第二十一話 集え成績優秀者達
今回から新章に突入です!
エリスさんが「魔王復活」に関して忙しくなるので、俺はエリスさんが受け持っていた複数の講義を担当する事になる。
会場が超満員の日は少なくなったが、それでも人気だった俺の講義はそこそこに上手くいき数週間が経った。
「だいぶ本部も落ち着いてきたから、そろそろ授業に復帰できるぞ」
漸く魔王対策から一時開放されたエリスさんは、講義の再開が可能になったという。
今数週間、俺は授業準備のための勉強に追われる毎日であった。
最初の講義でも取り扱った「基礎魔力学」に、読んで字のごとく「応用詠唱魔法学」「応用魔方陣学」「制御魔法学」などなど……。
扱った講義数は全部で7つほどあり、授業対象は学院生1年目から研究生4年目までであったため、尋常ではない時間自習に費やすこととなる。
授業が休みの日であっても、日の出の鐘から日没の鐘が鳴るまで勉強し通しということも少なくなかった。
そんなわけで、もはや「魔法科研究生課程卒」の称号を下賜されても誰も文句を言えないレベルの知識を身につけていた俺である。
「やっと、解放されるんですね……」
俺の胸は、数週間にわたる地獄のような教師生活から抜け出せる喜びでいっぱいだった。
少し考えてみてほしい。
いくら言語解釈チート能力が備わっているとはいえ、「8年分の勉強を数週間でこなした」のである。
我ながら、少し自分の働きぶりに退いてしまうほどであった。
「ああ。そこで、クロノ君の次の仕事が本部の会議で決定した」
何が「そこで」なのか分からないが、俺はエリスさんの口から鬼が出るか蛇が出るか恐怖に包まれながら言葉を待つ。
そして次の瞬間、エリスさんの口から出た言葉の意味を一瞬理解できない俺がいた。
「クロノ君には「迷宮探査都市ラビリス」へと向かってもらうことになった」
エリスさんが「迷宮探査都市ラビリス」とやらについて説明を始める。
この「ラビリス」は何も無かった平原から発見されたという、古代の「迷宮」の周りに出来た町であるらしい。
都市とは言われているが、厳密に言うと「市民」や「産業」が存在しているわけではないという。
実際には「迷宮」へ向かう冒険者や研究者、その家族や付随する商売が広く分布している街であるとのことだ。
たくさんの「アンティークアイテム」が出土する「迷宮」は、特定の国や機関が独占することの無いように管理されているという。
そのため、「迷宮探査都市ラビリス」は国際的な機関が運営する「独立国」のような扱いを受けている。
なので、「都市」というよりは「国」であると考えたほうが良いらしい。
イメージ的には「サイズの小さい国」なので、「都市国家」といった様子である。
「詳しい説明はまた後でする機会がある」
どうやら俺は、問答無用で学院から「ラビリス」へ派遣されることになるらしい。
俺はエリスさんに連れられて、学院の本部棟へとやってきた。
魔法科のものよりも、豪奢な模様や細工が施された天井の高い廊下を通り抜け、大理石のようなツルツルとした表面をもつ階段をあがる。
長い階段を上り終えた俺は、廊下を進み突き当たりにあった「小会議室」と書かれた部屋に通された。
「みんな待たせたな」
扉を開けたエリスさんは中で待っていた学生達に声をかける。
小会議室は20人程度座れるテーブルが設置されていた。
俺はそこに腰掛ける5人の学生達の中に、一人良く見覚えのある顔を見つける。
「師匠!!」
扉から入ってきた俺を発見し、思わず大きな声をあげて立ち上がるエイレネ。
その様子を見ていた周りの学生達は「エイレネさんってこんな人だったっけ?」と少し困惑している様子だった。
エイレネを除く4人の学生たちは、男子2名女子2名とバランスよく配分されている。
エリスさんに促されて、俺はエイレネの隣に腰掛けた。
「今日みんなに集まってもらったのは他でもない「魔王復活」に関連する話題だ」
学院の学生達の間でも噂程度には広がっていたという「魔王復活」の情報を聞いて驚く学生達。
あらかじめ知っていたエイレネだけは、特に慌てるような素振りも見せずに平然としている。
「それで、どんな用事で私たちは集められたのですか?」と聞くエイレネに、エリスさんが答える。
「本部で決定したことなのだが、クロノ君と君達5人に「迷宮」へ潜ってもらおうと思っている」
先ほどエリスさんから説明があったように、俺達6人は「迷宮探査都市ラビリス」内にある「迷宮」とやらに送り込まれるという。
俺も授業で「魔法具」に関連する話題を扱っていたときに「迷宮」の存在は耳にしたことがあった。
発見されたのはおよそ20年前なのだが、迷宮内から出土するものは数百年前の「アンティークアイテム」であるという。
この「アンティークアイテム」の中には、以前ケインズさんが俺の授業を録画した「魔法水晶」のように、現在の技術では再現できない便利魔法具があるらしい。
「目的を簡単に説明すると、魔王対策に使えそうな「アンティークアイテム」を掘り出してきてほしいというわけだ」
エリスさん達研究者や先生方は他にやるべき対策が山のようにあるらしく、迷宮探査都市で長期間活動することは難しいという。
そこで、突如現れた期待の新人であるクロノ君に是非頼みたいという本部からの依頼であった。
「迷宮内」では、「地上の世界」と世界の仕組みが異なるという。
「世界の仕組みが異なるってどういうことですか?」
手を上げて質問するエイレネ。
エリスさんの説明によると、「迷宮」では特殊な魔法のようなものが常に発動されており、迷宮独自のシステムが我々に働くという。
細かい説明を色々と聞かされた俺達に、今のところ必要な情報は、
・迷宮内は「パーティ」という6人編成のグループ行動を要求されること
・迷宮内で死んでしまっても、生きた状態で地上に送り返されるということ
・迷宮内で倒れてしまうと、所持しているすべてのアイテムと「迷宮内通貨コネクト」をすべて失うということ
であった。
こういった理由で、俺達6人が集められたというわけだ。
迷宮で「アンティークアイテム」を探すためには6人編成であり、ある程度生存能力の高い集団であることが必須だという。
「今回集まってもらった6人は、学院内で比較的自由の利くメンバーを選んだつもりだ。そして、君ら自身が一番分かっていると思うが、各学科の優秀者達を集めている」
俺以外の5人のことを「各学科の代表」として紹介するエリスさん。
基本的には学院側からの要請である「迷宮探索」を断ることは出来ないという。
緊急事態であるので、迷宮に潜ることで学院の卒業要件を満たすことが許されるとのことだった。
「学院代表として頑張ってきます!」とやる気を見せる学生や、「え、マジ?行きたくないな」と面倒くさそうにしている学生もいた。
しかしさすがは各学科の優秀者であるのか、決まってしまった以上前向きに考えていかなければならないという姿勢は一致していた。
そして、俺達はこれから「パーティ」として寝食を共にすることになるメンバーに向けて、それぞれ自己紹介をすることとなる。
「みんな知っているとは思うが、俺は魔法科で講師をしていたクロノだ」
まずは俺が始めに自己紹介する。
この中で一番年下である可能性も否めないが、講師と言う立場上少し上からモノを言う。
どうやら、全員俺のことは知っているということで、自己紹介は簡潔に終わる。
「私はクロノ師匠の一番弟子のエイレネです!」
俺の弟子であるということを強調するエイレネの自己紹介が入る。
良く知っている人間の自己紹介だと思って聞き流していると、とんでもない新着情報が耳に入ってくる。
なんと、エイレネは「魔法科」「騎士科」「魔導工学科」を掛け持ちしているという。
彼女が恐ろしく優秀な学生であるということを始めて知った俺は、色々おっちょこちょいだと思っていたエイレネの評価を改める。
「俺の名前はルークだ」
次に自己紹介をしたのは、「騎士科」に通う学生の「ルーク」であった。
燃えるような赤色の髪をした彼は、鍛え抜かれ引き締まった肉体をしている。
彼も「騎士科」と「魔法科」を掛け持ちしているらしい。
戦闘において騎士は「武器での戦闘」も「魔法での戦闘」もこなせるべきだというのが彼の信念であるという。
そのため、「魔法科」にも足を運んでいるのだとか。
これに関してはエリスさんも「その考え方で間違いないぞ」と好評している。
そういえば、エリスさんも「騎士科」と「魔法科」を掛け持ちしていたなと俺は思った。
「次は私ですね。私の名前はミシュラと言います」
茶髪のショートカットが良く似合う彼女は、「政治科」と「商業科」に通う学生である。
迷宮内で内政分野を学んでいる学生が活躍できるのか疑問に思った俺だが、どうやら「迷宮内の特殊なシステム」とやらが関わっているらしい。
「私はあまり体力に自信が無いので迷惑をおかけする事になると思います」と頭を下げるミシュラ。
彼女からは、礼儀正しい女の子という印象を強く受けた俺だった。
「ラズメリノよ!騎士科の学生との模擬戦では負けたことが無いわ!」
気の強そうな金髪の女の子はラズメリノというらしい。
縦ロールのお嬢様というイメージが良く似合う彼女は、説明どおり剣と盾の戦いにおいては学生の中で最強だという。
それを横で聞いていたルークが苦虫を噛み潰した様な顔をする。
筋トレが好きだという彼女は、華奢な体つきをしているように見えるが恐らく服の中はバキバキに割れているのではないかと予想できる。
俺が失礼な妄想を繰り広げていると、エリスさんに「我々の肉体は魔力を吸収して成長もするから、別にゴツくなるだけが筋トレではないぞ」と指摘された。
彼女は「騎士科」にのみ所属しているという。
「最後は僕か。僕の名前はアンデルス。魔導工学科の学生さ」
最後に自己紹介をするのは水色の髪をした少年であった。
幼さが残る顔つきから、アンデルスは俺よりも少し若いような気がする。
彼はどうやら「現魔導工学科長のアテナさんの弟」であるらしく、エリスさんも彼を知っているとのことだった。
幼少期から年の離れた優秀すぎる姉と「魔法具研究」を遊びでやっていたため、そのキャリアは既に10年を超えていると言う。
一通り自己紹介が終わったところで、早速今回の派遣内容について入っていく事になる。
「迷宮探査都市ラビリス」内に王立学院の「迷宮探索科」という学院の出張所のようなものがあるらしく、俺達はとりあえずそこに派遣される事になるという。
7日後に、ラビリスへと移動する魔法馬車に乗っていくことになるので、それまでに準備を済ませてくれというエリスさん。
今日はこれで解散となった俺達は、各々自分の家へと帰ることになる。
「なんだかまた豪いことになってきたな……」
次々と舞い込む異世界ファンタジーに、俺は自分の未来が心配になってきたのだった。




