表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
79/207

79:魔法のお勉強



 魔力の暴走。それは身体の中にある魔力の流れが乱れ、抑え込む事が出来ず勝手に漏れだしてしまう現象。溢れ出た魔力はそのまま魔法の形となり、外部に影響を与える。一般の子供ならば火が出て止まらなくなるくらいで済むが、ルナのような魔王の場合だと魔力が強大過ぎる為、森を覆いつくす程の暴走が起こってしまう。

 魔力の暴走をなくす方法は幾つかあるが、無難なのは魔力を身体に馴染ませる事。これは時間を掛ければ身体が魔力に適応する為、成長と共に暴走はなくなるようになる。だがルナの場合はそんな時間はない。その間に起こる暴走だけでも十分危険だし、魔王程強大な魔力を成長と共に制御出来る保証はない。環境や設備の問題もあるし、時間に任せるという無責任な事は出来ない。

 他にもシェルがやったように補助魔法でルナの魔力の流れを抑える効果がある物もある。だがこれはあくまで一時的な物であり、根本的な解決にはならない。

 となるともう一つの方法、魔法を使い続ける事によって無理やり魔力を身体に馴染ませる。これが今ルナが出来る唯一の解決法である。身体に大きな負荷を掛けず、特別な設備なども必要としない。何よりルナも魔法の勉強をしている時は気が紛れる為、最良の方法と言えた。


「……と言う訳で暴走を防ぐ為の特訓をするんだが……まぁやる事はいつもと変わらないんだよなぁ」


 家の外にある柵に囲まれた庭。いつもそこではアレンはリーシャと剣の稽古をする場所となっているが、今回はルナと向かい合い、切り株の上に座りながら話をしている。

 今日はルナとの魔法の勉強の日である。と言ってもいつもシェルとしているような勉強とは違い、ルナが悩んでいる自身の力を抑える方法、つまり魔力をコントロール出来るようになるのが目的だ。だがその方法が別段特別な物でもない為、アレンは気が抜けたように頬を掻く。


「でも、それで魔力がコントロール出来るようになるんだよね?」

「ああ。とにかく身体に魔力を循環させて慣れさせれば良いんだ。そうすると自然と身体も強大な魔力に耐えられるようになる」


 切り株に座っているルナは落ち着かない様子でアレンにそう質問する。

 彼女からすれば自分の最大の悩みを解消出来るかも知れない希望の為、いつもよりもその姿勢は前のめりであった。それに気圧されるようにアレンは身体を引き、どうどうと両手を出してルナを落ち着かせる。


「とりあえずいつもやってるみたいに魔法の練習をしよう。簡単なので良いから繰り返しやってみるんだ」

「うん、分かった」


 何にせよこの解決策は続けなければ効果が表れない。アレンに言われた通りルナは胸の前に手を出し、意識を集中させる。シエルから教わった詠唱を行い、手の周りに青白い光が灯る。それと同時に彼女の手の平の中には氷の礫が出来上がっていた。ルナはそれを見て満足そうに頷き、地面に転がす。そして再び意識を集中させ、二個目の氷の礫を作り出した。


「よし、良い調子だ。じゃぁ今度は同じ魔法で良いから複雑なのを作ってみな」

「うん」


 アレンは次の指示を出し、ルナも言われた通りまた同じ魔法を詠唱し始める。氷の造形魔法。この魔法は使用者の十分なイメージがあればどんな形の氷も作り出す事が出来る。ただし複雑な物を作ろうとすればそれだけ魔力を消費し、完璧な想像力がなければ作り出す事は出来ない。

 ルナはぐっと腕に力を込め、造形に取り掛かる。この魔法は発動中の間でも魔力を消費する為、通常なら皆は時間を掛けないよう、短時間で造形を完成させようとする。だが今回の目的は魔力を消費する事が重要の為、ルナからすれば時間を掛ければ掛ける程良かった。

 ルナの小さな手の中で氷の結晶が集まって行き、やがて一つの形を目指して大きくなっていく。それは巨大な翼を広げている鳥であった。透き通るような氷で構築され、美しく輝いている。


「ふぅ……出来た!」

「おー、よくそんな綺麗なのが出来たな。流石ルナだ」

「えへへ……」


 アレンが褒めるとルナは照れくさそうに髪を掻く。

 ルナから氷の鳥を受け取ってじっくり見てみるとその鳥は本当によく作り込まれていた。翼の羽一本一本が再現され、鳥の複雑な骨格も意識されて鳥足も見事に造形されていた。だがアレンはこの鳥がなんの鳥かが分からなかった。通常の鳥にしては翼が大きすぎるし、どこか恐ろし気な雰囲気も持っている。アレンはルナがどんなイメージの元にこれを作り上げたのか気になったが、それは今は置いておく事にした。


「今のは大分魔力を消費しただろう。こういう地味な魔法で良いから、しばらくは魔力をたくさん消費するようにするんだ」

「うん。ありがとう、お父さん」


 ひとまず目標のラインには達しているのでアレンはこの調子で魔力を消費し続けるようルナに指南する。彼女はこれで自分の力を抑えられるかも知れないと喜んでいるのか、どこかその表情は明るかった。

 それからもルナは氷の鳥を作り出し、それを溶かしてはまた新しいのを作るのを繰り返した。流石は魔王の膨大な魔力なだけあってルナは何度魔法を使っても疲れた様子を見せず、むしろ楽しそうであった。普段あまり見られないルナの子供らしい仕草にアレンも安堵する。


「ところでルナ……」

「ん、なにー?」


 ふと彼はある事が気になり、ルナに話しかける。彼女も魔法を発動し続けながら顔だけアレンの方に向け、耳を傾ける。


「何で俺に習いたかったんだ?別に俺じゃなくてもシェルも魔力の制御の仕方しってるし、向こうの方が色々詳しいぞ?」


 元々この特訓はルナがアレンにお願いして始まった事だった。だがアレンは魔力の細かい制御はシェルに任せるつもりだった。もちろんアレン自身も色々指示するつもりだったが、シェルは大魔術師なのだ。専門である彼女に任せた方がルナも安心出来るはずである。そう疑問に思い、軽い気持ちでそう尋ねた。


「え~、だって……一応シェルさんからはコツとかは教えてもらったし、それに……」


 ルナは魔法の使用を一度やめると作り掛けの氷の鳥を手にし、照れているのを隠すように指で撫でる。その様子を見てアレンは顔を傾ける。ルナは少し迷うように目を泳がせた後、アレンの方にじっと視線を向けた。


「それに、お父さんと一緒に魔法の勉強がしたかったから」


 ルナからすれば少しでもアレンの傍に居たかった。それが本音だ。シェルが来てからは彼女の方が専門的な知識を持っている為魔法の勉強はシェルが請け負うようになり、ルナがアレンに勉強を教わる機会は少なくなってしまった。仕方ないとはいえルナはそれを寂しく思っていたのだ。ルナの本音を聞き、アレンは頬を掻きながら笑い声を上げる。


「ははは、そうかそうか。そりゃ嬉しいな……と言っても俺がルナに教えられる事なんてあんまないぞ?」

「そんな事ないよ。私、お父さんとの勉強楽しいもん」


 ルナの言う事はアレンも素直に嬉しく思ったが、複雑な気持ちもあった。

 この数年でアレンがルナに教えられる魔法の事は殆ど教えた。魔法の実力的な面を見ればルナの方が上だ。他に精々教えられる事があるとすれば、ほんのちょっとしたコツ程度で、それを教えるくらいならシェルが専門的な知識を教える方がよっぽど有意義なはずだ。だがルナはそうは思わなかったらしい。もっと子供目線で考えないとな、とアレンは反省し、ルナの頭をぽんと撫でた。


「それじゃ、今度からはまたこうやって時々教えるよ。そんな大した知識はないが」

「ううん、それで良い。それが一番楽しいから」


 アレンがそう言って約束するとルナは安心したように笑顔を浮かべる。

 それからルナはご機嫌で魔法の特訓を再開し、次々と氷の鳥を作り出して行った。不思議な事に先程よりもその氷の鳥は更に精密に作り出されており、まるで芸術作品のようであった。アレンはついこれで商売でも出来ないかと考えていた。すると、家の玄関の方から足音が聞こえて来た。


「あ、先生。そこでしたか……!」


 白フードを被り、杖を握ったままのシェルが慌てた様子でアレン達の方へと向かって来る。それに気が付いてルナは魔法を一時中断し、アレンも切り株から立ち上がる。


「どうかしたのか?シェル」

「あの……実は、罠の方に反応がありました。多分鼠です」


 シェルは駆け寄るとチラリとルナの方を見ると視線をアレンの方に戻し、そう報告する。その言葉を聞いてルナは首を傾げるが、アレンはなるほどと目を細めた。

 罠に反応があった。つまりシェルが仕掛けた罠魔法が発動したという事だ。鼠というのも霧の盗賊団の事。遂に奴らがやって来たのである。


「鼠ってなんのこと?お父さん」

「ん……森で魔物が出ただけさ。ちょっと出掛けて来るから、ルナは特訓を続けてなさい」

「分かった……気を付けてね」


 ルナに詳しい話はせず、アレンは切り株の近くに布に包んで置いてあった武器を取り出し、それを装備し始める。準備が整うとアレンはすぐ帰って来るとルナに言い残し、シェルと共に走り出した。村の門を出て森の中に入り、アレン達は罠を仕掛けた所へと向かう。その最中、アレンは走りながらシェルに確認を取った。


「それで、現状はどうなってる?」

「一個目の箇所に仕掛けた罠と二個目の箇所のが発動しました。多分まだ麓の辺りに居るはずです」


 シェルが罠魔法を仕掛けた箇所は全部で七個。その内の二個が発動したという事は中間地点辺りにはまだ到達していないという事。アレンは走りながら口元に手を当て、考えを纏める。


「あの辺は魔物の巣が多い所だな。ラッキーと考えるべきか、厄介な所に入ったと思うべきか……」


 盗賊団がどのルートから入っても大丈夫なように罠は十分な数を設置しておいた。シェルの情報では盗賊団が通ったルートは一番魔物の出没が多い所であった。これはよそ者である盗賊を魔物が襲ってくれると前向きに考える事も出来るが、逆にこっちにも危険があると考えられる。


「とりあえず罠が発動した所に行こう。頼むぞ、シェル」

「お任せください。先生」


 アレンはシェルにそう頼み、彼女もそれに力強く頷く。二人は駆け足で木の根っこを飛び越え、山を下って行く。アレンは静かに腰に携えている剣の柄を握り絞めた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ