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異世界に転生して時間魔法しか使えない俺  作者: けろ
第二章 迷宮都市編
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第二十八話 迷宮ギルドでの出来事


探索科棟内の食堂で朝食をとっていた俺達だが、アリスちゃんの背中に刻まれていた「クロノスの蝶」という魔方陣について俺が話したことによって事態は急変したのだった。


「魔王クロノスは魔王カオスに殺されて消滅したはずだが……」


ミシュラの疑問に対し、歴史にも造詣が深いエリスさんが答える。

今から約200年前に現れたとされている魔王クロノスは史実では、当時の魔王カオスとの戦いに敗れて死んだはずであった。

だが、アリスちゃんの話によると「既に目覚めている」ということだ。


「それじゃあこの前から話題になっている魔王が目覚めたら、この世界に魔王は二人いることになっちゃうのかな?」


そんなやばい存在が二人も同時に存在していいのか疑問に思っているアンデルスがエリスさんに問いかけた。

それに対しエリスさんは「魔王といっても必ずしも悪い魔王であるとは限らない」と言う。

現在話題にのぼっている「魔王クロノス」だが、当時の人間達の記述によると「悪い魔王」ではなく、むしろ人間達にとって「良い魔王」であったらしい。

逆に、同時期に存在したらしい「魔王カオス」は世界中を恐怖と混乱に陥れた「悪い魔王」であったという。


「魔王クロノスは平和主義者だったと聞いている」


クロノスは温和な魔王であったと言うエリスさん。

彼女は俺達に「魔王クロノス」についてしている知識を披露する。


魔王にあるまじき平和的な思想と、人間との共生を夢見る非現実的な思想から、クロノスは当時の血気盛んな魔族からは不評だったらしい。

だが、圧倒的な戦闘能力とカリスマ性から、一部の魔族からは熱狂的な好評を受けていたという。

クロノスは高等生物である魔族としての誇りをもっているらしく、本能のままに行われる無益な殺生を良しとしない。

自身は歴代の魔王の中でもトップクラスに高い戦闘能力を有していながら、その力を破壊のために使うことはなかったという。

そんなクロノスは、彼の能力の高さと知性を買われ、武力で統治することに疑問を感じ始めていた前魔王より「魔王としての地位」を引き継いだのだった。

しかし、彼も暴力による制圧には懐疑的だったため、当時の暴力的で不安定な空気感の中、程なくして「過激派な魔王カオス」による「魔族至上主義政権」へと交代となった。


魔王カオスが「魔族領」を支配するようになると、人間との友好的な関係や平和を望む魔族が生きづらい時代が到来したという。

クロノスは、そんな魔族達が安全で快適に暮らせる「平和な国」を魔族領と人族領の境界付近に作ったらしい。

だが、クロノスが作ったという「自由国家ユピテル」は名前だけが歴史書に書かれているだけで、実際に存在が確認されているわけではないという。


「どこまで本当なのかは分からないがな」


当時の世界情勢は混沌としているものだったらしく、現在まで残っているものや情報が少ないのだというエリスさん。

特に、魔王カオスと魔王クロノス、そして「勇者タカシ」を中心とする人間達の激しい戦いが残した爪痕は大きかったという。

世界規模の戦争によって滅茶苦茶に荒れた環境に残っていた連中が書き連ねたものだから、情報に偏りがあったりデマ情報や盛りに盛られたガセネタも多いらしい。

しかも、それらに加えて、約100年程前に起こった大規模な自然災害である「大崩壊」によって失われた情報や文明というものもあるという。


「古代語の解読もほとんど進んでないのも原因ではあるのだがな」


「大崩壊」以前の書物は「古代語」で書かれているらしく、解読がまだまだ終わっていないらしい。

「迷宮」が超高度な技術で作られている「アンティークアイテム」を出土するものとして重宝されているのも、「大崩壊」によってほとんど文明や遺産が消え去ったからなのだという。

「このへんのことはユリウスが詳しいから、エルメリアに帰ったら聞いてみることにする」というエリスさん。


「魔王」に関することはエリスさんが学院に帰ったら調べておくらしい。

アリスちゃんの背中に刻まれている「クロノスの蝶」も、別にこちら側から干渉しなければ危険な魔族と係わり合いになることもないらしいので、ひとまず保留しておくこととなった。


魔王について話しながら朝食をとり終えた俺達は、迷宮都市で活動可能になるためにラビリス内にある「迷宮ギルド」へと向かうことになる。

「迷宮ギルド」は大通り沿いに存在するということで、早速クロノパーティとレインさんの7人で迷宮ギルドへと出かけた。

アリスちゃんとエリスさんは「アリスちゃんがラビリス内を歩くのは危ない」と言うことで、探索科に残り昼過ぎに出発するエルメリア行きの魔法馬車を待つことになった。


屈強な男が目立つラビリス内の大通りを歩く俺達。

俺達の中でこの世界の平均身長よりも大きいのはエイレネとルークだけなので、なんとなく緊張感が付きまとう。

ラビリス大通りの整備された石畳をコツコツと進んでいくと、道沿いに「迷宮ギルド」と書かれた無骨な建物を見つける。

エルメリアの冒険者ギルドのような建物である「迷宮ギルド」に入ると、懐かしのあの雰囲気が存在していた。


「ギルドって名がつく機関はどこもこんな感じなのか……」


俺が「冒険者ギルド」を思い出し感慨に浸っていると、エイレネが「師匠は冒険者だったのですか!?」と驚く。

やはりこの世界基準では「冒険者」という職業はあまりにも不安定で危険なものであるという。

迷宮ギルドが冒険者ギルドと異なる点を挙げるとすれば、ゴツい連中以外にも「研究者」や「文官」チックな人たちも掲示板を見に来ているところである。

迷宮内で「サポート」や「システム」のロールを担当する人や「迷宮研究者」なのであろう。


「迷宮ギルドに登録したいのですが……」


迷宮都市で活動するために、ギルドに登録をしようとする俺達。

受付のいる窓口で必要書類に諸々の情報を記入し、しばらく事務処理を待つ。

処理を待つ間、メンバーの皆と掲示板を見ていると様々な情報が入ってくる。


「今日の迷宮情報ですって」


ラズメリノが見ている掲示板の端の欄には、「今日の迷宮情報」というコーナーがあった。

現在迷宮内の1~5階層で「ピュアドラコ」と呼ばれる小さい竜の子供が出現しているので注意しろといったことが書かれていた。

他にも、「魔法系ロール募集」とか「タンク求む!」といったメンバー募集の情報もあった。


「なんだかMMORPGみたいだな」


日本でやっていたオンラインゲームのパーティ募集に似たような光景がそこにはあった。

程なくして受付番号が呼び出された俺達は掲示板の前を離れる。


「なんだか迷宮都市に来た実感が沸きますね!」


意外と迷宮に対して好奇心旺盛なミシュラが楽しそうに俺に話しかける。

他のメンバーも学院にいる時は出来ない体験ができるからか、迷宮に抱く思いは悪いものではないらしい。


「お待たせしました!こちらがパーティ許可証と迷宮探査都市内の身分証になります!」


本人が触れるとそれぞれの顔が浮かび上がる不思議なハガキサイズのパーティカードと、個人の情報と顔写真が載っている身分証明証を受け取る。

ギルドの窓口で無事に固定パーティ登録を済ませた俺達であるが、一つだけ問題があった。

それは……


「俺、パーティ名なんて書いたか……?」


登録用紙に全く書いた覚えのないパーティ名がパーティカードに書かれてたのだ。

しかも、ちょっと恥ずかしい感じの名前だから困る。

どれどれ見せて御覧なさいとパーティカードに集まるメンバー達。


「おいおい、俺達のパーティ名が「星霜の濡れ烏」って書いてあるぞ……」


時の流れを表す「星霜せいそう」に女性の黒く美しい髪色を表す「濡れぬれがらす」が俺達のパーティ名であった。

前者は恐らく俺が使う「時間魔法」に因んだものだろう。

しかし、後者の「濡れ烏」が今一つ腑に落ちない。


「濡れ烏って黒髪が美しい女性を褒める言葉ですよね……?」


もしかしてといった様子で俺の方を見るエイレネ。

「確かにクロノ先生は女の子に見えなくもありませんわ」と妙に納得した様子のラズメリノ。

「先生は女顔ですしね」と言うミシュラ。

彼女は初対面の俺が男なのか女なのか分からなかったという。

嘘つくなと思った俺だが、この世界基準だと女性の平均身長ちょい下程度しかない俺は、ローブ型の体のラインが分かりにくい服を着ていたせいもあって性別不明であったという。

ルークも「最初は可愛い人だなと思った」とかちょっと怖いことを言っている。

なんだか怪しい雰囲気になり始めたパーティ内の空気にさらに爆弾を投下してきたのは意外にもアンデルスであった。


「先生!両方の手をグーに握って唇の下に押し当ててみて!そしたら変な音が聞こえてくるって掲示板に書いてあった!」


話題を変えるチャンスをくれたと勘違いしてアンデルスを心の中で評価する俺は、明らかに罠だと分かる誘導にまんまと引っかかってしまう。

俺の内心を良く表すガッツポーズのような握りこぶしを顎の辺りに当てた俺は、「見ろ!この男らしい握りこぶしを!!お前にも負けてないぞ!」とにこやかにルークの方を見た。

すると、ルークは目を見開いて固まってしまった。

どうやら彼も俺の男らしさを理解したようだ。

他のメンバーも驚いたような顔をしているので、俺は悪戯が決まった子供のようにドヤ顔を決める。

そのとき、横から体に強い衝撃を受ける。


「やっぱりクロノちゃん可愛いわ!!!!!」


とレインさんが俺に横からタックルを決めた。

そのまま勢い良く地面に押し倒される俺とレインさん。

またしても顔面に暴力的な圧迫感を感じながら、俺はだんだんと意識が遠のいていく。


「師匠!!大丈夫ですか!!!」


最後に聞こえてきたのは「師匠を守らなければ!!」と男らしく俺を守ろうとするエイレネの声であった。




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