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異世界に転生して時間魔法しか使えない俺  作者: けろ
第二章 迷宮都市編
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第二十二話 魔法馬車に乗る俺達

今回少し長めです。



俺達「迷宮組」がエリスさんに呼び出されてから、早くも7日が経った。

各自迷宮都市へと向かう準備を済ませ、街の南ゲートとやらに集まる。


「お、クロノ君か。君でメンバーは最後だな」


どうやら、俺がパーティ内で一番到着が遅かったようだ。

集まったメンバーをエリスさんが魔法馬車へと案内する。

魔法馬車には特に生物はつながれておらず、馬車単体で自走するということだった。

それって馬車じゃなくね?という俺のツッコミに対しエリスさんは、


「魔法具が発達する以前には馬がつながれていたのだ」


と答える。

「魔法馬車を改良したのは確か学生時代のお姉ちゃんなんだよね」と言うアンデルスの言葉に俺は驚く。

それ以前は馬だったことを考えると、アテナさんの功績の大きさは計り知れないほどである。


魔法馬車は日本で言うところのマイクロバスのような見た目であり、デザインが魔法チックなところ以外は似たようなものであった。

早速金属製の扉を開けて中へ乗り込む俺達。

バスの中には20席程度あるが、今回の乗客は俺達だけであった。

俺達は二人がけの席に並んで座る形をとる。

「俺とエイレネ」「ルークとラズメリノ」「ミシュラとアンデルス」というような組み合わせになった。


「なんで俺がこいつと座らないといけないんだ!?アンデルス、席を替わってくれ」


席順に早速文句を付け始めるルーク。

同じ騎士科の中でもあまり仲がよくないと言うルークとラズメリノは、迷宮都市以前で既にトラブルを起こす。


「それはこっちの台詞よ!あんたみたいに弱い奴の隣に座ってるとこっちまで弱くなっちゃうわ?」


「エイレネさん、私と席を変わってくださらない?」と手で虫を払うようにして言うラズメリノ。

それを聞いたルークもブチ切れ寸前だったため、仕方なしにエイレネがラズメリノと席を替えることになった。


「こらこら、お前達。仲良くしないとそんなことでは「迷宮探索」なんてできないぞ」


運転席から顔を出して俺達に注意するエリスさん。

あなたがこの魔法馬車を運転するのか。


「私が迷宮に潜っていたときも問題がいろいろあってなあ……」


学生時代にいつもの6人で迷宮に潜ったときのことを懐かしそうに語るエリスさん。

だいたいオグマさんがエリスさんに勝負を仕掛けるところから問題は始まったという。

いや、厄介事の当事者じゃないですかエリスさん。

「やれやれ」という当時のケインズさんの顔が思い浮かぶ。


騎士科と魔法科で一緒なので、エイレネとルークもそれなりに面識があったらしく「すまないな」と言う声が彼らの席から聞こえてくる。

「別にたいしたことじゃないですよ」と笑いながら言うエイレネの目は笑っていなかった。

俺は彼女が席を離れる際に「せっかくの師匠とのトークタイムが」と言いながら舌打ちしたのを忘れないぞ。

彼らとは反対に、アンデルスとミシュラの席では比較的会話が弾んでいる様子だった。


「魔法具の販売ルートと各国の規制事情にはそんな関連があったのですね!」


もっぱら魔法具のことについて語っているアンデルスとそれを横で聞くミシュラは姉と弟のようであった。


漸く全員が席に着いたところで魔法馬車は動き出す。

エリスさん情報によると、ここから迷宮探査都市ラビリスまでは半日もかからないと言う。

時間間隔が薄いこの世界では、どれだけの時間がかかるかという表現に関しては非常に曖昧である。

ミシュラの話によると、商人が好んで使う「商業時間単位」というものがあるらしい。

時間にルーズだと困る商人達の間で生まれた表現であるという。

俺も「商業時間単位」とやらについて調べてみたいと思っているところで、隣から声が聞こえてきた。


「クロノ先生!私、ラズメリノと申しますの」


この前自己紹介したときに既に名前は覚えていたが、改めて彼女は自分の紹介をしてきた。

彼女は所謂上流貴族の生まれであることや、実家から騎士として生きることを反対されているという話を聞かされる。

また、今から約200年ほど昔に現れた魔王カオスを討伐した「勇者タカシ」のパーティにいた「女騎士ラズベリー」の子孫であるという。

ラズメリノは、魔王討伐パーティの一員として活躍した「女騎士ラズベリー」に憧れているらしい。

政略結婚の駒にされる運命を自らの力で跳ね除けて、邪悪な力から民を守るために戦ったラズベリーに己の人生を投影しているのだという。

彼女も、両親から反対されている「騎士としての人生」をなんとか貫き通すために日々研鑽を積んでいるのだと語る。


「クロノ先生はどう思います?やっぱり、私は貴族の娘だから騎士になるのはおかしいと思うのかしら?」


俺に意見を求めてくるラズメリノ。

「私がおかしいのかしら?」と髪を撫でる彼女に、俺は至って現代日本人らしい意見を述べた。


「俺は別に構わないと思うぞ」


貴族の娘に生まれたからと言って、自分の夢を諦める必要なんてないと俺は答えた。

さらに俺はラズメリノの目を見て、


「むしろ、現状に甘んじないで、逆境の中努力し続けるラズメリノは素晴らしいと思うぞ?」


と俺は言う。

確かに、「家の仕来りや伝統」「この世界での女性らしさ」という日本との文化の違いはあるのだろうが、本人が「望まない人生を生きる」だけの価値がそこにあるのかは甚だ疑問である。

もし、そんな人生を強要されるのが「この世界での決まり」であり「常識」なのだとしたら、そんな常識はぶち壊してしまえとラズメリノに俺は言う。


「クロノ先生……」


感動したような目つきで俺をじっと見つめるラズメリノ。

一瞬彼女の目じりに涙のようなものが光って見えたような気がしたが、おそらく光の加減による俺の気のせいだろう。

先ほどよりも隣に座る肩の距離が近くなったラズメリノは、馬車に乗る前よりも雰囲気が柔らかくなったように感じた。

俺の耳元でぽつりと「ありがとうございます……」と零した彼女は、迷宮探査都市について話題を変えた。


「私、ラビリスに行くの初めてですわ」


どうやら、彼女も俺と同じく始めて迷宮探査都市に行くことになるという。

エリスさんも、


「あそこは少し他の国と勝手が違うからな」


「迷宮」を中心として栄える街なので、一般客が旅行にきたりするような場所ではないと言う。

たしかに、迷宮探索のために最適化された国なのだから当然である。


俺達は、それからしばらく魔法馬車に乗っているとある問題に遭遇した。

急にブレーキをかけたエリスさんは、後ろを振り返って「すまない」と謝る。

何事かと思った俺は窓の外を何気なく見て、なぜ急に馬車を止めたのか理解した。


「盗賊が現れおった」


エリスさんの一言で馬車内には微妙な空気が流れる。

俺は盗賊と聞いて内心ビビッていると、


「エリス学科長とクロノ先生が乗ってますのに……」


と隣から盗賊を哀れむような声が聞こえてきた。

他の乗組員たちも似たような感想を口にする。

確かに、エリスさんや優秀な学生達を相手にしなければならない盗賊達は同情に値するだろう。


「そうだ!ここはパーティの皆にクロノ君の実力を披露するとしよう」


何故か楽しそうに提案するエリスさんと期待の視線でこちらを見る学生達。

「無理ですよ!」と結構本気で提案を断る俺だが、「何言ってんのこいつ」みたいな空気が魔法馬車内に流れる。

俺はその場の雰囲気に打ち勝つことができず、仕方なく馬車から降りて盗賊たちと戦うことになった。

「がんばって師匠!!」と激励するエイレネは凄く楽しそうな様子である。


「マジかよ……」


仕方なく馬車から降りて盗賊たちに向き合った俺はその数の多さに驚く。

盗賊たちは血のように赤い頭巾をつけており、手にはナイフやサーベル、ハンマーなど思い思いの武器を持っていた。

俺よりも遥かに体が大きい大量の盗賊たちが、獲物を品定めする虎のように俺を見下ろす。


「黒い髪の坊ちゃん、金目のものを全部出せとママに伝えてきな」


今時童話の世界でも聞かないような台詞を吐きナイフの刃を舐める盗賊。

「それはできない」と内心ビビッている俺の返答に、周りの盗賊たちはニヤニヤと笑っている。

「それじゃあ痛い目を見てもらう」と言って動き出す盗賊達。


「ミスったらやべえぞ……」


俺は初めて無適砲を撃ったときに比べると、格段に魔法の扱いが上手にはなっている。

魔法学院で勉強を教えるために死ぬ気で魔法書や古代語の本を読み漁って、実際にディメンション内で練習も嫌と言うほど繰り返したからだ。

しかし、相手を殺めるような実戦経験は皆無なので、現在の状況に心底俺は焦っている。

盗賊の数は視界いっぱいに広がる様子から考えて100は下らない。

もし、無適砲が効かなかったらどうなる!?

俺は失敗したときのことを考えて震える。

エリスさん達が助けてくれるに違いないが、もし援護が間に合わなかったら……。


「クロノ君、この紅い頭巾の盗賊たちは捕まったらどの道死刑だぞ」


運転席の窓から顔を出したエリスさんは俺にアドバイスを送ってきた。

この赤頭巾の盗賊たちは極悪なことで有名な「レッドブラッド」という連中らしい。

奴らはその超大型盗賊団「レッドブラッド」の末端の盗賊たちであるとエリスさんは言う。

なので、手加減をして生け捕りにしたところで大した情報も持っていないし、即効で死刑になるから安心して殺していいぞと怖いことを伝えてきた。


「いやあ師匠と戦うなんて可哀想ですね盗賊も。師匠も笑いをこらえているのか震えちゃってますよ!」


馬車の中でこっちの様子を見るエイレネは、俺がいったいどんな方法で盗賊たちを倒すのか楽しみにしている様子だった。

他の学生たちも「クロノ先生は天才って評判だからな」といった様子で期待の目で俺を見ている。


戦わないと俺がやられるのはわかっているので、覚悟を決めて手のひらに魔力を集める。

100を超える盗賊たちを相手にする以上、確実に俺に近づいてこないように足止めをしなければならない。

俺は質より量だと思い、空中に数十個ほど拳大の魔力の塊を浮かせる。


「魔法だ!警戒しろ!!」


俺が魔力を練り上げる様子をみた盗賊のリーダーらしき人物は、背後に控えている魔法使いらしき盗賊に指示を出す。

魔力を溜め終えた俺は盗賊たちに追尾する「改良型の無適砲」を一斉に発動する。

虹色に輝くエネルギーボールが盗賊たちめがけて飛んでいく。

弾丸のようなスピードで飛んでいく無適砲が盗賊達の体を次々と打ち抜いていった。

そのたびに聞こえる絶叫と飛び散る血飛沫を見た俺は、体の奥からこみ上げてくるものがあった。

あまりにもショッキングな光景に思わずリバースしてしまいそうになる。


「畜生!ほとんどやられちまった!!!」


今の無適砲でほとんど死滅した盗賊たちは、残ったリーダー率いる精鋭達10名ほどで間合いを詰めてきた。

接近戦に持ち込まれたら「魔法科」の講師である俺の敗北は確定なので、近距離の無適砲で一人づつ始末していく。


「よくも仲間をこんだけ殺してくれたな!!」


迫り来る盗賊を5名ほど瞬時に発動させた無適砲で倒すが、リーダー含む5名がもう目の前まで到着していた。

「やばい!やられる!」と思った俺だったが、ここですごいことを思いつく。


「で、出た!!師匠の時間魔法!!!!」


過去に俺と初めて出会った際に「時間魔法」を見たことがあるエイレネは馬車の中で興奮したように叫ぶ。

周りの学生が「時間魔法?」と状況を飲み込めない様子であったが、彼らも盗賊達の様子を見て驚くことになる。


「ば、馬鹿な!?盗賊たちが止まっているだと!!?」


「騎士科」に通う傍らで「魔法科」の生徒でもあるルークは、俺の使う「時間魔法」とやらがどんな効果を持つのか理解したらしい。

突然武器を振りかぶったまま空中で止まっている盗賊たちを見た学生達は、唖然とした様子で立ち尽くす。


「クロノ君、やってしまえ!!」


何故かテンションの高いエリスさんから攻撃命令が出た俺は、先ほど時間魔法の「ストップ」で時を止めた盗賊たちに攻撃を開始することにした。

魔力の扱いに慣れたとはいえ、未だに長時間「ストップ」で時を止めておく事ができないので、俺も自分に「クロックアップ」を使い加速する。

俺は、この前研究所の倉庫を整理したときにエリスさんからもらった「なんかの金属の棒」をディメンション内から取り出した。

かっこよく格闘技かなにかで盗賊をボコボコに出来たらよかったのだが、生憎俺にはそんな技能も能力もないので素直に武器で滅多打ちにすることに決める。


「俺の前に現れてしまった自分の運命を呪うんだな」


調子に乗り、ノリノリで決め台詞の様なものを吐いた俺は、クロックアップで加速した目にも止まらぬ速さで、盗賊達のボディを金属の棒で叩きまくる。

さすがに頭部を殴るのには抵抗があったので、金属の鎧のようなものの上から体を痛めつける。

その様子を見ていた馬車内の面々は特撮モノを見ている子供のように沸き立っていた。

各盗賊を数十回ずつ殴ったところで、俺は疲れ果てる。

再び馬車の前に戻り、敵に背を向けて、


「フロウ!時よ流れろ!」


と叫んでみた。

すると、背後から恐ろしい悲鳴が聞こえ、恥ずかしながら驚いて振り向いてしまう。

すっかり自分のピンチだったことを忘れていた俺は、まだ生きているのでは!?と焦った。

しかし、


「なんとも派手な戦いっぷりだったなクロノ君!」


弟子の戦いぶりに満足した様子のエリスさん。

窓から顔を出したエリスさんの一言で、俺は盗賊との戦闘に勝利したことを理解する。

振り返った場所には血溜まりと、握りつぶされたアルミ缶のように変形した盗賊の姿があった。


「師匠!!かっこよかったです!!」

「クロノ先生すごいわ!!」

「あれが天才魔法使いって呼ばれる人の戦いか……」

「見事です!」

「帰ったらお姉ちゃんに自慢しようっと」


俺の戦いを見ていた学生達は、俺に称賛を浴びせる。

彼らも、これからパーティリーダーとなる俺の能力を十分に理解した様子であった。


しかし、当の俺はというと盗賊達の様子を見て青ざめ、その場で気絶して倒れてしまった。

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