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6:暴れケンタウロス



 ケンタウロス。馬の下半身に人間の上半身を持った魔物。しかしその上半身は筋肉で覆いつくされ、とても人間とは思えない肉体をしている。更に顔は魔物らしく醜く、頭からは二本の角が生えている。当然言葉は話さず、馬のような鳴き声を上げる。


 馬の下半身を持っている事から移動速度は速く、長距離から一気に迫って来て体当たりを喰らえばひとたまりも無い。その事から冒険者でも生半可な実力では倒す事は出来ず、少なくとも中級程度の実力を持つ冒険者が五人揃わなければ倒せない敵であった。


 だがケンタウロスにはある弱点があった。隊長格である兵士の男はそれが分かっていたからこそ、探索用の装備でも十分勝機があると判断してケンタウロスに挑んだのだ。


「ブルゥゥウゥァアアア!!!」

「フン……薄汚い魔物風情め。この剣の錆にしてくれる」


 馬と同じように鳴くケンタウロスを見ながら兵士の男は剣を構え、部下に散らばるように伝えた。敵は魔法や範囲攻撃を持たない魔物。散らばれば必ず一人に標的を絞ってくる。それならば当然、ケンタウロスの弱点も丸見えになるのだ。


「ブルルルルル!!」

(クク、やはり〈予備動作〉をして来た……丸わかりなんだよ、単細胞が!)


 ケンタウロスの弱点。それは分かり易い予備動作。ケンタウロスは馬の脚力を活かして体当たりを放つ時、必ず予備動作として大きく脚を上げる。それさえ分かってしまえば後は進行方向に体当たりをしてくるだけの為、避けるなりしてしまえば後は簡単にカウンターに繋げられる。そしてこの兵士の数。袋叩きにしてしまえば一瞬で勝負は着く。兵士の男は余裕の笑みを浮かべながらケンタウロスが繰り出すであろう体当たりを待った。しかし、現実はそう甘くはなかった。


「ブルゥァアアアアアアッ!!」


 突っ込んでくるかと思われたケンタウロス。しかし直後上げた前足を地面に思い切り叩きつけると、ケンタウロスの角が輝き、そこから雷が放たれた。


「なっ……雷……?! うぐがああああああ!!!?」


 体当たりが来ると思っていた兵士の男は全く別の攻撃に対応出来ず、そのまま真正面から雷を喰らってしまった。ごほっと黒い煙を口から吐き出し、彼はその場に倒れる。それを見て兵士達は顔を絶望に染めた。


「た、隊長……?!」

「や、やばい! 隊長がやられた! 逃げろおおぉぉぉ!!」


 司令塔が居なくなった兵士達は途端にケンタウロスを恐れ始め、バラバラに逃げ出した。そもそも自分達のリーダーである男が一瞬で負けたのだから、ただの一般兵である自分達が敵う訳が無いのだ。そう考えて兵士達は必死に逃げた。村がどうなるかも考えずに。そこへ丁度追い付いたアレンがやって来た。雷を放ったケンタウロスを見て納得するように目を細める。


「やっぱりか……あれはただのケンタウロスじゃない。雷魔法が使える〈サンダーケンタウロス〉だ」


 最初見た時からどこか普通のケンタウロスとは違うと思っていたアレンは今の光景を見てようやく納得した。ケンタウロスの亜種であるサンダーケンタウロス。見た目は殆ど同じだが、僅かに生えている毛が金色だったり、角が通常より歪な形がしていたりと僅かな違いがある。先程は遠目だった為アレンは判別出来なかったが、こうして間近に見た事、そして事実雷魔法を使った事でようやく確証を得る事が出来た。


「あ、あんた! 早く逃げろ! もう奴は我々の手には負えない!」

「そうはいかんよ。こんな奴が村で暴れたら、貴重な特産品をもう交換出来なくなっちまう」


 逃げている途中の兵士がアレンにそう声を掛ける。しかしアレンは逃げるつもりなど毛頭なかった。横で倒れている隊長の男の首筋に手を当て、まだ生きている事を確認するとほっと安堵の息を零す。そして持っていたボロ剣を構え、ケンタウロスと対峙した。


「それに……ケンタウロスなら昔よく狩ったしな」


 二ッと笑みを浮かべてアレンはそう言うと。風のごとく走り出した。もう四十代の男性とは思えない程勢いのある速さ。すかさずケンタウロスが前足を上げて近づいて来るアレンを踏みつぶそうとした。しかし逆にアレンは姿勢を低くしてケンタウロスの懐に滑り込むと、そのまま背後を取ってケンタウロスの脚にボロ剣を振るった。 

 ギャリン、と鈍い音が響く。流石は魔物なだけあって皮膚もかなり硬い。アレンが持っているような年期の入った剣では切断するのは難しかった。


「ちっ……」

「ブルゥゥァアアアアアアア!!」


 反動でアレンは脚を止めてしまう。そこをケンタウロスは後ろ脚でアレンを蹴飛ばそうとした。しかし寸での所でアレンはそれを避け、ゴロゴロと転がりながらケンタウロスから距離を取った。ケンタウロスも先程の兵士達とは違う事を本能的に感じ取ったのか、荒々しい雰囲気を落ち着かせ、静かにアレンの事を睨みつけた。


(やっぱり身体が軽い……冒険者だった頃みたいに思ったように身体が動いてくれる)


 ふぅと一度息を吐いてからアレンは自分の身体を見下ろしながらそう心の中で呟いた。

 いつもならこんな激しい動きをすれば腰か脚がやられるというのに、息一つ乱れていない。自分の調子が良くなっている事に嬉しく思いながら、アレンはケンタウロスと対峙したまま集中力を高めた。


「ブルゥゥアアアアア!!」

「ッ、また雷魔法だ! 危ない!」


 先程と同じように雷魔法を放とうと前足を上げたケンタウロスを見て兵士が声を上げる。アレンもそれには気付いていた。だが速さが特徴である雷魔法を避けるのは難しい。アレンはその場から離れようとはせず、逆に手を突き出すと魔法を詠唱した。


「水の盾よ! 我を守りたまえ!!」


 アレンがそう詠唱を終えると同時に手の先に水の盾が現れ、ケンタウロスが放った雷魔法を防いだ。雷魔法は水魔法と相性が悪い。特に防御に特化した水の盾ならば雷を分散して魔力を大きく消費せず防ぐ事が出来る。アレンは昔サンダーケンタウロスと戦った事からそう学習していた。


「ッ……あんた、魔法が使えるのか?」

「ちょっとだけな……よっ!」


 素早く高度な水魔法を使って見せたアレンを見て兵士は驚愕の表情を浮かべる。今アレンが行ったのは詠唱の簡略化。本来ならば長い詠唱を終えなければ魔法は正しく効果を発揮しない。簡略化が行えるという事は十分な効力を発揮しない状態でも賄える程の魔力を持っているか、高い技術力があるかである。


 先程自分達の隊長があれだけ馬鹿にしていたが、ひょっとしてアレンという男は凄い冒険者なのではないかと兵士は思い始めていた。

 そんな事を考えている間にもアレンは動き出し、再びケンタウロスに近づく。本来なら遠距離魔法である雷を打ってくる敵など怖くて近づけないものだが、アレンの走りには一切の迷いが無かった。ケンタウロスは簡単に距離を詰められ、そしてーーーー。


「終わり、っとぉ……!」


 剣を思い切り振るい、ケンタウロスの頭に叩きつける。同時に剣は粉々に砕け散り、ケンタウロスは気絶したのかその場に崩れ落ちた。敵が沈黙した事を確認してアレンはふぅと息を吐き、砕けてしまった愛用の剣を見て少し寂しそうな表情を浮かべた。


「す、凄い……あの人、隊長を倒したケンタウロスをあっさりと倒しちまいやがった……!」

「隊長は馬鹿にしてたけど……あの人って、本当は凄い冒険者なのか……?」


 恐怖が去った事を知って逃げ出したり隠れていた兵士達が戻り、一切息切れしていないアレンを見て驚愕の表情を浮かべている。そんな周りの視線は気にせず、アレンは倒れているケンタウロスを見下ろしながら神妙な表情を浮かべていた。


「…………」


 何かがおかしい。このケンタウロスと戦っている時に感じた違和感。最初のあの暴れよう。普通に魔物と戦う時とは何かが違う。アレンはそう感じていた。その疑問を探るように彼は自身の髭を手で弄った。


(このケンタウロスは魔物除けも気にせず村の中に侵入して来た……それはつまり、魔物除けを気にする余裕もない程切羽詰まった状況だったからか……?)


 魔物除けは魔物が苦手とする匂いを放つ特別な薬である。撒いておけば大体一か月くらいは保つものだが、このケンタウロスはその境界線を軽々と越えて来た。そして村で暴れている時のあの慌ただしい様子。あれは人間を襲うというよりも恐怖で暴れていたようにも見える。長い事魔物と戦って来た事からアレンはケンタウロスの異常にも気づいていたのだ。


(最近の魔物の増え方と何か関係がある気がするが……まあ、考えても分からんか)


 魔物達のおかしな動きにアレンは疑問を抱きながらも、結局は答えは出せずにどうでも良さそうに肩に置いていた剣を下ろした。ひとまず危機は去ったのだ。その事をまずは喜ぼう。ふと遠くからアレンの友人である村人の男が荷物を持ちながら手を振って近づいて来ていた。アレンも笑みを浮かべながらそれに手を振って返した。


 それから兵士達は気絶した隊長を連れて王都へと戻って行った。その帰り際村人の男があっさり負けてしまった隊長をかなり馬鹿にしていたが、肝心の隊長の兵士は気絶している為、意味は殆どなかった。

 見事ケンタウロスを退けたアレンは村中に感謝され、是非とも宴を開きたいと申し出を受けたが、家で子供達が待っているからと答えてその申し出を遠慮した。その代わり村の特産品で作った可愛らしい羽のアクセサリーを二つ貰った為、それをリーシャ達のお土産にする事にした。


 ケンタウロスでちょっとした騒ぎになった為、村から出るのが少々遅くなってしまった。もう空は暗くなり、大分予定が遅れてしまった。今頃リーシャ達はベッドで寝ている頃だろうか。そんな事を考えながらアレンは山を登り、ようやく自身の村に辿り着いた。

 流石に休みなく歩き続ければ多少は疲れ、アレンはため息を吐きながら家の扉を開けた。するとーーーー。


「「おかえりなさい!」」

「た、ただいま……」


 てっきり眠っているとばかり思っていたリーシャとルナは満面の笑みを浮かべてアレンを出迎えた。まだ起きていた事に驚き、アレンは意外そうな顔をしながら二人の頭を撫でた。


「まだ起きていたのか?帰りは夜になるって言っただろう」

「だって~、父さんに何かあったんじゃないかと思って心配になって……」

「私も……心配で眠れなかったから」


 どうやら中々帰って来ないアレンを心配に思って二人は起きていたらしい。よく見ると目の下には隈もある。せっかく成長期の女の子が夜更かしなんかしてはいけないとアレンは怒ろうと思ったが、そもそも心配させてしまった自分が悪い為、やれやれと首を振った。


「それは心配掛けさせたな、ごめんよ……ほら、おみやげだ」

「わー、綺麗ー! ありがとう父さん!」

「ありがとう……お父さん」


 アレンはお土産の羽のアクセサリーを取り出すと二人にそれを渡した。リーシャは青色の羽、ルナは赤色の羽のアクセサリーを。二人共大層それが気に入ったらしく、服の胸部分に付けてきゃっきゃと笑みを浮かべていた。アレンはその様子を見て満足そうに笑い、家族は良いものだなと改めて感じた。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 王国兵が勇者を探す為に(もとい誘拐する為)来たタイミングで丁度良くケンタウロスが来て有耶無耶になっている……。 これは良い仕事をしましたねケンタウロス君! [気になる点] 勇者探しています…
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