第十四話 魔法協会へようこそ
今回少し長めです。
エリスさんと研究所で合流した俺は、早速大通り沿いにある魔法協会へと向かうことに。
冒険者ギルドも大通り沿いにあるのと同じように、各協会の本部もだいたい大通り沿いにあるということだった。
大通りは謂わば街の中心とも言えるので、主要な施設はここに集まっているのだという。
研究所からしばらく歩いた所に魔法協会の本部があった。
魔法協会の建物は、どことなく無骨さを感じた冒険者ギルドとは異なり、いかにも魔法使いといったような派手な色合いと形状をしていた。
「とりあえず受付を済ませてくるから、適当にそのへんで待っていてくれ」
エリスさんは魔法協会の建物に入るなり、受付の方へと向かっていった。
一人取り残された俺は、人だかりのできている掲示板の方へと歩く。
掲示板の前へとたどり着いた俺は、魔法協会の掲示板に対して驚きを隠せなかった。
「電光掲示板!?」
冒険者ギルドの掲示板とは異なり、電光掲示板のようなデジタル式の掲示板であったのだ。
次々と情報が流れていく部分もあるので、やはりアナログではない。
俺は掲示板に流れている情報を一部読みとってみた。
「魔法研究最新情報か」
どうやら、魔法研究者達が発見したものや新しい論文などの情報がここで確認できるらしい。
魔法使いや魔法研究者達は、ここで魔法に関する最新の情報を確認するのだろう。
流れてくる情報にはタイトルのほかに、日付と所属団体と個人名が書かれている。
俺は何気なくその情報を眺めていたのだが、すごいことに気づいてしまった。
「最新情報の欄に書いてある団体名がほとんど エリス魔法研究所 になってるぞ」
エリスさんやケインズさんの名前はもちろん、他の研究員の名前も多く挙がっていた。
俺はすごいところに入ってしまったのかもしれないと一人で震えていると、受付を終えたエリスさんがこちらに向かってきた。
「またせたな、それじゃあ協会長室へと行こうか」
ん?ちょっとまて、エリスさんは今「協会長室」と言ったな?
つまりは魔法協会の中で最も偉い人のいる部屋だよな?
なんだか雲行きが怪しくなってきたことを感じつつある俺だが、今更後戻りは出来ないので覚悟を決めてエリスさんの後ろをついて行く。
受付の奥の階段を上り協会長室の前までやってきた俺たちは、協会の事務員の誘導のもと協会長室へと入る。
「おお、久しぶりだなエリス!元気だったか?」
協会長室の中へ入ると、眼鏡をかけた若い男性がこちらへと話しかけてきた。
どうやらエリスさんの知り合いのようで、エリスさんもそっちこそ元気だったかと挨拶をしている。
エリスさんと男性でしばらく盛り上がったところで、男性の関心は俺の方へと向いた。
「それで、そっちの男の子が君の弟子とやらかい?」
エリスが弟子をとるなんて驚いたよと言う男性に、エリスさんは「まあそんなところだな」などと答える。
若い男性は俺の近くに来てあちこちと体をさわっては、「うーん」と顎に手を当てて唸っている。
その未知なる物をとにかく探求しようとする姿勢、仕草と行動に俺は思わず、
「エリスさんの同類か」
と心の中で思ってしまった。
男性はしばらくすると「確かに魔力量は僕らと遜色ないレベルだな」と言いながら、机のある方へと戻っていった。
そして、彼は思いだしたように自己紹介をする。
「申し遅れちゃったけど、魔法協会会長のウィルフです」
なんとなくそんな気はしていたが、この男性が魔法協会の協会長であった。
エリスさんとは王立学院時代の同僚だという彼は、早速エリスの弟子が魔法を使っている所を見てみたいと言ってきた。
「こいつを納得させるためにも全力で無適砲を打ってくれクロノ君」
学生時代から気になったものは確認するまで気が済まないという気性であるウィルフさんを納得させなければ、これ以上事が進まないと言うエリスさん。
どうやらウィルフさんもエリスさんと同様に相当に熟練した魔法使いであるらしく、俺の全力程度ならば楽に止めることが出来るという。
エリスさんから許しが出た俺は、早速手のひらに圧縮した魔力をため込んでいく。
少しして魔力が虹色に輝き始めたところで、俺は無適砲をうつ合図を出す。
「いきますよ」
俺のかけ声とともに手のひらから虹色の光弾がウィルフさんに向かって飛んでいく。
エリスさんが「今回はあの台詞はないのか」と少ししょんぼりしていたことには気づかなかったことにする。
そして、発射された俺の無適砲がウィルフさんの元へと到達する。
だが、エリスさんの時と同様に、俺の無敵砲があっさりとウィルフさんの手によって無効化された。
ウィルフさんの展開する魔法障壁と虹色の魔力の塊が凄まじい音を立てながら拮抗する。
しばらく虹色に光っていた魔法障壁の中がだんだんと見えてきて、遂には手のひらを前に突き出すようにしていたウィルフさんの顔が現れる。
「おいおい、弟子ってレベルじゃないでしょうこの精度の高さは」
冷や汗を流しながら笑うウィルフさんの目は笑っていなかった。
左手の甲で額に浮かんだ汗をふき取りながらため息を漏らすウィルフさん。
そして、「思った以上に綺麗に圧縮された良い魔力だったよ」と言う。
「あのエリスが弟子をとったと事務員から連絡を受けたときは本当に驚いたよ」
でも、確かにクロノ君ほどの逸材なら僕がエリスだったとしても弟子にしていたよとウィルフさんは微笑む。
ウィルフさんの話によるとどうやら、エリスさんはかつて弟子を取ったことはなかったという。
弟子にしてくれと懇願する人は学院内から他国の魔法研究施設、果ては魔族領に至るまでいたらしい。
だが、そのいずれもなんだかんだと理由を付けて断っていたという。
「しかし、「無詠唱」に加え「超高精度の魔力圧縮」ができるとはな。
これほどの才能があるというのに、エリスが学生時代に遊びで作った「無適性魔法」しか使えないのが悔やまれるな」
ポロっと凄い情報をこぼしたウィルフさんは、俺の才能を凄く評価してくれていた。
俺は無適性魔法がエリスさん作であり、しかも「遊び」で作っていたものだったということが衝撃的だった。
やはり、エリスさんは魔法研究者の中でも規格外な存在であるらしい。
先ほどの説明でも、弟子は今のところ「俺一人」であるということも分かった。
俺が一人で色々と考えていると、ウィルフさんに対抗するかのようにエリスさんまでとんでもない情報を零す。
「実は、クロノ君は「時間魔法」の適性を持っているようなんだ」
ちょいちょいー!!それあんまり言ったらいけない事だって言ってたのエリスさんでしょう!!
時間魔法について喋っちゃって大丈夫なのかとドキドキしていると、エリスさんがそのことについて説明する。
「ウィルフは学生時代から今に至るまで信頼できる人間だ。それに、これから何かとお世話になるだろうから知っておいてもらったほうがいい」
お世話になるというのは、おそらく俺が「時間魔法」関連で厄介事に巻き込まれた際のことを言っているのだろう。
たしかに、魔法使いならば加入がほぼ必須な「魔法協会」の協会長が後ろ盾になってくれるというならばこれ以上頼もしいことはないだろう。
エリスさんの説明に一人納得していた俺はウィルフさんの様子がなにやらおかしいことに気づく。
「時間……魔法だと……!?」
全く同じ反応をつい先日エリスさんとケインズさんからいただいた俺は、その反応をさらっと流す。
ここで、少し悪戯心を覚えた俺は、先ほどの二人の爆弾発言に対抗してみようと思った。
「そういえば、この前使えないって言ってた「時間魔法」なんですけど、昨日の夜使えるようになりました」
俺がこの場に爆弾を投下した瞬間、二人は目論見通りに凍りついた。
決まったぜ!と思って心の中ではしゃいでいた俺だったが、一向に動かない二人を見ながら、
「あれ?もしかしてストップが発動している!?」
時間魔法のストップが発動してしまったのかと焦った俺は、固まったままのエリスさんのほっぺを人差し指でツンツンする。
すると、「ひゃん」という艶かしい声と共にエリスさんが復活した。
それからウィルフさんもエリスさんによって蘇生され、無事にもとの世界へと戻ってきた。
「それで、いったいどんな魔法が使えるようになったのだい?」
エリスさんは驚きを隠せないといった様子で俺に質問を投げかけた。
俺もこの人たちには隠してもいいことが無いだろうと思い、4つの魔法を習得して実際に使って遊んでいたことを伝える。
そして、実際に時間魔法を実演してみてもいいかと聞くと、エリスさんが無言でウィルフさんの方を向く。
「ああ、見せてくれないか?」
ウィルフさんから許可が出たので、俺は部屋の扉の方へと向かう。
それから、扉に向かって昨日のように「ディメンション」を唱える。
背後からその様子を伺う二人の視線を感じつつ、確かな魔法の手ごたえを感じた俺は扉に手をかける。
後ろからゴクリと息を呑む音が聞こえてくるような気がした。
「お、ちゃんとつながったぞ」
きちんと魔法が再現できるかちょっと不安だった俺だが、ディメンションが上手く発動し、白い空間内に先ほど入れたお菓子たちが整頓されて並んでいるのが発見される。
その結果に唖然とした二人であったが、少しすると驚きを上回る好奇心によって再び動き出す。
いつもは大人びた雰囲気を醸しだしているエリスさんも、このときばかりは子供のようにキラキラした目で白い空間内を覗いてキャッキャしている。
ウィルフさんも「これが、古代幻想魔法なのか……」と開いた口がふさがらない様子であった。
躊躇無く中に入っていく俺を見た二人は「中に入っても大丈夫なのか!?」と警戒した様子だったが、問題ないですよと俺が答えると二人も臆することなく中へと入ってきた。
さすがに3人で入ると狭いが、そんなことはお構いなしに壁や床、中に入っているリンゴやお菓子を確認している二人だった。
とりあえずひとしきり白い空間を堪能した一同は、協会長室に設置されている応接机へと戻り、倉庫の中に入っていたお菓子を食べながら話を再開することになった。
ウィルフさんが淹れてくれたお茶と、先ほど買ってきたケーキを食べながら時間魔法について議論する俺達。
二人は未だ興奮冷めやらぬ様子で、俺をそっちのけでマシンガントークを繰り広げていると思いきや、俺に質問攻めをする。
質問攻めが終わると間も無く次の問題が飛び込んでくる。
「他の時間魔法もみせてくれないか!?」
エリスさん顔が近いです!!
興奮した様子のエリスさんが俺の肩に手を両手を置いてぐいぐい近づいてくる。
ウィルフさんと向かい合う形で、俺とエリスさんは並んで椅子に腰掛けていた。
他にも時間魔法があることを思い出したエリスさんは、自分が師匠であるという立場も忘れて俺に魔法を見せてくれと頼んでくる。
ウィルフさんも是非見たいということなので、俺は昨日練習していた魔法を再び実演することになった。
一通り魔法を見せて、昨日読んだ魔法書の話や覚えるまでの課程なんかを説明した俺だった。
盛大に驚き、時間魔法のデモンストレーションに満足した二人だった。
エリスさんもウィルフさんも古代幻想魔法を生で見たのは初めてのことだったらしく、死ぬまでに見ることが叶うとは思っていなかったという。
というのも、そもそも古代語が非常に難解であることや、古代魔法についての記述が極端に少ないこと、さらには習得方法が不明なものや理解不能なものが多すぎることも原因であるという。
それに関しては俺も心当たりがありすぎるので、思わず共感してしまった。
特に、幻想魔法に関しては説明自体は多かったり、適性がある者の存在は確認されているがこの数百年で魔王以外の存在が使用している場面は観測されて居ないという。
それほどに古代幻想魔法は珍しいものなのらしい。
ひとしきり話した後で、先ほどの白い空間内でポーションを見て思い出した俺は、エリスさんに研究所に眠っているポーションを倉庫内に保管する案を提案する。
すると、エリスさんも願っても無いと申し出に応じてくれた。
後日研究所のポーション置き場に案内するとエリスさんは告げる。
朝方にやってきたはずだった俺達だが、白熱した魔法議論の末、気づいたときには日没の鐘が聞こえてくる時間になっていた。
二人とも熱中し始めると早口でどんどん話しを進めていくので、途中からついていけなくなっていた俺はクロックアップを使ってただただボーっと時間をすごしていた。
「ロールバックは便利だな」とか「クロックアップとストップを応用したらあれができそうだな」とか早速魔法の応用について考えては、仮設を立てて議論している二人のベテラン研究者の会話についていけるはずも無い。
「もうこんな時間か、そろそろ手続きを済ませないとな」
そして、とうとう思い出したかのように魔法協会への入会手続きと魔法研究者としての登録を始める一同であった。
手続きを済ませた俺は、大変長い魔法議論から漸く開放される。
ウィルフさんにお礼を言って、俺とエリスさんは魔法協会を後にした。
その様子を見ていた事務員や魔法使い達の間で「丸一日会長が付きっ切りの厳しい試験の末、魔法研究者として許された天才魔法使いクロノ」というとんでもない誤解が広まっていくのはまた別の話である。




