第二十五話 迷宮内の「ロール」について
今回は迷宮内でのシステムに関する説明回となります。
これまた雰囲気を楽しんでいただければ幸いです。
迷宮探索科内にある食堂に訪れた俺達は、中央に置かれた大き目のテーブルにつく。
食堂といっても、普段は学生がいるわけでもないのであまり使われていないと言う。
なので、食堂の調理器具を使ってレインさんが料理をしてくれるらしい。
エリスさんが「レインの作る料理は美味いんだよなあ」と学生時代を懐かしんでいる。
迷宮内の炊事でも、レインさんの料理によってパーティ内の雰囲気が悪くならずに済んだという場面も多々あったらしい。
「エリスも手伝ってくれるかしら?」
調理場へと借り出されたエリスさんを見たルークが、
「俺も何か手伝わせてください!」
と声をあげた。
レインさん、エリスさん、ルークの3人で料理することになった模様である。
残りの食堂メンバーは、探索科に勤務する他の研究員から迷宮について話を聞くことになった。
「みんなは迷宮について何か知っているかい?」
ガイルという某軍人のような研究員が、俺達の持つ迷宮の知識を確認する。
ほとんど迷宮素人である俺達は、
・ラビリスが都市国家であること
・迷宮には6人ではいること
・迷宮にはお宝が眠ること
程度の知識しかないことを話す。
迷宮内の細かいシステムやテクニックなんかは、基本的なルールを覚えてからでないと全く理解できないらしい。
だから、何度死んでもよみがえることが可能な迷宮においては「死に覚え」がある意味一番有効な学習方法であるという。
「ただ、ひとつだけ覚えておかなければならないことがあるんだ」
入る前に決めておかなければならないことが一つあるというガイルさん。
それは「ロール」というパーティ内での役割だという。
この「ロール」というのはRPGなんかでよくある「戦士」や「魔法使い」などといった職業分類のようなものである。
迷宮に入る際に、各自で一つ「ロール」を選びパーティを編成することになるという。
「このロールが非常に重要で、ロールの編成によって迷宮の攻略の仕方が全く違うんだ」
「基本ロール」と呼ばれる10の職業の中から、パーティ内で6つ選んで迷宮を攻略することになるらしい。
同じロールを選ぶことは出来ないので、純粋に6種類の役割をパーティ内で持つことができる。
基本ロールをその役割によって大きく分けると、
・敵の攻撃から味方を守る「タンク」
・敵に効率的にダメージを与える「アタッカー」
・戦闘中の味方を助ける「サポート」
・戦闘以外のパーティ活動を支援する「システム」
の4つに分類できるという。
レインさん達の作る料理を待つ間、俺達は10の基本ロールについて書かれた情報誌のようなものを見せられる。
「細かい部分は飛ばし読みで良いから、ざっと読んでおいてほしい」
与えられた情報を簡単に整理すると次のようになる。
■基本10ロール■
・ナイト
前衛ロール。
盾で味方を敵から守るタンク職。
純粋に敵からの攻撃を防ぐ役割。
「攻撃技能」よりも「防御技能」に優れる。盾を使った技能が得意。
・ウォーリア
前衛ロール。
武器で敵を攻撃してヘイトを稼ぐタンク職。
ナイトとは違い、攻撃によって敵をひきつける役割。
「防御技能」よりも「攻撃技能」に優れる。敵をひきつける技能が得意。
・ファイター
前衛ロール。
肉弾戦を得意とするアタッカー職。
タンク職とは異なり、敵の気を惹くよりもダメージを与えることに特化している。
敵にダメージを与える技能が得意。
・スカウト
中衛ロール。
敵の行動阻害を得意とするサポート職。
飛び道具を使った攻撃や敵の行動阻害、弱体化などに特化している。
中距離攻撃や阻害系技能が得意。
・メイジ
後衛ロール。
魔法を使って敵を攻撃するアタッカー職。
敵にダメージを与える魔法に特化している。
敵を攻撃する魔法技能が得意。
・プリースト
後衛ロール。
魔法を使って味方を助けるサポート職。
味方を回復する魔法に特化している。
味方を回復する魔法技能が得意。
・エンチャンター
後衛ロール。
魔法を使って味方の能力を上げたり、敵を弱体化するサポート職。
バフとデバフに特化している。
・マーチャント
システムロール。迷宮内での買い物や流通に強いシステム職。
このロールがいないパーティでは、迷宮内に存在する街以外では「商業活動」が大幅に制限される。
また、「アイテム無人販売機」など便利な商業システムが利用できない。売買や流通に関する技能が得意。
・アルケミスト
システムロール。迷宮内での生産活動に強いシステム職。
このロールがいないパーティでは、迷宮内に存在する街以外では「生産活動」が大幅に制限される。
野営のときなどに「アイテム調合」や「武器修理」といった生産システムが利用できない。
生産に関する技能が得意。
・トラバドール
システムロール。迷宮内での行動全般に役立つシステム職。
迷宮内の地理情報を把握したり、敵情報取得、野営能力に特化している。
戦闘能力も他のシステムロールに比べると幾らかマシで、満遍なく戦闘技能も扱えるという。
しかし、器用貧乏である点は拭いきれないので戦闘的な役割は他の専門職に任せよう。
野営に関する技能が得意。
■■
これらの基本職から派生する上級職は無数に存在するので、まだまだ迷宮都市内でも情報が出揃っていないという。
「これって私みたいな「騎士科」の学生は「ナイト」「ウォーリア」「ファイター」のいずれかを強制されるってことですの?」
肉弾戦を得意とする「騎士科」の学生は「タンク」や「アタッカー」の役割をするのかと聞くラズメリノ。
確かに、そういった事情ならば今回迷宮探索用に集められたメンツが「一見すると戦闘向きではない」のが混ざっていることにも納得できる。
だが、納得するメンバーに対して驚きの情報が与えられる。
「いや、決してそういうわけではない。むしろ、迷宮内では君達の性能は画一化されることになる」
迷宮内では俺達が持つ「戦闘技能」や「魔法」が使えなくなるという。
なので、俺が「ナイト」として活動することもできるし、内政担当のミシュラが「メイジ」として活躍することも可能らしい。
それを聞いたミシュラが「私は魔法なんて使えませんよ?」というのに対し、
「それを解決するのが「ロール」であり、「スキルポイント」なんだ」
とガイルは話す。
「スキルポイント」という新しい迷宮用語が出てきたが、これは迷宮内における「経験値」のようなものだと彼は話す。
簡単に説明すると、俺達迷宮探索者が「パーティ」を組み迷宮へと潜ると、入場の際に全ステータスが迷宮仕様に変更されるという。
そして、迷宮内で現れる「魔物」を倒すと得られるものが「スキルポイント」と「コネクト」である。
基本的に迷宮内では、敵を倒して得た「スキルポイント」を使って「成長」することになるという。
「コネクト」というのは「迷宮内専用通貨」である。
迷宮内では地上の通貨である「ゴールド」は使えないので、もっぱら「コネクト」を使って様々な取引をすることになるという。
特殊なシステムが働く迷宮内では、生物同士のアイテム取引以外にも「コネクト」を使った便利機能が多く存在するらしい。
どうやら、「コネクト」はそのまま「ゴールド」のような扱いというよりは、日本で言うところの「電子マネー」のような役割であるという認識で間違いなさそうだ。
ガイルさんの口ぶりからして、迷宮内では恐らく「ゲーム内課金」のようなシステムが搭載されているということだろう。
この辺のシステムが「マーチャント」や「アルケミスト」、「トラバドール」が迷宮攻略においてパーティ内に必要とされる理由であるという。
「スキルポイント」を使って得られるものには純粋な能力値が上昇する「レベルアップ」の他に「迷宮技能」というものがある。
この「迷宮技能」が地上で言うところの「魔法」や「戦闘技能」であるという。
迷宮内では「属性魔法」や「補助魔法」といった地上で使っている魔法を使うことは出来ないらしい。
発動する際に「特殊な妨害」が働き発動に至らないという。
なので、迷宮に入る際にはそれまでの「地上での経験や能力」というのはあまり有利に働かないという。
まだキャリアが短く、柔軟にロールに対応できる学生達が迷宮攻略に選ばれやすいのもこの辺の理由があるのだとか。
それに、どれだけ地上で強くても能力値が「迷宮内仕様」に変更されて弱体化するため、誰が潜ってもあまり難易度が変わらないせいでもあるらしい。
「とはいっても、ロールの役割や動き方なんかは地上と変わらないがな」
「ナイト」には「騎士」としての立ち回りが、「ファイター」にはダメージソースとしての立ち回りが要求されるのは地上と変わらないと言う。
なので、なるべく地上での本職に近いロールを選ぶことが迷宮攻略の上では大事だという。
ロールについてガイルさんから話を聞いていると、料理を作り終えたレインさん達がテーブルへとやってくる。
ガイルさん以外の研究者達も集まってきたところで夕食の時間となった。
迷宮内での「ロール」について話を聞いていないルークのためにも、エリスさん達を交えてもう一度説明が始まる。
「私達のころはこんな感じだったわね」
エリスさん達が学生の頃に潜ったときは、
・エリス 「ナイト」
・オグマ 「ウォーリア」
・ケインズ 「プリースト」
・レイン 「マーチャント」
・ユリウス 「エンチャンター」
・アテナ 「アルケミスト」
という少し変わった構成だったという。
「アタッカーがいないようですが……」というエイレネに対し、
「ユリウスのバフで強化されたエリスとオグマがアタッカーを兼任していたわ」
とレインさんが懐かしそうに語る。
ことあるごとにオグマさんがエリスさんと魔物の撃破数勝負を始めるために、二人の「タンク」としての役割が損なわれることが多々あったという。
これに便乗して、面白がって「二人にだけ強力なバフをかけまくる」ユリウスさんや、「救援物資を二人に提供しまくる」レインさん、「タンク用の強力武器ばかり製造する」アテナさんと共犯者が次々現れたという。
エリスさんとオグマさんの勝負に託けて、お祭り状態になったパーティ内の役割分担は滅茶苦茶なことになっていたらしい。
その度にケインズさんが「タンク兼サポート兼システム」というよく分からない器用な立ち回りを強いられていたという。
ある意味では地上での戦力差がなくなる分、ケインズさんの有能さが輝く迷宮である。
以前ケインズさんが、
「あいつら天才は困ったことに悪ふざけでも結果を残すんだよ」
と言っていたことを思い出した俺だった。




