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異世界に転生して時間魔法しか使えない俺  作者: けろ
第一章 異世界生活編
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プロローグ(1) 冒険者ギルドへようこそ



俺は今「冒険者ギルド」の建物の前に立っている。



そう、あの有名な「冒険者ギルド」である。



異世界ファンタジーの定番であり、物語の起点となる転生主人公救済施設の冒険者ギルドである。

手ぶらで異世界に転生してしまった高校二年生の俺が、当ても無く街中を歩いている時に見つけた救済の張り紙が「冒険者ギルドで働いてみませんか?」というものだったのだ。

そして、他に生活費を稼ぐ当ても無くこの世界の労働事情について全くの無知である俺の足は、自動的にここへと向かっていたというわけである。

冒険者ギルドは大きめの石造りの建物だった。

というか、街全体が石造りの建物だらけなので、この世界では普通の大きめの建物としてカウントできるだろう。


そして、今迷うことなく冒険者ギルドの扉に手をかけ、中へと入る。


「ようこそ!冒険者ギルドへ!!」


などと歓迎の言葉を受けることはなかった。


ギルドの建物へと一歩踏み出した俺の目に入ってきたのは、巨大な掲示板の前に群がる人々と大量にある受付だった。

なんだかイメージしていた冒険者ギルドとは少し違う。

俺の暮らしていた日本で言うところの役所に雰囲気が少し似ていた。

しかし、異世界感全開の人々のせいで役所感も少ない。


「とりあえず受付の人に聞いてみるか……」


右も左も分からず建物の中でおろおろしていた俺は、人が並んでいない受付の人のところに向かう。


「すみません、冒険者登録をしたいのですが……」


コミュ障の俺は勇気を出して受付の人へ話しかける。

実を言うとこれが異世界で初めての会話である。

そもそも、言葉が現地の人に通じるかどうかなんて確かめてもいない。

もしも話が通じかなかったらどうしようなんて考えていたら、受付の人から返答があった。


「はい、それではこちらの登録用紙に必要事項を記入していただくのですが……」


やったぜ。どうやら話は通じたようだ。


「代筆は必要ですか?代筆は100ゴールドになっておりますが……」


まずいぞ、俺は異世界文字なんてわかんないぞ。

しかし、異世界に手ぶらでやってきた俺は100ゴールドはおろか1ゴールドも持っていない。

開幕で既に詰んでいることに気づいた俺。

全身にいやな汗が浮かぶのを感じる。

心臓がバクバクな俺があうあう言いながらキョロキョロと視線を動かしているとき、ある張り紙のことを思い出した。


(冒険者ギルドで働いてみませんか?)


そういえば、文字なんて分からないはずなのにあの張り紙は読めたよな……。

物は試しということで一つ挑戦する。


「用紙を見せてもらってもいいですか?」


そう言って受付嬢から記入用紙をもらう。


「ふむふむ、冒険者登録用紙……」


あれ?やっぱりなんか読めるぞ!

これはなんだか分からないが助かったと思い、試しに文字を書いてみる。

日本での名前が「黒野くろの 浩平こうへい」だったので「クロノ」という名前で登録する。

自分でも驚くほどスラスラと筆が動く。

あれか、異世界転生ものにありがちな自動翻訳的な奴か。


「書き終わりました」


登録用紙を提出した俺は受付嬢からギルドの説明を受ける。

ギルドに所属して依頼を受けるためには


①掲示板から好きな依頼の発注書を受付に持ってくる。

②実際に依頼をこなす。

③最後に受付に報告して終了。


という流れらしいことが分かった。

シンプルで分かりやすい。

依頼をキャンセルする場合や、失敗した場合にはなにかしらのペナルティがある場合があるので注意する必要があるらしい。

受付嬢がカウンターの向こうに消えて、なにやらA4サイズ程度の金属の板と針をもって戻ってきた。


「冒険者登録をするために血を一滴いただく必要があります」


どうやら、指に針を刺して血を金属板にたらすらしい。

血をたらすと金属板が淡く光った。

理屈は良く分からないが、これで俺の個人情報が冒険者ギルドに登録されるらしい。

金属板をどこかへ持っていった受付嬢は、ポイントカードみたいなものを持って帰ってきた。


「これが冒険者としての身分証明書となります」


Gランクと書かれたポイントカードのようなものを手渡された俺は、それをポケットにしまう。


「それでは、良い冒険者ライフを!」


受付マニュアルにありそうな台詞を受付嬢からいただいた俺は、早速人が集まる掲示板の方へと向かう。

掲示板の前までやってきた俺は、重たそうな鎧や武器を担いだ人や一般的な布の服を着た人の間から掲示板をのぞく。


「おい、これなんてどうだ?」

「ワイバーンの討伐か……」

「報酬が500万ゴールドだってよ、まあまあおいしいんじゃねえか?」


「ツノウサギ一匹2000ゴールドかあ……」

「半日で50匹はいけるとして10万ゴールドか」


いかにも冒険者といったグループの会話が聞こえてきた。

ワイバーンってあれだよな?翼の生えた竜でめっちゃ強いやつだよなおそらく。

やっぱりここは異世界なんだな。

しかし、500万ゴールドってどうなんだ?

代筆が100ゴールドだったあたり、物価のイメージは日本に居た頃とあまり変わらないような気がするから一つの依頼で500万か。

冒険者やばい。

ワイバーン一匹で1年遊んで暮らせるじゃねえか!

だが、戦闘能力など皆無な俺にはワイバーンの討伐はおろかツノウサギの討伐すら到底無理だろうから、もっと簡単で安全な依頼を探す。

討伐系の依頼から目を離して、掲示板の端の方にひっそりとある採集系の依頼の中から俺でもクリアできそうなものを探すことに。


「フタバ草の採集か……」


俺にもできそうな依頼を見つけた。

薬草としての効能がある「フタバ草」の採集依頼か……。

街外れの森の中に生えるフタバ草を集めるという内容の依頼であまり危険な魔物は出現しないらしい。

これなら俺でもできそうだな。

どうやらフタバ草一本につき10ゴールドで引き取ってもらえるらしい。

ワイバーンやツノウサギに比べたら遥かに安いが、なにより安全であるという点からこの依頼を選ぶ以外に選択肢はない。

魔物と戦ったことはもちろんないし、誰かと喧嘩したことすらない俺が討伐なんて無理だしな。

俺はフタバ草の依頼発注書を掲示板からはがし受付へと向かう。


「おいおい、あいつフタバ草の依頼持っていったぞ……」

「マジ!?あれって子供用のクエストだよなww」


フタバ草の発注書をはがした俺を見てあからさまに馬鹿にしたように笑う声が聞こえてきた。

まじか、子供用なのかこれ。

しかし、命が惜しい俺は恥も外聞も気にせずに受付へと向かう。


「すみません、これをお願いしたいのですが……」


異様に長い列ができている受付がある中で、比較的空いているこの受付に戻ってきた。

そしてさきほどの受付嬢に発注書を渡す。


「はい!あっ、でもこれ「フタバ草」の依頼ですがいいですか?」


受付嬢が不思議そうな顔でこちらを見つめてくる。やはりこれは子供用のクエストなのか……


「もしかして、これって子供用で俺じゃ受けることができませんか?」


そうだとしたらまずい。

これ以外にこなせそうな依頼は引越しの手伝いや、店番の手伝いなど他人とのコミュニケーションを要求されるものばかりだった。

異世界に降り立って間もないのでこの世界の人達と会話が成立するかどうか不安があることはもちろん、純粋にコミュ障な俺にはしんどい依頼だ。

たのむ、俺にフタバ草を拾わせてくれ!


「いや、受けることは出来ますが……。ただ、あまり受ける人がいないので珍しかったもので……」


受付嬢曰く、安全で簡単な仕事ではあるが比較的時間がかかる依頼らしい。

さらに中腰での作業なので意外と体力を使う依頼である上に、報酬が安いので子供くらいしか選ばない依頼だということだった。

しかしそんなことは、俺が異世界で安全な冒険者デビューを果たす上で何の障害にもならなかった。


「それじゃあこれでお願いします!!」


俺はフタバ草拾いが許された喜びで思わず受付のカウンターの机を叩いてしまい、後ろの方から笑い声が聞こえてきた。

受付嬢も少し驚きながらカウンターの向こう側へと居なくなり、しばらくすると「フタバ草拾いの手引き」と「素材回収用の革袋」を持って戻ってきた。


「では、こちらの革袋に回収したフタバ草を入れて持ってきてください。担当のギルド員が数を確認して報酬をお渡しします」


フタバ草の回収が終わったらまた受付に戻ってくればいいらしい。

俺は受付嬢に礼を言って、早速フタバ草を拾うために街外れの森へと向かうことにした。

ギルドの出口に向かう途中で、俺に対する嘲笑や明らかに馬鹿にした声が聞こえてきたが、持ち前のスルースキルでそれを潜り抜ける。


ギルドを出て、先ほどもらった手引書を見る。

手引書の後ろの方にフタバ草が生えている森への簡易地図が載っていたのでそれを参考に歩き出す。

こうして、なんとか生活費を稼ぐあてを見つけた俺は意気揚々と異世界冒険者デビューを果たしたのだった。



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