5 予感
「お、お巡りさん……っ!!」
階段下から駆け上がって来る声がする。
ノンストップで走り続けたのか、肩で息をする少女がやってきた。酸素が足りず絶え間なく吸い込む姿はかなり過呼吸気味だけど……何か揉め事でも起きたのだろうか。
「ど、どうしたんだい」
声音が震えてしまった。
正直、自分も冷静ではない。
あまり大事でないことを祈りたい……。
「私、河原で隣町の友達と、花火をしていてっ、友達がたくさんねずみ花火に火を着けた瞬間に……っ」
────まさか。背中に冷や汗が流れた。
ねずみ花火って、あのコマのようにクルクル回るヤバいやつじゃないか。単体なら小さいからまだ大丈夫だろうけど、それが複数で花火同士がぶつかれば……四方へ飛んでいく。恐ろしい。
「それが、ねずみ同士が何度もぶつかっていく内に離して置いていた吹き出し花火やロケット花火に引火しちゃって……畑が、ひまわり畑が」
身体からにじみ出る動揺が呼吸に出ている。
苦し藻掻く姿に必死に伝えようとする少女の話を聞き終える前に自分の体は勝手に動いていた。
「お巡りさん……っ!」
「君は手の空いている人を集めて消火活動を手伝いなさい。だが、お祭を壊してはいけない。穏便に村長か屋台にいる人に事情を話して指示を仰ぎなさい」
止めておいた自転車に向かう。
一刻も、一分、一秒。
早くあの花畑に向かわなければならない。
葵さんが愛したあの太陽の花畑に。神社にある一本の裏道はあのひまわり畑へ向かうのに最短、だけど危険が伴う。今は精神が冷静を欠いている。
これで大怪我なんて洒落にならない。
確実に向かうんだ。
僕は、葵さんの無事が確認できればそれで。
『緊急事態発生、島南東海岸側にある向日葵畑の火事が発生したという直接通報あり。応答せよ……』
トランシバーのボタンを押している指がわずかに震える。どうか────お願いします。この考えが外れてくれますように。
機械から『了解した、人員を向かわせる』と短い返事を聴いてから僕は地を強く蹴り、ペダルを踏み込んだ。