第十六話 授業内容のために実験
今回も説明チックです
学院全体の重要な緊急会議が入ってしまったというエリスさん。
急遽明日エリスさんの代わりの臨時講師として授業をすることになった。
「好きなように講義してくれてかまわない」
講義内容については急な要請なので、自分が好きなようにやってくれてかまわないという。
今回俺が担当する授業は「研究生1年目」を対象にした授業で「魔力入門」という講義だという。
以前エリスさんから説明があったように、学院の4年間ではひたすら定型魔法を覚えるカリキュラムが組まれている。
なので、学院卒の研究生一年目の学生達は魔力を「魔法を扱うための燃料」であると理解しているという。
俺は、授業計画を立てるために魔法研究所内にある「魔法練習場」を借りて、少し魔法の練習をすることにした。
エリスさんが普段の授業で魔力について扱っているらしいので、俺もそれに関する内容を授業でやることに決める。
「うーん、どんな講義が面白いかな……」
俺が日本で学生をやっているときも、延々と説明が続く授業よりも実験、スライド、動画などを交えたような講義の方が好きだった。
おそらく、座学においての学生の意見はこの世界でも変わらないはずである。
なので俺はあまり堅い感じの授業ではなく、ゆるい雰囲気で進む授業内容を考えることにした。
まず、今の俺に出来ることを確認する。
俺は魔法に関することは「無詠唱」「無適性魔法」「時間魔法」しか使えない。
あとは「古代語の解読」によって魔法書を読み解くなんてことも出来るが、そもそも内容を理解できていないので授業にすらならないだろう。
この中で授業で扱えそうなのは「無適性魔法」かなと思った。
「無詠唱」はそもそも魔力に対する知識がない学生には無理だ。
しかも、俺にはエリスさんのように魔力に関する詳しい知識も無い。
なので、人体実験を伴う無詠唱の授業など危険すぎるので論外である。
「時間魔法」はそもそも外で使うことは控えたほうがいい。
よって、消去法で「無適性魔法」に関する授業内容になった。
エリスさんに教えてもらった無適性魔法は「魔力をそのままの姿で扱う魔法」であったので、使い方によっては面白い授業が出来るのではないだろうか。
そもそも、魔力を燃料として意識している学生が、魔力を流れとして認識するためにはどうすればいいのか考える。
「そういえば、俺の両手に集まった魔力は虹色に光っていたな……」
俺は無適砲を撃ったときのことを思い出す。
体中から集まって圧縮された魔力は虹色の輝きを発していた。
ということは、魔力を体全体にある段階で圧縮させれば魔力の流れを可視化することが出来るのではないだろうか?
俺は試しに全身に流れる魔力を少しずつ圧縮していく。
だが、そのときあることに気づく。
「保存則のようなものが魔力に働くとしたら、もともと体内で圧縮されてるんじゃね?」
そうでないと、膨張し続けた魔力は体外へと漏れ出していることになる。
ううむ、体内の魔力を可視化することは難しいか。
魔力を圧縮して光らせる作戦はダメなので、何か他にいい方法は無いかなと考える。
あれこれと魔力について考えているときに、ふとエリスさんが読んでいた本の内容を思い出す。
「特定のルーンを用いて属性魔法を混合するのではなく、魔力を練る段階で魔力に属性を与えることで精度の高い派生魔法を使えるようになる……か」
初めて俺が研究所に行ったときにエリスさんが解読できずに苦しんでいた内容である。
この記述によると、「魔力を練る段階」というステップが存在することが分かる。
つまりは、俺のように魔力の流れをそのまま使うという方法ではなく、流れている魔力をさらに「精度の高いもの」へと変換する過程が存在するということだ。
「でも、これって手のひらの部分で圧縮している工程だよな?」
確かに、俺は体内の「魔力の流れ」から魔力を拾って手のひらに集めているだけである。
しかし、手のひらに集める段階で「魔力を圧縮」しているから、「魔力を練っている」ことになるのではないか?
俺はそこである仮説を打ち立てる。
「俺が行っていたのは「圧縮」であり、魔力を「練って」いたわけではない。
つまりは質の悪い魔力をビンに詰め込んでいただけで、ただ量というか密度が凄まじいだけの魔力だったということだ」
だとすると、魔力を「精錬」するようなイメージで質を良くするような工程が「魔力を練る」ということになる。
手のひらに集まった質の悪い魔力でも、量を集めれば虹色に光ったことから、魔力の質の中には「エネルギー量」のような項目があるはずである。
これは保存則の関係から、魔力の入れ物である体の中での収支は同じでなければならないので、「魔力を練る」ということとはあまり関係ないはずだ。
ならば、いったいどんな要素が「練る」ことに関係しているのか?
日本で勉強していたときは「分子同士の反発力」などの話しを聞いたことがある。
物質の最小単位は素粒子であるとかっていう話も聞いたことがあるが、高校生の俺にはいまいちよく分からなかった。
魔力の世界でも科学の世界と同じように、魔力を構成するより小さな単位が存在しているとしたら「魔力を練る」という表現もしっくり来る。
もし仮に魔力を構成する「魔粒子」のようなものが存在するとしたら、文字通り「魔力の流れ」が本当に体内に存在している可能性がある。
分かりやすくするための表現だと思っていたが、実際に「魔力流」なるものがあるならば、少し保存則の事情は変わってくる。
「魔力の流れをいろいろといじってみるか」
俺は魔力流に回転する力などを与えてエネルギーを増やせないか考えた。
もはや、当初の目的など見失って魔力研究を楽しんでいる辺り俺も「魔法研究者」らしいといえる。
体内の魔力流を水道水が渦を巻くようなイメージで回転させることを考える。
とりあえずやってみるかと思い、試しに魔力が渦を巻くイメージをしてみる。
「うお、なんだこれ!?体の違和感が凄いぞ!!」
今までの魔力流が穏やかな湖だとしたら、今の体内は山頂付近の激しい急流といった感覚である。
体中の魔力が暴れているような感覚を覚えた俺は、一度魔力の回転を止める。
すると、50mダッシュをしたような疲労感を体に感じた。
「なるほどな。魔力のエネルギーを増やすために変わりに「生命エネルギー」のようなものを燃やしているわけか」
簡単に言うとカロリー消費のようなものなのだろうが、こっちの世界でのエネルギー事情がよく分からない。
この前の無適砲のことを考えると、今感じた激しい魔力流はとんでもないエネルギーを蓄えていただろう。
生命エネルギーとは言い換えれば「体内の栄養」のようなものだろうから、魔力に変換したところでたいしたエネルギー量にはならないはずだ。
「これは、魔力の保存則理論が崩れたな」
そもそもが俺の推論でしかなかったわけだが、魔力に関係するエネルギーは一定であるという保障はないというわけだ。
だが、魔力が「量」として確認できていることは確かだから、ある程度は間違いではない。
ここまで考えた俺は、先ほどの魔力流を手のひらに圧縮して集めてみることにした。
まず、体内の魔力が回転するイメージを作った。
次に、体中に広がる魔力の激流を手のひらへと集めるイメージをする。
「ぐお!いつもの非じゃないくらい魔力が逃げ出していくぞ!!」
魔力が逃げないようにビンに蓋をするなんていう表現が通用しないほどに、魔力の勢いが激しい。
俺はある程度威力が圧縮率が下がることを受け入れて、手首ではなく、腕の付け根に川の流れをせき止めるダムのようなものを設置するイメージをする。
「なんとか魔力が腕の中に収まったな。しかし、気を抜いたら逃げていきそうだ」
腕の中に閉じ込めても尚暴れ続ける魔力流。
俺はさらにその中で手のひらに魔力を圧縮していく。
すると、どんどんと手のひらは輝きを増していき、程なくして虹色に輝く。
「いつもより、虹色になるスピードが段違いに速いな」
いつもの圧縮がスローモーションに見える程度には速かった。
そして、虹色になって少しすると俺は異変に気づく。
「なんか、虹色が薄くなっていってないか?」
手のひらに集まった虹色の魔力は、圧縮し続けるにつれて徐々にその色を失っているように見えた。
そして、最終的に透き通った虹色のような魔力へと変わっていった。
「これが純度の高い、練りこまれた魔力ってことか」
俺は手のひらに出来た高純度の魔力を見て、自分の仮説が正しかったことに満足感を得て少し気が抜けていた。
注意力が散漫になったところで、腕のダムが決壊して体内に高純度の魔力が逆流していく。
「おわ!!体の中がやばい!!」
体内に高純度の魔力が戻っていく感覚は不思議だった。
先ほどのように激流ではあるのだが、よく体に馴染む感覚であった。
よく分からないが純度の高い魔力は、体内を流れる時に受ける抵抗が少ないとかそういうことなのかもしれない。
そして、その瞬間とんでもないことが起きた。
「俺の体が光っている!!?」
腕から体の中へと戻っていった魔力は、俺の全身へと広がるように虹色の光を放っていた。
驚くことに、服の上からでもはっきりと魔力の流れが目視できる。
「これ講義でつかえそうだな……」
魔力流の存在を分かりやすく生徒達に伝えられるなと思った俺は、この一連の動作を講義中に紹介しようと思った。
全身の光は少しすると、魔力のエネルギーが薄まっていったのか、輝きを失いいつもの状態へと戻る。
一通り実験が終わって、倉庫から取り出したおやつのクッキーを食べて休憩しているとエリスさんが練習場へと現れた。
「もうそろそろ夜だから帰るが、クロノ君はどうする?」
まだ実験に時間がかかりそうか?と聞いてきたので、今終わったところですと言い練習場をあとにする。
明日の朝、また研究所に集まることになった俺達は、研究所の鍵を閉めて各々帰宅することになった。
宿に戻り、夕食を食べた俺は明日に備えて寝ることにした。
「ふう、明日は学校の先生か。本当に大丈夫なんだろうか」
いきなり魔法素人の俺が専門課程の生徒である「研究生」向けの授業なんてできるのだろうかと不安に思ってベッドに入る。
あれこれ考えてもしょうがないかと思っているうちに、俺は眠りへと落ちていった。




