第二十四話 新しい仲間というか家族?
この子を隷属印から解放するためには、この印を押した人間から権利を剥奪しなければならない。
そのためには連中を叩きのめし、直接印を取り外す必要があるというのが前提であった。
しかし、連中の目に触れずに隷属印を外すことができるとしたら?
その後、この子の身元引受人になればこの問題は解決することになる。
「そんなことができるのですか師匠?」
「確かにそれなら悪い連中に絡まなくても助けられますね」と言うエイレネ。
パーティの意見もミシュラを除いてだいたい似たようなものだった。
「先生!この子は犯罪行為をしたのですよ?それにこの子だけ助けたところで、また別の子が隷属されるだけです!」
一時の可哀想という感情で助けてあげたとしても、また違う別の子が犠牲になるだけだというミシュラ。
そんなのはただの偽善ですと言って、彼女は自分の意見を曲げなかった。
それに、隷属印は押印した者が解除するか、契約違反になった場合のみしか取ることができませんと言う。
「やらない善よりやる偽善だ」
とよく分からない謎理論で無理やり押し切った俺は、控えめに言ってリーダー失格だろう。
しかし、目の前で苦しんでいる子供一人助けられないのが正義であるならば、俺は自分勝手な悪でいいと思った。
繰り返すが、俺個人ではなくパーティの問題の解答としては不正解であろう。
だが、ここは職権乱用ということで講師としての地位を振りかざす。
「俺はこの子を救いだすぞ!!」
なんだか妙に燃えてきた俺は、少女の手を取り、腕の隷属印に「ロールバック」の魔法をかける。
すると、隷属印は消えてなくなり、痣のない綺麗な腕へと戻っていった。
それを見ていたパーティメンバーのみんなは、驚いた様子で「なんでもありだな」と感想を述べる。
「ほら、もう大丈夫だぞ」
少女の目線に合わせて屈んだ俺は、隷属印がなくなったことを伝える。
「でも、わたしスラムしか居場所がない……」という少女に、一同は困った。
確かに、解放したところで行くあてがないのである。
さすがに、俺が抱え込んだ厄介事なので、エリスさんや学院の先生達を頼るというわけにもいかない。
このまま解放したところでスラムに逆戻りであるので、俺はどうしようか困る。
エリスさんも「どうするのだクロノ君」と聞いてくる。
「ですから言ったのですよ!」とミシュラが俺に言う。
後先考えずに行動した自分に反省していると、少女が俺に話しかけてきた。
「わたし、ひとりでも大丈夫」
少女は次は捕まらないようにすると言って、大通りへと帰っていこうとした。
助けたはずの子供を、再び不幸にすることしかできない自分が情けなく感じた俺は、覚悟を決める。
魔法が使えて、定職についている今の俺ならばなんとかなると思って、ある行動に出た。
「俺の家族になるって言うのはどうだ?」
少女を持ち上げて俺は言う。
突然のことにエイレネなんかは「師匠!?」とあたふたしている。
ラズメリノも「先生!さすがに人としてあれですわ!」と俺を非難する。
エリスさんも「そういう趣味だったのかクロノ君」と言い、「小さい子が好きなのか」となぜか少し照れている。
「さすがに違うわ!!」
盛大に勘違いされている俺は、「妹」として俺が面倒をみると弁解する。
それならば問題ないだろ?という俺に対し、エリスさんが、
「仕方ない、そこまで言うなら私も手伝うぞ」
と呆れたように言う。
結局師匠の手を煩わせてしまうことになるあたり、俺もまだまだガキんちょだなと思ってしまう。
この子も「お兄ちゃん?」とキョトンとした顔をしながらも、「妹になっていいの?」と聞いてくる。
結局、お互いに了承したということでこの子は俺の「妹」ということになった。
「兄として守る!」とか偉そうなことを言った俺だが、迷宮に潜ってるときはどうするの?と聞かれて早速返答に困る。
またしても短慮な高校生ぶりを発揮してしまった俺に、エリスさんが申し出る。
「私がエルメリアへと連れて行くのはどうだ?クロノ君たちがラビリスにいる間、研究所のみんなで面倒を見ているぞ」
あそこなら人がいないことは基本的にないから安心だぞというエリスさん。
無責任すぎる弟子の尻拭いをしてくれた師匠に最大級の感謝を示しながら、俺はパーティメンバーに怒られる。
「クロノ師匠たら暴走しすぎです!」
「いくらクロノ先生でも今回は少し無茶でしたわ」
「なんとかなってよかったな先生」
「だから言いましたのに……」
「妹ができるってどんな感じなんだろう」
約一名あんまり怒っていない奴がいる気がするが、気にしない。
俺は早速少女に名前を聞いたが、スラムでは「チビ」と呼ばれていたと言う。
「それは名前じゃないだろう」と全員からツッコミが入る。
「名前がないのなら、家族であるクロノ君が決めてあげたらいい」
とエリスさんが言う。
少女もそれが良いというので、俺がこの子の名前を決めることになった。
この世界の命名基準がよく分からないので、日本風な名前を付けてみようかなと一瞬思う。
しかし、白く明るい金髪で蒼い目をした少女に「花子」とかつけるのも少し違うような気がした。
なので、俺はその見た目のイメージと師匠の名前から少し文字を頂くことにする。
「この子の名前は「アリス」と名づけることにしました!」
日本にあった童話のキャラクターによく似ていることと、いつもお世話になっている師匠から名前を少しいただいて「アリス」と名づける。
それを聞いていたメンバーの皆は「悪くないのでは?」と比較的好評であった。
早速「よろしくねアリスちゃん」とコミュニケーションをとっているエイレネ。
「エイレネお姉ちゃん……」
手を握るエイレネにお姉ちゃんと言うアリスちゃん。
その状況に興奮して「お姉ちゃんですって!!お姉ちゃん!!」と言うエイレネはちょっと不気味であった。
エイレネは一人っ子であったらしく、妹が出来たような気分ですと満足げである。
それからパーティメンバーとアリスちゃんが交流し、平和な雰囲気が漂うこの状況である問題が起きる。
危険な生活ともおさらばでき、久しぶりにパーティメンバーの優しさに触れたアリスは無邪気に笑い、俺達に少し心を開いていた。
しかし、一通り自己紹介が終わった後、最後にエリスさんがアリスちゃんに話しかけたときに、
「よろしくねエリスちゃん!」
とアリスちゃんがエリスさんに無邪気にくっついた。
その瞬間場が凍りつく。
確かに見た目的に俺達よりも若く見えるエリスさんは、この世界基準だと幼い子供程度にしか見えないという。
アリスちゃんと並ぶと同年代の子供にしか見えないエリスさんは「エリスちゃん……」と落胆した様子である。
「アリスちゃん!この人はクロノ師匠の師匠だから大人なんだよ!!」
慌ててエイレネがアリスちゃんに説明するが、それがさらに問題を生む。
「そうなんだ」と考え込むアリスちゃんは、
「それじゃあ、エリスおばちゃんかな?」
と首を傾げる。
「これ以上、いけない」と皆の脳内に危険信号が鳴り響く。
「おばちゃん……」と膝を地面に着くエリスさんを救い出すために俺はあることを言う。
「エリスお姉ちゃんだよ!アリス!」
必死にこの場をどうにか収めようと尽力する俺だった。
そこからはエリスさんのフォローを皆で頑張り、なんとか事態の沈静化を図る。
とりあえずどうにか収まったので、俺達は目的地である「迷宮探索科」へと向かうことになる。
これが初めてパーティ全員で一丸となって行動した瞬間だった。
ラビリスの大通りを歩いていると、程なくして迷宮探索科棟へとたどり着く。
学院内にあった学科棟の数々に比べると、些か簡素な建物である感は否めなかった。
先導するエリスさんが建物の扉に手をかけ、皆がそれに続き中へと入っていく。
「レインはいるか?」
入り口の近くのテーブルに座っていた研究員に声をかけるエリスさん。
すると、今呼んできますねと探索科棟の奥へと入っていく研究員。
少し待っているとレインさんと呼ばれていた女性が現れる。
「久しぶりエリス!!元気だった?」
深海のような青いロングヘアの美人が、エリスさんの肩をつかみそのまま抱き寄せる。
恥ずかしそうに「こら、よせ」と振りほどこうとするエリスさんだが、大人と子供並の体格差ではそれも叶わない。
豊満な胸を顔面に押し付けられ、呼吸困難になっているエリスさんを救済すべく俺はレインさんに話しかける。
「この度はしばらくお世話になります、エリスさんの弟子のクロノです」
俺が頭を下げて例をすると「あら!この子がエリスの弟子っていう子!?可愛いじゃない!!」と次の標的が俺へと移った。
正面から思いっきり抱擁された俺は、エリスさん同様身動きが取れなくなり色々とやばい状況になる。
そそくさと距離をとったエリスさんは「助かった……」と深く呼吸を整えている。
これ以上レインさんの艶かしい体に密着していると俺の中の何かが狂いだしそうになっているところで、
「レインさん!それ以上はいけません!!」
俺とレインさんの体をエイレネとラズメリノが引き剥がす。
「もう少しくっついてたかったわ……」と残念そうな顔をしているレインさんと俺の間に二人が立っている。
表情を取り繕うことも忘れて、羨ましそうな顔をしているルークの後ろに隠れているエリスさんが、
「久しぶりで油断していた」
と警戒心をむき出しにしていた。
過去に面識があるらしく「レインさん久しぶりです!」と言うアンデルスには、至って普通の対応で接するレインさん。
どうやら、エリスさんとその弟子である俺以外にはまともな対応をするようだった。
横から「俺も先生の弟子になれば……」と拳を握っているルークの声が聞こえてくる。
お互いの簡単な自己紹介が終わり、「とりあえず夕食時だしご飯でも食べましょう」というレインさんの提案により探索科内の食堂に向かうことになる。
俺の弟子であることが発覚したエイレネも、レインさんの獲物を狙う目に晒されるようになったらしく、彼女もルークやラズメリノを盾にしていた。
さきほどの抱擁が忘れられない俺は若干前かがみになりつつ、アリスちゃんと手をつないでレインさんの後に続いて食堂へと歩いた。




