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異世界に転生して時間魔法しか使えない俺  作者: けろ
第一章 異世界生活編
3/55

プロローグ(3) 異世界初日の終わり


異世界での初仕事を無事終えて、ギルドの外へと出る。

ギルドから出た俺はあることに関して悩みを抱えていた。


「食べてみたいものが多すぎて決められない……」


そう、いい匂いがする屋台が多すぎて、どの屋台に入るか決めかねているのだ。

俺は昔から駄菓子屋でおやつを選ぶときも、どれにしようか迷って数十分黙っていることが少なくない子供だった。

そしてそれは、現在の17歳に至るまで全く改善されていないのだ。


「ここに来てこんな刺客が待ち受けていたとは……」


傍から見ると阿呆な悩みではあるのだが、当の本人は真剣そのものなのだ。

屋台を吟味しながら歩くこと十数分、結局決めることが叶わなかった俺は遂に宿屋にたどり着いてしまった。

とりあえず、チェックインのタイミングを逃して野宿をするのも嫌なので、まずは宿屋に入ることに決める。


冒険者ギルドがある大通りから少し路地に入った場所に宿屋はあった。

外観は大通りにあるような建物とあまり変わらない石造りの様相をしている。

建物自体はそれなりに大きく、三階建てのアパート程度の大きさはあった。

通りに面した窓からは中の灯りが漏れていて、外から中をのぞくことが出来る。

視界に入った宿の一階部分は、食堂兼酒場兼受付といった感じになっているようだった。

宿の周辺では、厨房の排気口から出る匂いだろうか、腹の虫が思わず鳴ってしまうようないい匂いがした。

窓の上にある「小鳥のさえずり亭」と書かれた鳥をかたどった看板ですら鳩サブレに見えてしまう始末である。


「宿の飯を食うのも悪くないか……」


もはや優柔不断を拗らせすぎて今日は飯にありつけないのではと思い始めてきた。

このままここで迷っていても仕方がないので、俺は正面にある宿の観音開きの扉に手をかける。


「いらっしゃーい」


扉を開けて宿の中に入ると、一階の食堂の奥のカウンターから声が聞こえてきた。

食堂は夕飯を食べる多くの冒険者でにぎわっていて、ウエイトレスの女の子が忙しなく働いていた。


「あのう、こちらの宿に泊まりたいのですが」


俺はカウンターに向かって歩いていき、女将だと思わしき人に宿に泊まりたいと話しかけた。

とりあえず一泊とまる手続きを済ませると、二階の奥の部屋をつかわせてもらうことになった。

また大通りに戻るのも大変だし、宿のご飯に興味がわいたので宿代と夕食代の1100ゴールドを払い宿で夕食をとることにした。

部屋に向かう途中で、宿屋の基本的なルールを教えてもらい部屋の鍵をもらう。

夕食は夜中まで食堂がやっているらしいので、食べたくなったらそのときに注文してくれれば良いとのことだった。


「なかなかに狭い部屋だが悪くはないな」


俺は早速鍵を開けて部屋に入った。

部屋の内装は、シングルベッドが壁沿いに設置されており、その隣に学習机のようなサイズの作業台が置かれてあるだけだった。

部屋自体は4畳半程度の広さしかないが、その分窓が大きく感じられるのであまり息苦しさは感じない。

天井には灯りがついていて、入り口付近のスイッチを押すと消したり付けたりできるようだ。

おそらく、魔法の力で照明を設置しているのだろう。

ギルドのある大通りにも街灯らしきものがあったし、宿の廊下にも灯りがついていたのを覚えている。


「とりあえず腹が減ったから、夕食を食べに行くか」


俺は部屋の作業台の上に荷物を置いて、貴重品のお金が入った布袋と鍵だけをポケットに入れて食堂へ向かうことにした。

廊下を通り食堂へ向かう俺は食堂から戻ってくるほかの冒険者達とすれ違う。

他の冒険者達の顔が皆満足した表情をしていたことに気づき、ますます食事が楽しみになり、また腹の虫が鳴き始めた。

廊下の部屋の前にはお湯の入った桶とタオルのようなものが置いてあることに気づいた。

おそらく大浴場などという贅沢な設備はないだろうから、これで体を拭くのだろう。

俺も今日一日森の中で作業をして体が汚れているので、夕食を食べ終わったら女将に桶とお湯をもらおうと思った。


食堂についた俺は、あいている適当な席へと腰掛ける。

席に着いて机の上にある呼び鈴をならすと、ウエイトレスの女の子が注文をとりに来た。

青色の髪のツインテールが可愛らしい彼女は、明らかに俺よりも背が低くまだ子供であることが分かった。

宿の女将の髪も青色だったことを考えると、女将の娘である可能性が高い。


「ご注文はいかがいたしましょう?」


メニューを読んでもどんな料理か分からないので、とりあえず今日のおすすめディナーというのを頼むことに。

注文を受けて小動物のようにカウンターの方へと戻っていく女の子を眺めながら、隣のテーブルで会話している冒険者達の話に耳を立てる。


「お前大通りのお菓子屋さん知ってるか?」

「はあ?お前そんななりして乙女みたいなこと言ってんな」


明らかに俺よりも二回りくらいでかい冒険者が、俺より一回りほど大きい冒険者に街の可愛いお菓子屋さんの話をしているのだ。

その構図が面白くてちょっとにやけてしまったが、俺がこの冒険者達に絡まれたら為すすべもなくボロ雑巾のようにされてしまうので、ばれないように注意して話を聞く。


「いやいや、可愛いお菓子にときめいてるんじゃなくて、店員のアリシアちゃんよ。これが街でも5本の指に入るんじゃないかってくらい美人なんだ」

「な!?ほんとか!?だが、お前はすぐ話を盛る癖があるからな。しかし、その話詳しく聞かせてもらおうか!!」


俺もその話詳しく聞かせてもらおうか!!

と思っていると、ツインテールの女の子が料理の載ったお盆をもってやってきた。


「本日のおすすめディナーは ツノウサギのももステーキ と マジックマッシュのソテー です。パンとスープはおかわり自由なので気軽に声をかけてくださいね」


美人のアリシアちゃんの話題も気になるが、料理が来たので盗み聞きを一時中断する。

本日のおすすめデイナーは「ツノウサギのももステーキ」と「マジックマッシュのソテー」らしい。

ツノウサギってたしか冒険者ギルドの依頼掲示板で討伐依頼が出されていた奴だよな?

マジックマッシュに関しては日本出身の俺からすると、本当に食べていいのか少し心配である。

食べ終わる頃には幻覚が見えているような事態になっては目も当てられないが、


「俺、うまいっすよ」


とキノコのソテーが匂いと視覚でもって俺を誘惑してくる。

しかし、なんとなく食指が動かないので、先にツノウサギのももステーキとパンを食べることにした。

ナイフとフォークを使いももステーキを切り分けると、皿からあふれんばかりの肉汁が染み出る。

肉汁からほとばしる湯気からは胡椒とコンソメの食欲をそそる匂いがした。

切り分けた時に感じた肉の柔らかさは確かなものであり、口の中でも同様にその柔らかさと歯切れのよさを余すことなく発揮する。

この味と食感は鶏肉に非常に近い。

鶏肉の中でも特においしいとされているもも肉に良く似ていた。

ももステーキは若い肉体労働者向けに少し塩辛い味付けになっているので、パンを食べて口の中を落ち着かせることにする。

バターロールのような形状のパンは焼き立てなのかまだ温かさが十分に残っており、食べやすいように小さくちぎると、中から小麦の良い匂いがした。

おそらく焼きたてのパンを口に入れるとこれまたおいしかった。

欧米人向けのパンのように、少し生地がパサパサしている感は否めないがそれでも十分に満足できるものだった。

パンを一つ食べ終えて、ステーキも半分ほど食べ終わり、少し満足したところで問題のキノコに挑戦しようと思う。

マジックマッシュと呼ばれたキノコは見た目はシメジを少し大きくしたようなもので、特別危険な見た目をしているわけではなかった。

むしろ、バターのようなソースがかかっているキノコソテーは見た目でも香りでも、ももステーキにも劣らない魅力があった。

こんなに美味そうなんだから食べても大丈夫だろうという謎理論のもと、キノコをナイフとフォークで小さく切り分け口へと運ぶ。

キノコを噛んだ感触は、日本にいたころと変わらなかった。

しかし、キノコからあふれ出る旨味とバターソースの絡みは異世界でしか味わえないものだと思ってしまった。

夢中になってキノコとももステーキを平らげた俺は、少し重たくなった口をリフレッシュするべくスープへと移る。

スープはたまねぎのような野菜とコンソメのような風味の出汁が使われているものだった。

具材は他にベーコンのような肉、紫色の謎の野菜、春雨のような麺で構成されている。

スープが喉を通り抜けると、そこに残るのはもう一口飲みたいという欲求とオニオンコンソメの風味だった。

それと同時にパンを食べるとこれもまた見事にマッチした。

パンとスープを交互に食べ続けることで無限に食べ続けることが可能なのではないかと錯覚するほどの美味さである。

パンとスープはお変わり自由なので、俺も2回ほどおかわりをしたところで試合終了となった。


「ごちそうさまでした!」


机の上に食べ終わった食器を残したまま、カウンターへと向かい女将に話しかける。

体を洗う用のお湯が入った桶とタオルのような布をもらうと、それをもって二階の部屋へと向かう。

使い終わったお湯と布は部屋の前に置いておけば、翌朝に宿の従業員が片付けておいてくれるらしい。

パンとスープでいっぱいになったお腹でヨチヨチ階段を上りきった俺の耳に先ほどの冒険者達の会話がまた聞こえてきた。


「あーマジで美味かった!」

「ほんとな!この宿は飯は本気で美味いんだよな!」

「ああ、しかし部屋が狭いのとベッドが硬くてな……」

「あれさえ何とかなればなあ……」


やはりこの宿の料理は他の宿と比べても抜群においしいらしい。

しかし、肝心の宿としての機能があまり素晴らしいものではないそうだった。

だが、安全に寝泊りできるだけまだありがたいと思った


俺は部屋に戻ると桶と布を床において、早速ズボンを脱いでベッドの上に腰掛けてみた。

ボフッとおしりがベッドに埋まるようなイメージをして座ったが、あっさりと期待を裏切られた。


「うわ、カタッ!!」


思わず声が出てしまうくらいには硬かった。

ベッドの感触は木の板の上に使い古した煎餅布団を敷いたようなものだった。

確かに疲れた体を癒すための設備としては及第点すら与えていいものか迷う代物だった。

だが、土の上で眠るような野宿に比べたら明らかにマシであることは間違いないので、今はこの環境でも感謝するしかない。


もう部屋の外に出る用事もないので、お湯で体を拭くことにした。

体を拭き終えた俺は桶を部屋の外に出し、作業台に載せておいたリュックを物色することにした。

リュックの中には

「刃渡りの短いナイフ」

「金属製のコップと食器少し」

「本4冊」

「小さな懐中電灯のようなもの」

が入っていた。

今日はもう夜も遅いので、本は明日以降に読むことにした。

一応明日の宿泊費も稼いではいるが、またフタバ草拾いをしなければならないので今日はもう寝ることにする。


部屋の灯りを消し、ベッドに入った俺が思った異世界の夜の感想はやはり


「うわ、カタッ!!」


であった。

慣れない異世界での暮らしは想像以上に疲労を体に溜め込んでいたらしく、俺はベッドに入ってすぐに眠りについていた。

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