことはなかったか?」
俺の問いかけにルークは「俺は今回盾で魔物の攻撃を受けることが多かった」と答える。
敵に止めを刺したり追撃するのはラズメリノの役割だったと言うルーク。
「ルークの盾が無かったら、魔物の攻撃は他のメンバーに飛んでいたことになる。つまり、他のメンバーも攻撃不能な状態が出来上がるわけだ」
俺の言葉にハッとした様子で目を見開くルーク。
「もしかして、俺じゃなくてラズメリノが盾を持っていても同じことなのか?」と考え込んでいる様子だった。
彼が気づいたことは、「騎士が魔物を倒す」のではなく「騎士が魔物から守る」という違った役割の認識である。
どうしても対人戦を意識した学院の教育では、他の味方にチャンスを作るための行動というのが理解しづらいようであった。
一般的な日本人の感覚からすると、「騎士って本来そういうものだよな?」と思うのだが、チーム競技や団体行動の少ない異世界では仕方のないことなのかもしれない。
また、彼らも魔物と戦闘をするのは今回が初めてだと言うのだから、俺はこの世界と日本における戦闘意識の違いというものが如何に大きいかを理解した。
「だから、剣も魔法も使えるルークは「味方を守る騎士」として幅広く行動できるはずなんだ」
これから魔王が復活した後には、騎士達も魔物を相手取る必要が出てくると俺はルークに伝える。
だから、そのときのためにも今までのように敵を打倒する「攻撃力」を求めるだけでなく、味方を有効に動かすための「防御力」を上げる必要があるんだと俺は説明した。
「この迷宮内でタンクとしてナイトを務めるルークは、迷宮での活動を終えた後には学院で最も優秀な「騎士」になっているはずだ」
とか良く分からない理論で落ち込むルークを励ます俺。
そんな俺の謎理論に対し、「なるほどな!」と元気を取り戻したルークであった。
なんか良く分からないけど良い話みたいな雰囲気になったところで夜が明け始める。
迷宮の夜明けは地上よりも早く感じた。
この階層が地平線のように広がっているから、そのように感じるのかもしれない。
キャンプの焚き火の前に俺達が座っていると、テントの中からメンバーが次々と出てくる。
全員がキャンプに揃い朝食を取ろうと思った時に、俺達はある重大な問題に気づくことになる。
「凄く喉が渇きません?」
ラズメリノがポツリと零した一言に一同は完全に同意する。
実は俺達は昨日から一滴も水を飲んでいないのであった。
彼女の一言により、俺達の今日の活動目標は「水の確保」となった。
「とは言っても、草原しかないからな……」
水場が見つかるわけ無いよなと思った一同は、システムロールの技能で水を調達できないか考えることに。
トラバドールの俺の技能には「野営系技能」が多いのだが、その中に「水道設置」という神のようなスキルが存在した。
しかし、習得には300ポイントほどスキルポイントが必要であるので、現時点での仕様は厳しい。
ミシュラの「アイテム購入」でも水は買えるのだが、大きめの樽に入った水が1200コネクトと結構高い。
とりあえずスキルポイントもコネクトも無いので、そのどちらも消費しないアンデルスの「アイテム生成」に頼ることになった。
「昨日の夜少し実験してみたんだよねー」
ミシュラと夜の番をしている時に、アンデルスは「アイテム生成」の実験をいくつか試していたらしい。
アンデルスの話によると、「アイテム生成」はアイテム同士を合成することで「新しいアイテム」を生み出す能力なのだが、それ以外にも使用方法があったというのだ。
椅子から立ち上がり少し離れた地面に手をついて、なにやら技能を発動している様子のアンデルス。
すると、アンデルスはしばらくした後に金属の小皿のようなものを持って帰ってきた。
「これが、アイテム生成で作ったお皿」
どうやら、「アイテム生成」は自然に存在する資材を活用することもできるらしい。
昨夜の実験で作ってみた食器の数々の中に「金属製のコップ」もあるというので、それに水を溜められないか試してみると言うアンデルス。
コップの前に座り、コップの上空の空気に手をかざす。
すると、ポタポタと大気中の水分が集まり水滴となってコップの中に落ちていくのが確認できる。
「すごいですわ!!これならお水が飲めますわ!!」
普段は指を鳴らすだけで召使が水を運んでくるほどのお嬢様であるラズメリノが、たったコップ一杯程度の水を前に大きな感動を表す。
アンデルスがコップ一杯の水を作るのにはしばらく時間がかかるというので、その間に干し肉の準備をしておく。
6人分のコップと水が用意できた頃、待ちくたびれたように俺達は朝食をとることになった。
「水が美味い!」
別に良く冷えているわけでもないただの水がここまで美味く感じるとは思わなかった一同であった。
コップ一杯の水を大事に飲みながらも、アンデルスは次々と水を作り出す。
干し肉を食べ終える頃には二杯目の水が完成していた。
食事と水分補給が終わり、なんとか活動できるほどの体力をつけた俺達だった。
迷宮内活動2日目の予定は、満場一致で「水と食糧の確保」ということになる。
干し肉も食えないわけではないが、ただでさえ口の中が乾くのに加えて「塩」がさらに追い討ちをかけるのだ。
なるべく「肉」を食えるように、また「水」を好きなだけ飲めるようにスキルポイントとコネクトを稼ぐという方針になったのである。
「おっと、早速ウルフ達のお出ましのようだな」
簡素な食事を取り終えた俺達の前に現れたのは、昨日も散々狩りつくした「ウルフ」であった。




