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異世界に転生して時間魔法しか使えない俺  作者: けろ
第一章 異世界生活編
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第十七話 学院での講義



エリスさんから突然、


「急な話ではあるのだが明日から学院の講師をやってもらう」


と言われた俺は、昨日の夕方に講義の準備をしたのだった。

講義内容も大まかには決まったのだが、もともと高校生の俺が大勢の前で授業をすること自体難しい。

緊張するなと言うほうが無理だろう。


日の出の鐘が外から聞こえてくる前から、意識が覚醒していることなど異世界に降り立ってから初めてのことだった。

結局、あまり良く眠れなかった俺はベッドから体を起こし研究所へと向かう準備を始める。

一階へと降り、食堂で朝食をとり終えると俺は研究所へ向かうために外に出た。


仕事へ向かう人であふれる朝の大通りの歩き、いつもどおり研究所へとたどり着く。

薬局の扉を開けて中に入ると、店のカウンターの椅子に座って本を読んでいるエリスさんの姿を見つける。


「お、クロノ君か、おはよう」


いつもの私服の上に白衣のようなローブを着ている研究者姿ではなく、黒を基調とした学院制服姿であった。

初めて見たエリスさんの制服姿は、お世辞にも学科長らしいとは言えない。

むしろ、研究員はおろか、学院の新入生のようにしか見えなかった。

エリスさんは「準備が出来ているなら行こうか」と言って、店の奥へ行くとケインズさんを連れて戻ってきた。

またしてもケインズさんに店番を頼むのかなと思ったら、


「今日は私がクロノ君の授業を見に行けないので、ケインズに代わりに録画しておいてもらう」


と言って、エリスさんは残念そうな顔をしている。

この世界にもビデオカメラのようなものがあるのかなと思っていたら、そのことについてケインズさんが教えてくれた。

どうやら、あることにはあるのだが「古代魔法具」と呼ばれる超レアなアイテムであるらしい。

世界にも数えるほどしか存在していないらしく、この大陸の中央部にある「迷宮」とやらから出土したアンティーク品であるという。

現代の魔導工学の技術では到底再現できないようなものであり、大変貴重なアイテムであるという。

そんな国宝級の代物を使って、俺の授業を録画しようとしているエリスさんは親馬鹿ならぬ「弟子馬鹿」すぎるのではないかと思ってしまった。

ちょっと大げさすぎじゃないですかと聞く俺に対して、ケインズさんが笑いながら答えてくれる。


「俺もクロノ君の授業には興味があるし、たぶん見たことも聞いたことも無いような授業になるだろうから保存しておきたいってのもある」


これからの研究に役立てられるような内容だったとしたら、保存しておいた授業を学院の魔法科全体で共有することになるかもしれないという。

俺はとんでもない勘違いをしていたようだ。

エリスさんから頼まれた講義は、教育実習生に任せる「デモ授業」みたいなものかと思っていたら、実態は「奇抜な発想をする期待の新人の最新講義」といった意味合いを持っていたらしい。

俺がすごいプレッシャーを感じて少し俯いていると、ケインズさんが大丈夫大丈夫と肩を叩く。


共有財産になるというのはケインズさんの研究者としての建前らしく、実際には少し勝手が違うという。

大事な会議で授業が出来なくなったエリスさんは、もちろん代わりの講義を行う俺の様子を見に来ることが出来るわけも無い。

そこで、暇だったケインズさんが見に行こうとしたら、


「おまえだけずるいぞ!!ケインズまで私を仲間はずれにする気か!」


と結構本気でエリスさんが悔しそうにしていたらしく、仕方が無いので研究用の「魔法水晶」で授業を録画することになったという。

エリスさんは魔法科の学科長だけあって、学院内外で結構有名な人らしい。

そのせいか、弟子である俺が授業することになったという情報があちこちに出回っているという。

研究生1年目のみならず、学院OBの魔法使いや魔法界隈の重鎮達まで俺の授業を見に来ると聞いて、俺はその場で固まってしまった。


「だから、エリスだけ魔法界隈で仲間はずれになる流れになっちゃったわけだ」


確かに、魔法科の代表として会議に出席するエリスさん以外は、特に用事が無ければ見に行きたいと思ったら来てしまうだろう。

国内の魔法使い達が学院の大講堂に集まる「魔法の祭典」みたいな感じになってきている俺の初授業の様子は、おそらく周辺諸国の知り合いの魔法使いにも見せることになるという。


とりあえず目的地へと向かうことになった俺達は、街の北部にあるという「王立学院」へと歩き出す。

一人非常に重苦しい状態にある俺をよそに、ケインズさんとエリスさんは楽しそうに俺の授業について話している。


「なあなあ、どんな授業をするつもりなんだクロノ君」


気になって仕様が無いといった様子のエリスさんが俺に尋ねた。

「それは見てのお楽しみだから言えないよな?」というケインズさんの言葉に、エリスさんが「それくらいいいだろう!」と怒る。

なんだかケインズさんにいい感じにおもちゃにされているエリスさんは、紛れも無く子供の姿であった。


「エリスさんが「魔力」について講義していたようなので、俺もそれについて少しやってみようと思ってます」


俺が魔力についての講義をやるというと、是非生で見たかったと悔しそうにするエリスさん。

歩きながら授業や魔法について話しているうちに、だんだんと街の様子は中心部とは変わった雰囲気になっていった。

しばらく歩き続けると、やがて巨大な建造物群が目に入ってきた。


「あれが、王立学院だ」


学院の方を指差して俺に説明するエリスさん。

正門までたどり着いた俺達は、研究者証のようなものを見せて門を通過する。

学院構内は自然公園のようになっていて、遊歩道のような道沿いに巨大な学科棟が並んでいるといった感じであった。

日本で言う自然豊かな大学キャンパスのような構成になっているみたいである。

ただ、キャンパス内はとてつもなく広く、小さな町程度の規模はあるように思える。

俺達はその建物の中の一つ、「魔法科棟」へと向かった。


魔法科棟についた俺達は、早速中へと入っていく。

建物の中は博物館のようになっていて、魔法に関する展示物が巨大な吹き抜けのホールのような場所に飾られている。

入り口の近くで喋っている数人の学生グループは、俺達に気づくと頭を下げて挨拶してきた。


「学科長!おはようございます!」


なんだか実際に学科長と呼ばれているエリスさんを見ると不思議な感じがする。

おはようと生徒達に返すエリスさんは、その中の生徒の一人と面識があったらしく俺の授業が今日大講堂で行われることを話していた。

一部の学生にしか情報は伝わっていなかったらしく、驚いた様子で「他の奴らにも教えてやらないと!」と言ってその場を去っていった。

ケインズさんに俺の案内を頼んだエリスさんは、本部棟へと向かうためにここで別れることになる。


「それじゃあ、がんばってくれたまえクロノ君」


名残惜しそうに魔法科棟を出て行くエリスさんを見送った俺とケインズさんは、早速大講堂の近くにある講師準備室へと向かう。

講師準備室へと続く廊下は広く、美術館の廊下を歩いているような気分になる。

立派な彫刻が為された柱の間に設置されている、ステンドグラスのような窓から入る彩り豊かな日差しが廊下に伸びている。

なんだか幻想的な空間だなと思っているうちに、目標の講師準備室へとたどり着いた。


「俺は大講堂の中で場所取りしてるから、クロノ君もがんばってくれよ」


俺を激励したケインズさんは、場所取りをするために大講堂へと去っていった。

どうやら、大物講師や有名研究員が行う最新の講義には場所取りなるものが存在するという。

よく見えるいい位置で講義を受けるために、授業が始まる前から多くの魔法使いや研究者たちが席を陣取っているらしい。

学生向けの講義なんだから、大人たちが本気で場所取りするなよと思ってしまう俺だった。


講師準備室へと入った俺は、部屋においてあったテーブルの椅子へと座る。

俺は念のため、もう一度授業でやる内容を確認しておくことにした。

しばらくすると、準備室の扉が開き事務員が授業をはじめてくださいと呼びにきた。


俺は授業のプレッシャーを感じ、緊張した心持で大講堂へと向かう。

大講堂の扉の前で俺はもう一度深呼吸する。


「席とか全部埋まるのかな……」


大講堂がどれくらいの広さかも分かっていないが、学生以外にも人が来るならば席が埋まっていてもおかしくないよなと思った。

覚悟を決めて扉を開けた俺は、想像を絶する自体に開いた口がふさがらなかった。


「おいおい、冗談だろ?」


200人くらい収容できる多目的ホールのようなものをイメージしていた俺は完全に面を食らう。

実際には1000人程度収容可能なコンサートホールのような場所だった。

中央に黒板と教卓が置いてあり、すり鉢状になった大講堂は座席が階段状に設置されている。

だが、驚くべきは会場の大きさというよりもそこに存在する人口密度であった。


「満席はおろか、階段や入り口、後ろの壁にまで立ち見の人で溢れかえっているぞ……」


会場の大半は学生らしき若者だが、最前列や中央の見やすい場所を陣取っているのは明らかに年のいった研究者達であった。

中には、明らかに重鎮といった様相の髭の魔法使いみたいなのまでいる。

俺は中央に陣取っている魔法使い達の中に、「魔法水晶」を机に設置しているケインズさんを見つけた。


俺は全身に寒気と震えを感じながらも、退くわけにはいかないので仕方なく壇上へと上がる。

すると、会場中から拍手が上がり講堂全体を鳴らす地鳴りのような音が耳に入ってきた。

この世界基準だとあまりにも若くて小さい俺を見た人たちの、ざわざわとした戸惑いの声が聞こえてくる。

ガチガチに緊張した俺は、壇上を歩き教壇の前へと立つ。

そして、少しして静まった大講堂に向けて、覚悟を決めた俺は机に置かれているマイクのような拡声魔法具を手にとって声を出す。


「はじめまして、当学院魔法科学科長エリスの弟子として紹介に与っておりますクロノという者です」


教卓の前で礼をする俺に再び拍手が沸き起こる。

内心では心臓の鼓動で爆発してしまいそうなほど緊張している俺だが、いたって平然とした様子を装う。


「今回私が行います講義題目は「魔力を実際に見てみよう」というものになります」


俺が言い残して数秒間、大講堂のときは止まった。

そして時が動き出す瞬間、会場は騒然となる。



あれ?なんか俺まずいこと言っちゃったか?



視界の端に爆笑するケインズさんが写ったような気がした。


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