第三十一話 初戦闘!
迷宮内で自分達の状況を確認していたところ、俺達はオオカミのような魔物を発見したのだった。
「陣形はどうしますの?」
パーティリーダーである俺に「迷宮陣形」の確認をするラズメリノ。
「迷宮陣形」とは、迷宮内における戦闘時に効果を発揮するシステムのことである。
戦闘中は「前列」「中列」「後列」という位置関係がパーティ内に存在し、これによって敵からの狙われやすさや有効射程が決まったりするらしい。
基本的に「タンク」や「アタッカー」は前列、「サポート」や「システム」は後列に配置されるという。
しかし、敵に「挟み撃ち」にあった場合などはその限りではない。
とりあえずルークとラズメリノを前列に配置し、後のメンバーはその後ろに待機する。
そこで始めて気づいたのだが、俺達のパーティで現時点で戦力になりそうなのは、前衛の二人と回復役のエイレネだけである。
これはまずいかと思った俺だが、編成が終わった頃には魔物と接敵していた。
「グルルルルッ……」
低く唸る狼のような魔物の頭上には「ウルフ」と表示されている。名前が白く表示されている敵はそこまで危険ではないという。
あまりにもパーティのレベルとかけ離れている敵は赤く表示されるとのことであった。
ウルフは全部で3匹ほど確認される。
「来たぞ!」
俺達に向かって飛び掛ってきた一匹のウルフをルークが盾で防ぎ、片手剣で切りつける。
ダメージをもろに食らったウルフは瀕死状態になり、それにラズメリノがとどめを刺す。
「やったわ!」
見ていることしか出来ないミシュラは彼らの邪魔にならないような位置に立っている。
俺とアンデルスも近くにある石を拾って投げてみたりしているが、あまり効果はないようだった。
仲間をやられたウルフたちは、今度は二匹同時にラズメリノに向かって飛び掛る。
盾を持たない彼女が処理しきれる敵は一匹なので、片方は迎撃するが、もう片方の飛びつきによる攻撃を食らい負傷する。
頭上に赤く「43」と表示された彼女のHPは残り3割程度まで減っていた。
すかさず「シールドバッシュ」をしてラズメリノに引っ付くウルフを跳ね飛ばすルーク。
ラズメリノを守るようにして盾を構えるルークの後ろで、エイレネが「ヒール」の魔法を唱える。
HPが満タンまで回復したラズメリノは再び戦闘に戻った。
手負いのウルフ2匹と睨み合いが続くパーティは、遂にウルフが動き出したことにより戦闘を再開する。
「来るぞ!」
ルークの後ろに隠れる一同は、盾によって弾かれたウルフたちに止めを刺した。
戦いに勝利した俺達は、目の間に合ったウルフの死体が光を放ち消滅したことに驚く。
そして、視界にシステムメッセージが表示される。
「スキルポイントを 3 入手した! コネクトを 15 入手した!」
ウルフ一体につき、1の経験値と5のお金というわけだ。
パーティでの初戦闘を無事にこなした俺達は、勝利の喜びを分かち合う。
戦闘が終わって再びキャンプで休む俺達は、先ほど手に入れた「スキルポイント」と「コネクト」について情報を整理していた。
迷宮探索科のガイルさんから受けた説明では、「スキルポイント」は成長するための経験地、「コネクト」は迷宮内での通貨ということだった。
早速、俺達パーティはこれらを使ってみようと試みる。
「スキル一覧か……」
メニューの中から「スキル一覧」というものを見てみたところ、現在のパーティメンバーが習得できる「迷宮技能」と「必要なスキルポイント」が表示されていた。
スキル一覧の隣の項目である「スキル習得」に関しては、パーティメンバーの全員がその項目を選択していないと選ぶことが出来ないようである。
なので、メンバーの技能習得に関しては一人でも反対者がいると覚えることは出来ないと言うシステムになっていた。
「スキル一覧」で俺を含むメンバーの「習得可能技能」の欄を見ていたのだが、現状で利用可能なものは皆無である。
「何も覚えられそうにないですね……」
「まだ一回の戦闘しかこなしてないので仕方ないですが」と言うエイレネ。
他のメンバーも似たような意見を口に出している。
一つの技能を覚えるのにだいたい「数百から数千のスキルポイント」を消費するので、今の段階では何も覚えることができないのだった。
「レベルアップっていうのも良く分からないシステムだな」
ルークはいまいち「レベルアップ」の仕組みについて把握しきれていないようだった。
俺も日本のゲームとは勝手が違う「レベルアップ」の仕組みについて少し困惑したが、簡単にまとめると次のようになる。
・ロールごとのレベルは全10段階であり、レベル10になった時点で「上級ロール」に転職するか選ぶことが出来る。
・レベルアップすると「戦闘能力」や「迷宮活動能力」が大幅に上昇する。
・レベルアップするためには前提となる「迷宮技能」の習得が必須となる。
一番上の説明は比較的分かりやすい。
「基本ロール」を極めると「上級ロール」へと転職できるというわけだ。
真ん中の説明は、俺の知っている日本のゲームでのレベルアップとほとんど変わらない。
しかし、1レベル上がるごとに上昇するステータスが段違いであるらしいことが分かった。
最後の説明が一番分かりづらく、パーティメンバーを戸惑わせることになる。
「つまり、レベル1で習得できる技能をたくさん覚えてからでないと、次のレベルに進むことができないってことだ」
このシステムがない場合、レベルだけさっさと上げて「上級ロール」に転職しようと考える奴が恐らくいるだろう。
それを阻止するためなのかは分からないが、ある程度「ロール」としての役割を果たしながらでないと成長が出来ないと考えるのが自然である。
俺達は現状「スキルポイント」を使って出来ることが無いため、「コネクト」を使って出来そうなことを探す。
俺の「キャンプ設置」の技能は特に消費するものが無いので「コネクト」は関係なかった。
一方、「マーチャント」のミシュラが「コネクト」利用する特技を持っているようである。
「私の技能なんですけど……」
「アイテム購入」という技能があるというミシュラ。
この技能では、コネクトを利用して様々なアイテムが買えるという。
現在購入可能な商品リストをパーティメンバー全員で確認できるというので、早速俺達はリストを見ることにした。
「15コネクトで買えそうなのは「薬草」だけね……」
一枚10コネクトという破格の安さで売られている「薬草」のみが現在購入できるアイテムであった。
他の「ポーション(小)」や「銅のつるぎ」などは数百から数千コネクトであるので、これもスキル同様に買うことは出来ない。
試しに薬草を買ってみた俺達は、パーティの「アイテム」欄に薬草が追加されたことを確認する。
パーティの代表として俺が使ってみることになったので、俺は「アイテム」から薬草を使う。
「うわ、これ苦いぞ」
薬草を使用すると、口の中に渋い苦味がじんわりと広がった。
そして、使用後に俺の頭上に緑色の数値が現れる。
最大HPから考えると1割程度しか回復していないので、やはりしょぼいアイテムであることが分かった。
しかも、使用後にアイテム欄を見たところ、「薬草」の表示の上に数字がカウントされていることが発見される。
「どうやら「クールタイム」が存在するようだな」
「クールタイム」とは、アイテムを再度利用する際に待たなければいけない時間である。
日本のゲームなんかでは、低効果の回復アイテムなどを連続使用することによる「高級品」の無意味化を防ぐ意味合いで用意されていたものである。
また、絶えず回復アイテムを使用し続けることで「ゾンビ」のように戦い続けるプレイスタイルを禁止するためでもあった。
ミシュラの持つ「アイテム購入」が実際に使えたことを確認した俺達は、引き続きアンデルスの「アイテム生成」を試す。
しかし、こちらに関しては「コネクト」を使うわけではなく、アイテム同士を「合成」するような使い方をするとのことだった。
なので、現状「コネクト」の使い道はミシュラの「アイテム購入」のみである。
「この辺の敵にならキャンプをしつつ「スキルポイント」集めができそうだな」
周辺でレベル上げのようなことをしようと考えた俺は、パーティメンバーの皆に聞いてみた。
危険な敵と出会う前にできるだけ成長しておいたほうが良いという考えは全員同じであったので、しばらくこの辺りで魔物を討伐することになる。
魔物狩りで俺達が遭遇した魔物は「ウルフ」の他に「バード」「ラビット」というものがあった。
「バード」は文字通り鳥型の魔物であり、イメージとしては大きな鳩のようなモンスターである。
空中を旋回し、俺達の頭上から攻撃をしてくるので対処が比較的厄介であった。
「ラビット」は大きなウサギ型のモンスターである。
これも「ウルフ」と同様に突進攻撃をメインに行動してきたので、ルークの盾で防ぎラズメリノが止めを刺すというルーチンで処理をする。
長い時間魔物達を狩り続けていたところ、スキルポイントは 155 ポイント溜まり、コネクトは 630 ほど集まった。
そして、俺は先ほどまで気づいていなかったあることを見つける。
「疲労度っていう項目があるな」
パーティメンバーに確認したところ、やはり「メニュー」の中に「疲労度」という項目があることに気づく。
これは、HPのような命の残量を表すパラメータではなく、メンバーの肉体的、精神的な疲労感を表す数値であった。
この「疲労度」が溜まり過ぎると「迷宮病」と呼ばれる様々なバッドステータスに侵されたり、「戦闘行動」などに影響を及ぼすという。
「皆さん、空が赤くなってきましたよ!」
キャンプに設置された椅子に腰掛けて空を指差すミシュラ。
どうやら、戦闘を繰り返しているうちに夕暮れ時になっていたようだ。
迷宮内に太陽が存在しているとは考えにくいので、この空間は「VR空間」のような魔法によって作られた特殊な環境であるのではないかと考えられる。
いずれにせよ、このまま日が落ちてしまったら魔物から身を守るのが難しくなり、パーティに危険が及ぶ可能性が高い。
「ミシュラ、アイテム購入で「テント」っていうやつを買わないか?」
俺はミシュラの迷宮技能である「アイテム購入」の消費一覧の中にあった「テント」についてメンバーに相談することにした。
いよいよ、俺達の迷宮初の夜の時間がやってくる。




