第十五話 急すぎる話
今回もまた少し長めです。
魔法協会を後にした俺とエリスさんは、時間ももう遅いということで今日は解散することになった。
せっかくつきあってもらったのにすまないと言うエリスさんに、俺は問題ないですよと答える。
ポケットから布袋を取り出し、今日の分の報酬と言って律儀に渡してくるエリスさん。
「報酬のポーションはこれから君の倉庫にあふれかえることになるからその時な」
どうやら、在庫のほとんどを俺の倉庫にしまっておくことになるから、いつももらっていたポーションを後日大量に渡すということだった。
明日また集まることになった俺たちは途中まで一緒に大通りを歩き、各々の自宅の近くで別れる。
明日は学院の講師として必要になるものをいろいろと揃えに行くという。
街灯の光が煌めく大通りをしばらく一人で歩き、宿屋へと帰ってくる。
宿の扉を開けると目に入ってくるのは、やはり食堂の喧騒であった。
ちょうど夕食時に帰ってきた俺は、リュックを背負ったままご飯を食べていくことにした。
「あ!クロノさん!」
適当に席に着いた俺の元へ、ウエイトレスの少女が現れる。
いつものようにおすすめディナーを頼み、少女の背中を見送る。
料理を待つ間、俺は今日の出来事を思い出していた。
魔法協会長のウィルフさんに出会い、時間魔法を実演し、魔法研究者として協会に登録してもらったことを振り返る。
「しかし、そんなすごい人とフランクに話す仲のエリスさんはいったい何者なんだ?」
エリスさんが魔法研究者として優秀なことは知っているが、優秀なだけならばこれほどのコネもないだろうし、俺を魔法研究者として登録させるだけの権力もないだろう。
エリスさんも学院では結構偉かったりするのかな?などと考えていると、料理を持ってツインテールの少女がテーブルの方へと戻ってきた。
俺は夕食を取り終えると二階の自室へともどる。
部屋についた頃には、もう大分時間も遅くなっていたので明日の用足しに備えて眠ることにした。
日の出の鐘の音で目覚めた俺はエリスさんと研究所で待ち合わせをしているので、出かける準備をして朝食を食べに行く。
リュックを背負い食堂についた俺は、朝食を取り終えると宿の外へと出た。
朝の大通りを歩き、昨日とは違っていつもどおりの行列を作っているお菓子屋さんを横目に研究所の方へと向かう。
「お、クロノ君おはよう」
研究所の扉を開けると、店内で朝の開店準備をしていたエリスさんと出会う。
出かける準備をしてくると言い残して研究所の奥へと向かうエリスさん。
壁のポーション一覧表を眺めて待っていると、店番を任されたケインズさんと一緒に戻ってきた。
毎度毎度店番に立たされるケインズさんだが、いつ研究しているのだろうかと思っていると、
「俺なら、店番中に研究書を読んでるから気にしなくて大丈夫だよ」
とケインズさんが、まるで俺の心を読んでいるかのような返答をくれた。
そういうことで、俺とエリスさんが店番を放り投げて外に行くことに問題はないという。
なので、店番をケインズさんに任せて、俺達は用を足すために外へと出た。
外に出るなり、「まずは王立学院の研究者として指定されている制服のようなものを買いにいくぞ」とエリスさんに言われる。
俺は服を一着しか持っておらず、一応ロールバックを使って清潔にはしてあるが毎日同じ服を着ているのもあれかと思った。
「ついでに普段着も幾つかほしいです」
普段着を買うための手ごろな店は無いかとエリスさんに聞いてみたところ、これから行く店で買うこともできるぞと言われた。
どうやら、制服代はエリスさんが研究所の経費として負担してくれるらしい。
俺はその提案に申し訳なく思っていたのだが、研究所の方で服屋と定期契約をしているらしく、大幅な値引きがされるらしく問題ないとのことだ。
お言葉に甘えて制服を買ってもらうことになった俺は、お金に余裕がありそうなので安い普段着も幾つか買おうと思った。
喋りながらエリスさんと並んで大通りを歩いていると、魔法協会の近くにある大きめの服屋へとたどり着く。
「いらっしゃい」
扉を開けてお店に入ると、40代くらいの女性店員が俺達を接客する。
エリスさんが魔法研究者用の学院制服を買いに来たと告げると、店の奥の方へと案内される。
俺達は学院制服コーナーのような場所に連れて行かれ、試着してサイズを図ることになった。
「お連れ様の男性で間違いありませんか?」
この世界基準で行くと背が結構小さい俺が魔法研究者であるということで間違いないかと聞かれた。
どうやら、この世界では俺はかなり幼く見えるようである。
店員に「そうです」と答えて、俺は早速制服の試着を始めることにした。
しかし、なかなか俺の体に合うサイズの制服はなく、結局見つからなかった。
「困ったな……」
頭に手を当てて困った様子を見せるエリスさんに、店員さんがオーダーメイドですと少し日数をいただくことになりますと言う。
エリスさんが「旧式の制服でも構わないのだがないだろうか?」と言うと、少し確認してきますと店員は在庫を確認しに行った。
しばらくして戻ってきた店員は、
「旧旧式のローブ型の制服なら1着だけありました」
と言う。
どうやら、1世代前の旧式ではなく2世代前の旧旧式の制服であるらしい。
しかも、割とメジャーだった「ブレザータイプ」ではなく、いかにも魔法使いといった「ローブタイプ」の制服であった。
ベースとなる生地の色が真っ黒であり、下半身まですっぽりと収まるようなローズである。
フードもついており、イメージは完全に「黒魔術師」のそれだ。
「うむ、別に制服であればとりあえずは問題ない。新しいものは後日買うとしよう」
エリスさんに試着してみるよう言われ、俺は早速ローブを着てみることに。
実際に着てみると、服の内側の肌触りは綿のような感じでなかなか快適である。
袖の部分は大きく末広がりの形を取っており、腰の部分でキュッと縛る紅いベルトのようなものがついている。
この世界では珍しい黒髪もローブとよく似合うとエリスさんから好評をいただいた。
「こうしてみるとなんだか懐かしいな」
エリスさんが学生のときは1世代前の旧式の制服であったという。
学生時代の講師の中に、この2世代前のローブタイプを着ている先生がいたらしい。
とりあえずこの制服を買うことに決まったので、俺は普段着のコーナーを見ることにする。
適当に数着見繕って、試着してみて体にあうものを何着か買うことに決めた。
会計を済ませて店を後にする俺達は次の店へと向かう。
制服のほかに、胸に付けるバッジのようなものや黒い靴を買いに行った後に研究所へと戻ってきた。
店番をしているケインズさんに挨拶して、エリスさんと俺は倉庫へと向かう。
研究所の廊下を奥へと進んでいくと、観音開きの大きな扉があった。
「この先が倉庫になっている」
倉庫の扉を開けて俺達は中に入っていく。
倉庫の中は意外と広く、バレーボールコート程度のサイズはあった。
中に入った俺の視界に飛び込んできたのは、壁際に設定されている大量の木箱であった。
「もしかしてあれですか?」
件のポーションがもしやあれでは?と思った俺はエリスさんに恐る恐る聞いてみた。
無言でうなづくエリスさんは、山のように積まれた木箱の方へと歩いていく。
各ポーションが数万本ずつあると言っていたが、俺は実は半信半疑であったのだ。
一本10万ゴールド程度のものがそんなに大量に余っているとは考えづらかったのである。
これだけの量のポーションを収納するには、俺の四畳半程度の倉庫では難しい。
なので、
「ポーション用の新しい倉庫を作ってみます」
俺はポーション収納用の専用倉庫をディメンションで作ってみることにした。
頭の中で薬品庫のような収納スペース付の倉庫を思い浮かべる。
空間のサイズは高校の理科室程度の広さをイメージする。
その中にポーションを収納できるような棚を置ける限り配置した。
「この辺の壁にゲートを作りますね」
ポーション入りの木箱の山の近くの壁に向かって、俺はディメンションを発動させた。
すると、壁の表面にゲートができあがり白い薬品庫が中に見える。
そこからは、二人で手分けして中にポーションを運んでいたのだが、3箱目くらいであることに気づいた。
「ポーションの木箱を直接中に取り込めば良いのか……」
これに気づいたときは俺もエリスさんも変な声が出た。
俺達はポーションを運ぶのを中断し、木箱の方へと向かう。
そして、実際に木箱にディメンションを試してみるとあっさりと収納できた。
次々と収納していき、数百個の木箱が全部消えた。
エリスさんは大量の木箱が消えたことにとても感動している。
「本当に助かったよ。ポーションは常識の範囲内で好きなように使ってくれてかまわないからな」
どうやら、ポーションは薬品である以上廃棄するのにもお金がかかっていたらしい。
これだけの量のポーションを廃棄するための費用は結構馬鹿にならないのだという。
それと、収納したポーションはもともと売れないし使い道もほとんど無かったものなので好きにしていいという。
ただ、無料でばら撒くとか激安で売りさばくとかはやめてくれといわれた。
もちろん、そんな問題行為をして恩を仇で返すつもりはないので、俺も快く了承する。
ポーション整理が終わった俺達は、ちょうど昼休憩の時間となった。
エリスさんと一緒に図書室に向かうと、ケインズさんが既に中で待っていた。
ケインズさんには時間魔法が使えるようになった事をまだ伝えてなかったので、実際にディメンションでポーション達を見てもらうことになった。
「もう、なにから突っ込んでいいのか分からない」
もはや考えることを放棄した様子のケインズさんは「便利だしいいんじゃない?」と研究者らしからぬことを言う。
ケインズさんは魔法研究者の中でも、エリスさんや協会長のウィルフさんのようなタイプではないらしいことが分かった。
理論の構築ももちろん得意ではあるが、どちらかというと実験によって得られた結果がどうであれ、その事実をどんどん使って次へ進むのが得意なタイプらしい。
だから目の前に起きた現象については原理や仕組みが曖昧なままでも、ある程度色々と試していくというスタイルなのだという。
昼食を取り終えた俺は、今日既にやるべきことは終わったとエリスさんから告げられる。
報酬を持ってくるといってどこかへいなくなったエリスさんは、大きな袋を持って再び現れる。
「クロノ君も魔法研究者になったからな」
俺が魔法研究者として正式に協会に登録されたことにより、魔法研究者としての給与を払うことになったというエリスさん。
毎日渡すのも面倒なので、一月分をまとめて渡す形になるという。
こちらでも一ヶ月は30日間であるらしいので、日本で言うところの月給というわけだ。
袋の中には300万ゴールドが入っているとエリスさんは言う。
それを聞いた俺は思わず大きな声で「さ、さ、さんびゃくまん!!?」と叫び、コントみたいな動きをしてしまう。
この300万の中にはどうやら学院での講師費用も含まれていないらしい。
そこで、エリスさんはもう一つの袋を俺に渡す。
「こちらの袋には、講師としての給料である200万ゴールドが入っている」
あわせて500万ゴールドである。
あまりの大金に俺は全身から変な汗が吹き出た。
500万ゴールドって言うと、初めて冒険者ギルドに出向いた時に見た「ワイバーン討伐報酬」の額と同じじゃないか!
魔法研究者であり王立学院の講師であるというだけで、これほどの額の給料がもらえることに驚きを隠せない。
「本当にこんなものもらっちゃっていいんですか?」
どこかにドッキリと書かれた看板を持っているウィルフさんが立っているんじゃないかとか思ってしまう。
しかし俺の不安が的中することは無く、エリスさんは当然だと言って微笑む。
また、付け加えるようにエリスさんがとんでもないことを喋る。
「あと、急な話ではあるのだが明日から学院の講師をやってもらう」
報酬なんかより、何よりも俺が一番驚いた情報だった。
この人は本当に心臓に悪い。




